1、死体を喰らう男グラヨンベスパ
街中の駐車場は、墓場に似ている。散歩していて、人の気配が無い空間があると、だいたい寺……に付随した墓地、あるいは駐車場だった。
夢があるから生きていられる、そう思っていた。夢を失ったが、生きていられている。
無為に散歩していると、古都では時々変わった奴に出会う。墓地に似ているせいか、そいつは駐車場にいた。
「モガーーー!」
ボサボサの髪、泥のついた服、そして真ん丸い口。背丈は六尺はあるだろうか。痩せた体だが、威圧感がある。そんなヤツが、襲いかかってきた。
「うわあ!」
ガッ!
「ぎゃべらっ!」
……弱い。僕は、あまり強くはない。だが、こいつはいくらなんでも弱すぎた。
「ギョゲッ!俺、グラヨンベスパ。死体、喰うの。でも、ホネしかない。飢えてる」
「ええと、俺、三輪。死体、喰わない。……あー、訂正。人の死体、喰わない。飢えてる」
口調を真似て自己紹介してみた。お互い、飢えてる。ああ、なんか食いたい。人の死体はナシだけど。
「お前、真似するな」
「じゃあ、しない。で、なんで襲いかかってきたの?」
普段は初対面のヒト?には、ですます調で話すけれど、いきなり襲いかかってくる様な相手にはこんなでいいだろう。
「俺、ホネ、喰えない。だから、死体、作る。俺、死体、喰える」
「ほう。つまり君は、初対面の僕を殺して死体に変えて、喰おうとしたと」
「そう!お前が、言った通り」
……このヤロウ。見た目の威圧感に萎縮したこともあり、妙に腹が立った。
「お前、目付き怖い。何、するつもりだ?」
「いや、もう一度殴ろうかと思ってね」
打つ、ではなく殴る、なので、手加減はするつもりだ。
「ややや、やめろ。ホネ、やるから」
「いらん」
ジリジリと間合いをつめた。
ヒュッ……パカーン!
目の前に、頭蓋骨が飛んできた。そして、地面に当たって砕けた。
「あたしの夫をいじめるなら、死んでもらうよ」
血のように赤い服を着た、目のつり上がった美女がいた。右手に頭蓋骨、左手に出刃包丁。
「ああ、うちのが迷惑かけたね。あたしは、ゼッタニードル。『死体を喰らう男グラヨンベスパ』の妻さ。食屍鬼仲間からは『死体を喰らい尽くす女ゼッタニードル』なんて呼ばれているね」
「僕は、三輪。邪鬼だか汚鬼だかですね」
「ああ、グラヨンベスパと話す時の口調でいいよ。すまないね。あたしたちは、一体死体を食べれば二百年位は平気なんだけど、ここ百八十年位地下でのんびりしてたら、火葬ばっかりになっちまってさ。飢えてるんだよね」
「ごめん、三輪。腹、減ってた」
食屍鬼の世界も大変だ。
「あたしは、ホネも喰えるから大丈夫なんだけど、旦那は肉だけだからねえ。ホントは、新鮮な死体は不味いんだけどね」
「お前、特に不味そう」
「じゃあ、喰おうとするなよ」
食屍鬼どもとの話を終え、散歩の続きをしようとした時だった。
ギョララララ!
ギョララララ!
ギョララララ!
頭部に発電所を表す地図記号と「金」あるいは「銀」の文字が書かれたモノが、合計3体現れた。
政府が、無能者を更正させるという名目で導入した殺戮機械デンキパイロットだ。色によってタイプが違う。 ちなみに政府が言う無能者とは、自分たちの邪魔になる者と、お金を稼げない者らしい。
「無能者ヲ排除シマス」
「無能者ヲ排除シマス」
「無能者ヲ排除シマス」
どうやら、僕と食屍鬼どもを殺すことにしたらしい。




