第6話 塩の健司
授業が終わると、私は育美を誘った。
「輸入食品のお店に行くわよ」
「別にいいけど」
「チーズの補充と、新しいチーズ料理の研究をしなくちゃね」
「研究熱心なのは感心だわ。付き合うんだから私にもなにか奢ってよ」
「別にいいけど」
こうして2人でお店に向かった。
するとお店に行く途中、2人の男が私たちの行く手を阻む。
「待っていたぞチーズの加奈子。お前に試合を申し込む」
「あんたたち誰?」
「俺を知らないだと? 俺は塩の健司。マヨネーズの絵美やアスパラガスの信二、トマトの由衣の、いわばボスだ」
「なんですって。なんで私に挑んでくるの?」
「お前が調子に乗っているからさ。しょうゆの北斗や寿司の大輔を倒してから試合で相手を倒しまくっているだろ。我らの野望に邪魔なんだよ」
「マヨネーズとかは、そっちが勝手に挑んできただけでは」
「うるさい。とにかく、俺たちと試合をしろ」
「いいけど、内容は?」
「おい。宗一郎」
「はい。健司様」
「こいつは鯛の宗一郎。俺の今回のパートナーだ」
「タッグマッチ。私は1人よ。勝手に2人で来るなんて卑怯よ」
「連れがいるじゃないか」と育美を見る健司。
「この子は一般人よ。巻き込むなんて最低」
「うるさい。誰か1人連れてこい。3品で勝負だ。場所はそうだな。そこのレストランでいいだろう」
そう言うと、健司と宗一郎がレストランに向かう。
今から広志を呼んでこないと。
あっ連絡先聞いてなかった。
どうしようと困っていると、1人の女子生徒がやってきた。
「私でよければ協力するわ」
トマトの由衣であった。
「あなた協力してくれるの?」
「ええ。この前の試合であなたはトマトの可能性を見つけてくれたわ。そのお礼よ」
「では有難く。由衣、塩を倒すわよ」
私たちもレストランに向かう。
すでに塩の健司と鯛の宗一郎が調理場を使っていた。
塩の健司がトマトの由衣を見て「由衣、お前裏切るのか」
「裏切るもなにも、一方的に私を使ってただけじゃない」
「ちっ。まあいい。加奈子と由衣に制裁を加えてやる」
「何言ってんの。チーズこそが究極の食べ物よ」
「加奈子。塩の歴史は1万年以上なんだぜ。チーズとでは格が違う」
「うっ。歴史はあるようね。でもそのわりにはあまり発展してないようだけど」
「くそ。しかし塩は、素材の旨味を引き出せるのさ。今回の鯛も塩によって、数段グレードアップする」
「ああそう。今、私たち料理の打ち合わせをしてるから、黙っててくれない」
私は由衣と何の料理にするか話し合った。
しばらくして、従業員が店内で食事をしているお客にアナウンスをする。
「これから塩と鯛対チーズとトマトによる試合を行います」
突然の発表に最初は唖然としていたお客も、次第に歓声へとかわる。
審査員の3人が席に着き、料理対決が始まる。
「塩のすごさを見せてやる」
「チーズとトマトの相性の良さを見せてあげるわ」
「まずは俺からだ。1品目は明石鯛のヒマラヤ岩塩プレート」
最高級といわれる明石鯛をヒマラヤ岩塩プレートで焼いたものだ。
あまりのすごさに会場がどよめく。
「これが俺の実力だ!」
私は言葉が出なかった。
これは強敵だ。
でも私たちも負けられない。
「こちらの1品目は トマトとモッツァレラのラザニアよ。トマトソース、モッツァレラ、リコッタ、パルミジャーノなどを重ねて焼いたわ」
しかし、先ほどの岩塩プレートと比べると反応が悪い。
「俺の2品目は鯛の塩窯焼きだ」
鯛を大量の塩で包んでいる。
塩の塊を割ると鯛が出てくるのだ。
会場からは、またも見た目の良さに歓声が起こる。
「私たちの2品目は、トマトのファルシよ」
大きなトマトをくり抜いて、モッツァレラやリコッタ、ひき肉などを詰めてオーブンで焼いたものだ。
「俺の3品目は鯛の塩蒸しだ」
「私たちの3品目はブッラータと完熟トマトのサラダ」
ブッラータはイタリア原産のフレッシュチーズである。
大きなブッラータを丸ごと中央に置き、甘いトマト、生ハム、バジル、オリーブオイルを合わせたものだ。
レストラン内のお客が意見を言い合っている。
審査員がそれぞれ食べ終えた。
いよいよ結果発表だ。
「審査員、料理長の結論は塩と鯛。明石鯛のヒマラヤ岩塩プレートは見た目、味とも素晴らしい」
塩の健司が笑いながらこちらを見る。
「審査員、店長の結論はチーズとトマト。3品ともチーズとトマトのバランスが良い」
「なんだって」と塩の健司が不快感を表す。
「審査員、オーナーの結論はチーズとトマト。3品どれも美味しい。うちでも出したいね」
「どういうことだ。おかしいだろう」と塩の健司が異議を唱える。
「私のプレートはヒビが入っている。これは見た目が減点」と店長。
「宗一郎。水気を完全に拭き取っていないのか?」
「すいません」
「私は単純に塩分が多すぎる。塩窯焼きはしょっぱすぎだ」とオーナーが言う。
「それは食べる時に塩をどかして」
「見た目は文句ない。でも私は医者に塩分の摂り過ぎを指摘されていてね」
「2対1でチーズとトマトの勝ちです。
「認めん。こんなの審査員が悪いんじゃないか。加奈子。これで勝ったと思うなよ。必ずボスがお前を倒してくれる」
そう言うと、健司と宗一郎は去っていった。
「やったね由衣」
「加奈子さんありがとう」
「さすが加奈子ね。すごい試合だったわ」と客席で見ていた育美が言う。
しかし気になる。
彼らのボスとはいったい。




