第2話 トマトの由衣
「あれがしょうゆの北斗と寿司の大輔を倒した加奈子か」とマヨネーズの絵美。
「調子に乗っているな。痛い目を見させてやるか」と塩の健司。
「由衣。加奈子を倒しておいで」と絵美。
「お任せを。私が加奈子を倒してみせます」と由衣。
「由衣。トマトは我らマヨネーズや塩がないと輝けないってのを忘れるなよ」と塩の健司。
「わかっています」そう言うと、由衣は加奈子を睨みながら体育館を去って行った。
◆◆◆
後日の放課後。
「加奈子何作ってんの?」と育美が聞く。
「モッツァレラチーズだよ」
レンネットをお湯で溶かす。
低温殺菌牛乳を鍋で加熱する。
クエン酸を加え、その後レンネットを加える。
この間、温度管理が大切なのだ。
その後、凝固したものをカットして、ホエーを抜く。
そして発酵させて、80℃のお湯の中で何度も練る。
粘りが出て表面が滑らかになったら出来上がり。
チーズを氷水につけ、20分ぐらいで完成だ。
「出来た!」
「ではさっそく食べましょうか。海老と一緒に食べよう」
「いや。そのままでいいんじゃない?」
「海老と一緒の方が美味しいよ」
そんなやりとりをしてると、ドアが開いて1人の他校の女子生徒がやってきた。
「私はトマトの由衣。チーズの加奈子。私と勝負しろ」
「いいけど、対決方法は?」
「私はなんでもいいんだが、そうね。1品500円以内の料理で3本勝負だ」
「いいわ」
私は合図をして外で待機をしている男性を呼んだ。
そして細かく指示を出す。
すると校内放送が流れた。
「この後17時から、チーズ対トマトの試合を体育館で行います。体育館を使用している部活は16時終了でお願いします」
そして同じく待機をしていた女性を呼んで指示を出す。
トマトの由衣は笑みを浮かべながらその光景を見ている。
そして17時が近づいてきた。
体育館は人でいっぱいだ。
今回の条件戦は私に不利だった。
チーズの方がトマトより高い。
そのせいで、凝ったチーズ料理を作るのが難しい。
一方トマトは安いのである程度料理に使える金額に余裕がある。
そんな不公平な条件はお見通しよ。
でも負けない。
チーズこそ、人類の宝であり食の頂点であるのだから。
そうしていると、審査員の3人が会場のテーブルに座る。
司会者が「これより、チーズ対トマトの試合を行います。なお、この試合は1品500円以内の条件マッチです」
会場がどよめく。
そして料理が運ばれてくる。
「私の1品目はなすと鶏肉のトマト煮。トマトの旨味がなすと鶏肉に抜群に合うわ」と由衣。
「私の1品目はブロッコリーのチーズ焼き。焼いたブロッコリーは破壊的な美味しさ。そこにチーズをかける。失神しても知らないわ」
「私の2品目はラタトゥイユ。この料理は万人受けするわ。さらに温めても冷めても美味しい。隙がないわ」
「私の2品目はチーズリゾット。チーズを多めで濃厚な味は罪深きものよ」
「私の3品目はシャクシュカ。イスラエルなどで食べられているわ。言葉は要らない。食べればわかるわ」
「私の3品目はクロックムッシュ。溶けたチーズをたっぷり味わえるこれは、食べた瞬間、あまりの美味しさに涙が止まらなくなるわ」
体育館はチーズとトマトの匂いで一杯だ。
審査員が料理を食べ、メモを書き込んでいく。
5分後に判定が出た。
「審査員、家庭科の教師の明美の結論はトマト。シャクシュカがこれほどまでとは思わなかったわ」
「審査員、教頭の和雄の結論はチーズ。ブロッコリーのチーズ焼きは恐ろしいほど美味いですなあ」
「審査員、校長の誠之助の結論はチーズ。正直引き分けも考えた。だがクロックムッシュの溶けたチーズには抗えない」
「結果2対1でチーズの勝ちです」と司会者。
由衣が崩れ落ちた。
「いい勝負だったわ。でもチーズにはあなたは勝てないわ」
由衣は言葉が出ない。
「ところであなた。これを食べなさい」
私が差し出したのは先ほど作っていた、モッツァレラチーズだ。
さらにバジルとオリーブオイルをかけてあげる。
「あなたのトマトと一緒にね」
由衣がトマトとモッツァレラチーズを食べる。
「美味しい」
「カプレーゼよ。私たち相性いいと思うわ」
「……」
「それともマルゲリータの方がよかった? トマトの良さはチーズが引き出せる。あなたとは良き関係になりそうね」
由衣はカプレーゼを全部食べて去っていった。
「加奈子さすがね」と育美。
「ええ。あの子と良い関係になれそうだしね」
「あら、あなたあの子のことそんなにかってるの?」
「そこそこ」
「じゃあなんで?」
「今回はマヨネーズの絵美と塩の健司の差し金よ。だからトマトには他の道もあるって教えただけ」
加奈子はマヨネーズの絵美と塩の健司と対決が近いかもと思ったのである。




