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第1話 チーズの加奈子

私は部室にチーズの塊を持ってきた。


塊といっても、食品サンプルで作ったチーズなのだが。


さっそくチーズの塊をガラスケースに入れて部室に置くと、育美(いくみ)が聞いてくる。


「加奈子なにそれ?」


「チーズの神」


「はっ?」


「だからチーズの神様」


「どういうこと?」


「え~と古代エジプトで3000年以上前のチーズのかけらが発見されたんだって。それを参考に作ってもらったの」


「それがそのチーズの塊って訳ね」


「正確にはこれは食品サンプルで中に入ってる小さいのが作ってもらったチーズ」


「ややこしいな」


「だって作るの1年かかるって言うから、小さいのを1週間で作ってもらって食品サンプルの中に入れたの」


そう言うと、私はチーズの神に祈りだした。


「そういえばあんた北斗を負かしたんだって?」と育美が言う。


「そう。豊心(ほうしん)さんて人と協力して、しょうゆ・寿司同盟を倒したの」


「豊心さんて人は何派なの?」


「パン派」


「すごいじゃん。チーズパンで寿司を負かしたんでしょ」


「もちろん。チーズこそ偉大にして至高の存在」


「はいはい。ところでその本は何?」


育美は私の持ってる本についても聞いてきた。


「これはチーズの歴史の本。豊心さんたちは、パンの歴史やパンにまつわることも調べていたわ。私も作って食べるだけじゃなくて、歴史とかも知ろうと思って」


「それはいいことだわ」


「なになに、アインシュタインはチーズを食べていた。若い頃、ベルンの「オリンピア・アカデミー」の仲間たちと食事をしていて、その食事が、 セルベラート(ソーセージ)+グリュイエールチーズ+果物+蜂蜜+紅茶だった」


「へえ」


「レオナルド・ダ・ヴィンチはイタリア・ピエモンテ地方のモンテボーレというチーズが好きだったらしい」


「らしい?」


「本人が言ってる訳じゃないみたい」


「そうなんだ」


「ナポレオンがブリー・ド・モーというチーズを大好きだったかも知れないし、大嫌いだったかも知れない」


「どっちだよ」


「だって大好きも大嫌いも逸話があるんだもん」


「てかダメじゃんその本」


「まあ有名人もチーズに関わっているといこと。つまり、チーズは神」


「だからなんでそうなる」


私が育美と話していると、突然部室の扉が開いた。


「加奈子。北斗を負かしたらしいな」と他校の制服を着た男の人が言う。


「あら耳が早いのね。その通りよ」


「今度は俺が相手になってやる」


「いいけどあなた誰?」


「俺を忘れたか。和志(かずし)だ。味噌を極めし男」


「いいわ、勝負を受けてあげようじゃない」


「3品で勝負ということでどうだ。味噌料理とチーズ料理。自信のあるのを3つ出す」


「それでいいわ。それで、何時?」


「面倒な話は抜きだ。3時間後でどうだ」


「わかったわ」


私は合図をして外で待機している男性を呼んだ。


そして指示を出す。


すると校内放送が流れた。


「この後17時から、チーズ対味噌の試合を体育館で行います。体育館を使用している部活は16時終了でお願いします」


そして同じく待機をしていた女性を呼んで指示を出す。


和志もスマホで指示をしている。


そして17時が近づいてきた。


体育館は人でいっぱいだ。


私は和志と睨(にら)み合う。


そうしていると、審査員の3人が会場のテーブルに座る。


「準備はどうだ?」と和志。


「いつでもどうぞ」と私が言う。


司会者が「これより、チーズ対味噌の試合を行います」


会場が沸く。


抽選の結果、先攻は和志だ。


「まずは俺の1品目は豚汁だ。具だくさんにして奥深い味わい。さらに一味を少しかける。これで美味さ倍増だ」


会場が沸く。


「私の1品目はチーズフォンデュ。お好きな具材で食べていいわ。もちろんチーズはたっぷりつけてね」


これには「食べたい」という声が聞こえる。


「俺の2品目は銀だらの西京漬けだ。脂ののった銀だらと甘めの味噌の相性は抜群だ」


「おお!」という会場の声。


「私の2品目はカルボナーラ。日本式の生クリームじゃないわ。もちろんローマ式のね!使うチーズはもちろんペコリーノ・ロマーノ」


ローマ式カルボナーラに歓声が起こる。


「最後はこちらもスパゲッティだ。味噌クリームスパゲティ。この濃厚なコクのスパゲティには耐えられまい」


会場がどよめく。


「私の最後は、チーズ焼きおにぎりよ。中にモッツァレラやカマンベールを入れて焼いたわ」


その香ばしい香りと焼きおにぎりを割って溶け出したチーズが観客を刺激する。


審査員が食べて、メモを書き始める。


5分後に判定が出た。


「審査員、家庭科の教師の明美の結論はチーズ。チーズフォンデュとローマ式カルボナーラはチーズの雪崩(なだれ)ね。すさまじい威力だわ」


「審査員、生徒会長の瑠奈(るな)の結論は味噌。銀だらの西京漬けは至高ね」


「審査員、校長の誠之助(せいのすけ)の結論はチーズ。最後の焼きおにぎりにはやられたね。おにぎりの概念を覆(くつがえ)すすばらしい食べ物だ」


「結果2対1でチーズの勝ちです」と司会者。


和志が項垂(うなだ)れる。


「ふん。出直してきなさい」と私が言う。


見守っていた育美も「さすが加奈子ね。しょうゆに続いて味噌も倒すなんてね」


「それはチーズこそ人類の宝。究極の食べ物だもの」


しかしこの勝負にはたくさんの人が見ていた。


観客はもちろん、どこから聞きつけたのか他校の生徒たちも。


マヨネーズの絵美と塩の健司といった過激派で知られる2人も……

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