第2話:憲兵隊妖防衛課
「あー、起きましたよミカゲさん!」
ゆっくりと開けた目の先には、丸い少女顔がこっちを見て微笑んでいた。
「おー起きたか。えらい長い間寝てたのぉ。」
その後ろには、白銀と黒が混じった髪の男か女かわからぬ顔立ちの人がこっちの方を見てきた。
「あのー。あなたがt」
お腹が部屋中に響くようになった。
一通りなり終わると、二人は吹き出した。
「後で詳しく説明するから、うちの食堂で食べてきなさい。サヤ、案内頼む。」
「わかりました!では|恒一君、こっちに来て!」
丸い少女顔の方に連れられる形で、僕は部屋を後にした。
◇◇◇
腹ごしらえを終えると、丸い少女顔の方:サヤさんに連れられてさっきいた部屋に戻った。
部屋の扉を開け、ゆっくりとあたりを見渡す。
漆色の天井が広がり、その中央から控えめなシャンデリアが静かに光を落としている。部屋の奥には大きなカーテンが閉められており、外界と遮断しているように感じる。
「おお、戻ってきたか。」
白銀と黒が混じった髪の人が机越しに言ってきた。
「はい。とてもおいしかったです。お金は後で払いに行きます。」
「いいのいいの。さぁさぁ、座って。」
僕は案内されるまま、その人と向かい合っている位置にあるソファに座った。
白銀と黒が混じった髪の人も立ち上がり、僕と反対方向にあるソファの前きた。そして、僕の前に小さい右手を差し出した。
「改めまして、私は鳴神 御阴。憲兵隊妖防衛課というところの総統をやらせてもらっている者だ。」
「は、初めまして。世輪 恒一です!助けて頂いてありがとうございます!」
僕はすぐに立ち上がって、御阴さんの手を握った。
「いいのいいの。気にしないで。」
御阴さんは笑いながら言った。
向かい合って立ったことで思ったことだが、この人、かなり小さい。顔も相まってまるでちょっと背の高い小学生みたいだ。だけど、身に着けている軍服は色褪せんでいて、かなり年季が入っているように見える。この人、一体何歳なんだ?
「で、こちらが私の部下の一人、『速見 早矢』だ。」
御阴さんは握っていない方の手で早矢さんの方を指さした。
「よろしくね~恒一君。」
早矢さんは僕の方を見ながら優しく手を振った。
軍服越しにもわかる胸の大きさと太ももの太さ。引き締まった腰が、その魅惑的な二つを強調している。丸顔で幼い顔立ち。長い髪はしっかり後ろで束にして下ろしている。
「よろしくお願いします。」
御阴さんを握っている手を放して、早矢さんの方を向いて頭を下げた。
「さて恒一君。」
御阴さんはソファに腰を下ろした。
「どこから話そうか。」
僕は座って、御阴さんと目を合わせた。
「色々聞きたいことがあるので、それに答えるような形でいいでしょうか?」
「いいよ。」
「ありがとうございます。まず最初に、どうして僕はここにいるのですか?」
「そうだな。だがそれを話すには、ここがどういう組織化を話さねばならん。」
◇◇◇
一通り話を聞いた。一通り質問をぶつけた。おかげで頭の中の疑問がかなり解消された。
憲兵隊妖防衛課。憲兵隊の裏組織の一つで、一般人にはどうすることのできない「妖」を討伐してこの国を守る組織。構成員数は少ないが、個々の強さは折り紙つきとのこと。
どうやら僕はそこに所属している方に、気絶しているところを助けられたそうだ。その方にお礼をしたかったが、もう既に任務に向かっているとのこと。
本来なら家の場所を調べて送り届けるそうだが、身元を調べていた際に妖と思われる存在との接触がかなりあったためここに留めているそうだ。
「それって、六儫のことですか?」
「名前はわからないが、君がそう言うならそうなのだろう。教えてくれ。六儫について。」
僕は御阴さんに、六儫との日々を赤裸々に言った。
僕が生まれる前からいたこと。白い毛の昔の服を着た狐だったこと。普段は僕の家族と一緒にいるけど、急にどっか行っては数分後に戻ってくること。自分のことについては全く話さなかったこと。そして…六儫の最期を。
御阴さんは、それを興味深そうにしながら聞いていた。
「…なるほど。君の傍にいた妖が何なのか、おおよそ検討はついた。だが、そいつは自分がどのような存在か、仕える者に言っていないのか。」
「どういうことですか?」
「それはこちら側の事情だ。部外者には話せん。」
御阴さんはきっぱりと言ってきた。
「他に聞きたいことは?」
「もう大丈夫です。答えていただきありがとうございます。」
僕は御阴さんに頭を下げた。
「まぁこちらもいい情報を得たよ。こちらこそありがとう。」
そう言うと御阴さんは立ち上がり、机に戻っていった。
「そうだ恒一君。」
椅子に座る前に御阴さんが話しかけてきた。
「君、今浪人中なんだってね。」
「え?ま、まぁ。」
「良かったらうちの組織に所属しないか?」
「…は?」
◇◇◇
「ちょっと御阴さん、どういうことですか?」
「事情は後で話す。」
早矢さんは少し戸惑いながらも部屋の壁の方へ言った。
「君、士官学校に落ちたんだってね。」
なんで知ってる?って思ったが、身元を調べていたと言っていたのが脳裏によぎった。
「そうですけど。」
「ちょっと雰囲気は違うけど、うちもれっきとした軍だ。どうだ?私たちと共に戦わないか?」
御阴さんの語気が強くなった。
正直、迷ってる。
今のままの自分が、この組織に急に所属してもいいのだろうか。こんな士官学校に落ちた駄目人間なんかが入っていいのだろうか。
「…迷ってるね。」
御阴さんは優しく言ってきた。
「そう…ですね。正直言って迷ってます。」
「仕方ない。世間には知られていない組織だから。」
そういうと、御阴さんの雰囲気が変わったのを感じた。
「世間には知られていない。これはすなわち、『人々は妖という存在を認知していない』ということ。そんな状況を維持するために、今日も私の部下たちが血を流しながら妖と戦っている。妖は強い。いつ我々が全滅し、この国が滅んでもおかしくないほどに。だからこそ私は、少しでも立ち向かえる素質を持った者をこの組織に入れたいんだ。君にはその素質がある。だから頼む。私たちと共に戦ってくれ!」
御阴さんは僕に頭を深々と下げた。
「ちょっとやめてください!僕は士官学校に落ちた駄目駄目人間です。だから仮に所属したとしても、何にも役に立ちませんよ。」
「それは心配ない。こちら側で君をみっちり鍛えさせる。だからその点は安心してくれ。」
「そう言われても、僕は」
「いいんじゃない?誘いに乗っても。」
遠くから聞いていた早矢さんが話しかけてきた。
「衣食住完備。給料も並みの軍人より高い。知り合いや身内との接触ややり取りは制限されるけど、それらを加味しても悪くないと思うよ。」
そういう問題じゃない。
「…すみません。お断りします。」
「そうか。理由は?」
御阴さんは淡々とした口調だった。
それを気にしないよう言い聞かせながら、自分の気持ちを伝えた。
「僕は、期待に応えられそうにありません。それに、僕は士官学校に落ちた人間です。仮に御阴さんのいう『素質』があったとしても、それを自分のものにできるとは思えません。それが出来ていたら、士官学校に入学できているはずなので。なので僕は」
「なぜ帝都に来た?」
「え?」
「なんで浪人を選んだ?」
「それは…。」
「『夢を叶えるため。』そうだろ?」
「…はい。」
「お前の夢は何だ?」
「この国の人々を守ることです。」
「その夢を叶えるために、わざわざ東京に来たんだろ?今、お前はその夢を叶えれる大きなチャンスを逃そうとしているんだ。せっかくのチャンスを捨てれるくらい、今のお前は自分が士官学校に受かることができるという心の余裕があるのか?」
言葉が出てこない。
そんな心の余裕はない。本当ならすぐにでも入隊したい。でもなぜか、足がすくんで一歩を踏み出せない。
「わかった。」
そう言うと、御阴さんは立ち上がり、僕の目の前にやってきた。
!?
御阴さんは、僕の髪をいきなり掴んできた。
そして、無理矢理目線を御阴さんの方へ向けさせてきた。
御阴さんの目は、龍の睨みを思わせるほど鋭く、怖い。
「10数える内に決めろ。10言っても迷うようなやつなんか、軍人には必要ない。軍人になれば幾つもの死線で最善の判断をすることを求められるからな。」
「1」 御阴さんの圧に押し負けそうになる
「2」 こんなところで即答できない時点で自分なんか…。
「3」 『恒一が…人々を…守る…ように…、俺も…お前を…守っ…。』守り神様の言葉が脳内に響く。
「4」 そうだ。守り神様は、僕の夢を応援してくれているんだ。
「5」 なら僕は、その応援に応えなきゃ!
「6」「撤回します!」
御阴さんは掴んでいる手を離した。
僕は立ち上がって、御阴さんに改めて目を合わせた。
「ここに、入隊させてください!」




