第3話:四国へ
「ここに、入隊させてください!」
御阴さんはそれを聞くと、顔色が一気に明るくなった。
「強引な形にしてしまってすまなかったね。」
「いえ。なんか…喝を入れられたような感じでした。」
「そうか。そう捉えてくれてありがとう。」
御阴さんは元いた席の方へ行った。
「では…ようこそ。憲兵隊妖防衛課へ。」
御阴さんは両腕を広げながら優しくも高らかに言った。
「早速だが、恒一君にこの部隊に所属するにあたって一番心がけてほしいことを伝える。」
「はい!」
「いいか。『最後まで生きようとしろ』」
それは、思いがけない言葉だった。
「どういうことですか?『国のために戦って死ぬこと』。それが軍人のあるべき姿なのではないのですか?」
「確かにそうだ。だが、私たちの敵は国ではない。『妖』だ。妖は『生物の魂を取り込むことで強くなる』。相打ちに持ち込もうとすれば、かえって強くさせて生き残った者への負担を大きくさせることになる。だから絶対、無茶な特攻などをするんじゃないぞ。いいな?」
御阴さんは僕の方を指さしながら言った。
「は、はい!」
「頼むぞ。」
「あのー。ちょっと言いですか?」
壁の端にいた早矢さんが小さく手を挙げながら言った。
「どうした?」
「恒一君が所属することはわかりました。でも、配属先はどこになるのですか?」
「ああそのことか。もうこっちで手配しているよ。」
御阴さんがそう言うと、後ろから扉を叩く音が聞こえてきた。
「どうぞ~。」
扉がゆっくり開く音がした。振り返ると、軍服を着た美人がそこに立っていた。
身長は自分よりも一回りほど大きく、細身だが引き締まっていると感じるほど力強さを感じる。腰元に備えられているのは…サーベルだろうか。凛とした印象の顔立ちをしており、それには思わず見とれてしまうほどの美しさがある。前髪は目元を隠さない程度で後ろ髪はしっかり束ねられている。
その女性と僕の目が合う。僕のことを見下すような目つきに圧されそうになる。
女性はすぐに僕から目を話し、御阴さんの方を見る。
「長旅ご苦労だったね、あき「おい童爺。」
女性の握っている手が少し震えている。
「昨日の夜、『大至急本部へ来い』って連絡したくせに、いざ来てみたら早矢がいるのはどういうことだい?」
女性は御阴さんのいる方へ早歩きで向かい、机に音を立てながら手を置いた。
早矢さんは壁にめり込みそうなくらい後ろに下がった。
「あの…それは…。」
「理由次第では…わかるね?」
「いや…その…。」
御阴さんの声が弱々しくなっている。さっきまでの威厳は微塵も感じない。
「はっ、早見はここ数日東北の方に行ってたんだ!だからあきねを連れて行かせることができなかったから、仕方なく…。」
「それ、本当?」
女性は早矢さんに鋭い眼光を送った。
「はい!御阴さんに東北の方の様子を記録してほしいと言われて出張に行ってました!ここまで送ることができなくてすみません!」
早矢さんは深々と頭を下げた。
それを見た女性は、置いていた手を離し、後ろへ下がった。
「まぁいいよ。どうせここまでの移動にかかった金は経費で出るし。」
「あ、あぁ。」
「出るよね?」
「出ます!」
まるで鬼嫁と夫みたいだ。どっちの立場が上なのかわからなくさせてくる。
「で、こいつは誰?」
女性は御阴さんの方を見ながら僕の方を指さしてきた。
「今日からここに所属することになった世輪 恒一君だ。」
「所属は?」
「その件で君を呼んだんだよ。」
女性は僕の方に目線を送った。
「恒一君、紹介するよ。憲兵隊妖防衛課四国支部支部長の『獅能 秋寧』だ。」
◇◇◇
「今日からこの部隊に所属することになりました!世輪恒一です!よろしくお願いします!」
僕は秋寧さんの方に身体を向けて頭を下げた。
「四国支部で支部長やってる。四国支部の同志からは『あき姉』って呼ばれてるから、呼ぶときはそう呼んで。」
秋寧さんの声は、そっけなかった。
「で、童爺。こいつの面倒を見ろってことかい?」
「ああ。よろしく頼んだ。」
秋寧さんは僕の方に目線を向けた。あまりの鋭い目つきに身体がこわばりそうだ。
「わかった。こっちで面倒見るよ。」
「ありがとう。てなわけで恒一君、4月から四国に行ってもらうね。」
四国支部と聞いた時から薄々感じていたが、直接言われると気を引き締めなければと思ってくる。
四国、今まで行ったことがない場所。自分はここから、立派な軍人になっていくんだ!
◇◇◇
早矢が恒一を送り届けに行き、部屋は御阴と秋寧だけとなった。
先ほどの緊張と緩さが混じった空気が一気に重くなる。
「どうだった、恒一君。」
御阴は恒一の時とは異なり、大人びた口調となった。
「良くも悪くも、量産型軍人の卵って感じだね。」
「確かにな。」
御阴は軽く笑った。
「なぁ、御阴。」
「君も感じたか?」
「ああ。あいつ、あたし達のシキと少し違う。」
「ああ。聞いてみた感じ、『リクゴウ』っていう守り神の力を貰ったそうだ。」
「マモリガミ?シキガミのことではないのか?」
「そこまではわからん。ただ…、あいつには何かがある。」
御阴は窓の先の景色を見つめながら言った。
秋寧は、御阴が何を思っているのか全く分からなかった。




