第9話 できない夜
俺と凪葉が初めて関係を持ってから、二週間ほどが経過した。
最初はお互いぎこちなさもあったものの、今ではそれも自然な流れになっている。
そんな日が、何度か続いていた。
その日も、いつもと同じだった。
インターホンが鳴る。
「はーい」
ドアを開けると、凪葉が立っていた。
紺のパーカーに、淡いグリーンのロングスカートというスタイル。
「……お邪魔しまーす」
いつもと違い若干大人しい感じの凪葉。
ベッドにぽすんと座る。
「はー、今日も疲れたね……」
「だな」
「授業、眠かった……」
「分かる。とくに午後の──」
そこで凪葉が、ふっと笑った。
そんな、いつも通りの会話。
──でも今日は、少しだけ様子が違う。
凪葉が妙に静かだった。
クッションを抱えたまま、何か考えている。
「どうした?」
「……ん?」
「さっきから黙ってるぞ」
凪葉は少し視線をそらす。
それから、もじもじと指先をいじった。
珍しい。
凪葉がこんな態度を取るのは。
「あのさ、遥斗……」
「なんだ?」
少し間が空く。
凪葉は小さく息を吐いた。
「……あたし、生理がきたの」
「え?」
突然の言葉に、思わず声が出る。
凪葉は、いつもの勝気な瞳を少しだけ泳がせ、恥ずかしそうに視線を落とした。
「だから……遥斗と、しばらくエッチできない」
「……」
凪葉の口から初めて聞いた“生理”という単語。
これまでは一緒にテレビゲームに興じたり、ただ遊びに出かけたりするだけの関係だった。
けれど、互いに肌を重ねるようになり、幼馴染だった凪葉の口から初めて聞かされる、その生々しくも切実な、文字通りの生理現象。
(凪葉だって、一人の女の子なんだ。生理がくるのは当たり前だ……)
無意識のうちに、俺の視線はふわりとしたロングスカートに包まれた彼女の下腹部へと向く。
凪葉は、膝の上に置いたクッションをぎゅっと抱きしめ、さらに体を丸めた。
「……ごめん」
消え入りそうな声で、彼女が呟く。
「いや、なんで謝るんだよ」
「だって」
凪葉は小さく肩をすくめる。
「……最近ずっと、そういう流れだったでしょ……?」
「そ、それは……」
引き出しから取り出して準備していたゴムの箱に思わず目が行く。
「…………」
黙ってしまう凪葉。
「……そ、そうだ、凪葉! ゲームしようぜ、一晩中!」
「うん……」
凪葉は、少し安心したように頷いた。




