第8話 同じ匂い
昼休みの教室。
俺、凪葉、親友の健太で昼飯をとっていた時のこと。
健太がふと首をかしげた。
「なぁ……ふたりともさ、」
俺と凪葉を見る。
「なんか……同じ匂いしないか?」
「え?」
思わず顔を見合わせる。
凪葉も一瞬きょとんとした顔をして、それから「あっ」と声を上げた。
「……そう、シャンプー!」
「……あ」
昨夜のことを思い出す。
凪葉が持ってきたシャンプー。俺の家の風呂場で、俺もそれを使ったんだった。
健太はニヤニヤしている。
「なにそれ、一緒に風呂入ったとか?」
「ち、違うわよ!」
凪葉が慌てて言う。
「遥斗がさ、あたしにおすすめのシャンプー聞いたんだよねっ」
「そうそう、それ」
俺もすぐに話を合わせる。
健太は少し笑った。
「へえ。仲いいなあ、お前ら」
「幼なじみだからな」
そう言うと、健太は肩をすくめた。
「まあ、いいけどさ」
昼休みはそのまま流れていった。
◇
教室を出て、廊下を歩く。
凪葉が横で小さく笑った。
「びっくりしたよね」
「同じ匂いって言われたのは初めてだな」
凪葉は少し考える。
「でもさ」
「ん?」
「なんか、ちょっと面白い」
俺は苦笑する。
「バレないようにしないとな」
凪葉が小さくうなずく。
「……だね」
それ以上は何も言わなかった。
でも、二人とも少しだけ照れていた。
◇
夜。
俺の部屋。
凪葉は風呂上がりの髪をタオルで拭きながらベッドに座っている。
シャンプーの甘い香りが、部屋の空気に混ざっていた。
昼間の友達の言葉を思い出す。
(同じ匂い、か)
確かにそうかもしれない。
凪葉は慣れた様子でドライヤーを使いながら言う。
「遥斗」
「ん?」
「このシャンプー、やっぱいいでしょ?」
「まあな」
凪葉は満足そうに笑う。
「でしょ?」
ドライヤーの音が止まる。
静かな部屋。
凪葉がベッドの上で足を崩して座る。
「ねえ」
「ん?」
「こっち来て」
俺が隣に座ると、凪葉は自然に肩にもたれてくる。
凪葉は小さく笑う。
そして、ぽつりと呟いた。
「……電気、消して」
部屋が暗くなる。
窓の外から、かすかに街の光が差し込む。
凪葉の体温がすぐ隣にある。
「遥斗」
「ん?」
「昨日も言ったけどさ」
凪葉が少し笑う。
「この匂い、落ち着く」
「自分のシャンプーだろ」
「それもあるけど」
凪葉は少しだけ俺の肩に顔を寄せた。
「遥斗がいるからかな」
「凪葉……」
「遥斗……」
凪葉が、俺の胸にぎゅっと抱きついてくる。
(ヤバっ……)
抱きつかれた瞬間、体の一点が臨界点を迎えた。
「凪葉……もう、俺、我慢できない……!」
「あっ……! 遥斗……」
大きな胸を鷲掴みにすると、凪葉の肩が小さく跳ねた。
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深夜。
部屋は静まり返っていた。
ベッドの上。
凪葉はシーツにくるまりながら、小さく笑う。
「……ねえ」
「なんだ」
「やっぱりさ」
凪葉は俺の腕に頭を乗せる。
「幼なじみとこうなるのって、ちょっと不思議だよね……」
「今さら言うか」
そして目を閉じる。
静かな夜。
同じシャンプーの香りが、まだ部屋に残っていた。




