第11話 ベッドの上の指定席
凪葉が俺の部屋に来なくなって、一週間が経った。
あの日から、俺の部屋のインターホンは一度も鳴っていない。
夜になっても、凪葉が現れることはなかった。
……たった一週間。
でも、やけに長く感じる。
部屋の中は、妙に静かだった。
ベッドの上に転がりながら、スマホを手に取る。
──またね。
それきり、凪葉とは何も話していない。
(……もう生理は終わってるはずだよな……?)
そんなことを考えてしまう自分に、嫌気がさす。
違うだろ。
問題は、そこじゃない。
凪葉は、たぶん……怒っている。
いや、怒っているというより。
失望しているのかもしれない。
あの日の言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
『──妊娠してなくてよかったな? ちゃんとゴムしてるとはいえ、ちょっと俺も不安だったし』
『最近、遥斗、あたしとエッチすることばっか考えてるじゃん』
「はぁ……」
ひとり、ベッドの上で、ため息をついた。
◇
昼休み。
廊下を歩いていると、前から見慣れた姿が歩いてきた。
凪葉だ。
思わず足が止まりそうになる。
でも凪葉は、俺に気づくと一瞬だけ視線をこちらに向け──
すぐに逸らした。
そのまま、俺の横を通り過ぎていく。
「……」
声をかけるタイミングを逃す。
振り返ると、凪葉はもう友達の輪の中に入っていた。
楽しそうに笑っている。
いつも通りの凪葉。
でも。
その輪の中に、俺はいなかった。
---
「あの……遥斗くん、ちょっといい?」
声をかけてきたのは、肩までのグレー髪の少女。
薄手のカーディガンを羽織った、俺と凪葉の幼馴染──山田美咲だった。
美咲はもじもじと髪をいじりながら、少し困ったような表情をしている。
「どうした、美咲」
「放課後さ……
──凪葉のことで、ちょっと遥斗くんの部屋行っていいかな」
「あ、あぁ……」
おそらく、今の件だろう。
「──じゃあ、放課後。行くから」
美咲は俺の顔を見ず言って、そのまま立ち去ってしまう。
(さて、どうするべきか……)
◇◇◇
「お邪魔しまーす……」
「あぁ……」
制服から私服に着替えた美咲が、少し遠慮がちに部屋へ入ってくる。
淡いピンクのブラウスにダークブラウンのスカート。
その上から薄手のコートを羽織り、首元には細いマフラーが巻かれていた。
美咲は部屋の中に入ると、きょろきょろと周りを見渡す。
「なんか……久しぶりだね、遥斗くんの部屋」
「ああ、そうだな」
ふと、美咲の視線が棚の上で止まった。
「あっ、この写真……」
そこには、小学三年生のときの写真が飾られている。
俺と凪葉、そして美咲の三人で写ったものだ。
運動会の日だった気がする。
三人とも、今よりずっと小さくて、無邪気に笑っている。
「懐かしい……」
美咲は小さく呟いた。
それから部屋の奥へ歩いていき──
自然な流れでベッドに腰掛ける。
昔からの、美咲の癖だ。
家に来ると、いつもそこに座る。
……そのベッドは、最近まで凪葉とやるための場所でもあった。
そんなことが、ふと頭をよぎる。
「それで……話って?」
俺が聞くと、美咲は少しだけ真剣な表情になる。
「凪葉のこと」
「……やっぱりか」
美咲は少し間を置いてから、こちらを見る。
「ふたり……付き合ってるの?」
「……付き合ってはない」
俺は、少しだけ視線を逸らした。
「……ほんとう?」
「あぁ……」
(……凪葉とは、エッチしてるだけの幼馴染、ってところか……。
ただもう、エッチすることもできなくなっちまったがな……)




