41. 神託
今日、教会でイリスが新しい神託を告げる。
事前に発表があったので、教会の前には神託を直接聞こうと沢山の人が集まっていた。
俺とヴィー、そしてクロフォード卿がイリスに付き添っていた。
「それでは神託を告げるにゃ」
「おおー! 本当に猫が喋ったぞ!」
「聖猫様だ」
教会に集まった人々からどよめきがあがった。
「まず、神は、この国を導いていく神の代行者として、今の王族は不適切だと判断したにゃ」
「おおおー!」
「ついに現在の王族が断罪されたぞ!」
「王が廃されたぞ!」
「廃位の神託だ!」
人々からは歓喜の声が聞こえる。それだけ今の王族は嫌われていたのだろう。
「そして、神は新しい代行者を遣わされたにゃ」
「新しい代行者?」
「新王?」
「誰が遣わされたの?」
「クロフォード卿ではないのか?」
新しい王様が誰なのかみんな不安に思っているようだ。
「それが、そこにおられるエルフのバイオレット様にゃ」
「えー! あの女性か?」
「すげー美人だぞ!」
「でもエルフって?」
「ちょっと! クロフォード卿、そんな話聞いてないわよ!」
驚いた。俺も初耳だ。クロフォード卿は随分と思い切ったことをやったもんだ。
だが、悪い選択肢ではないかもしれない。
政治にまったく関心がなく、どの派閥とも利害関係がない上に、話を聞けるのは翻訳機をつけた自分だけだ。おまけにエルフという未知の存在で、魔法が使える。象徴としても、畏怖の対象としても申し分ない。
「待てい!! その神託は偽物だ!」
教会の外から軍隊を連れたオークがやってきた。魔物の襲撃か?!
「国王陛下、いえ、元国王陛下ですね。変な言いがかりはやめていただきたい」
ああ、オークでなく王様だったか。だが、王様はサンタナ宮からでないのではなかったか?
「クロフォードよ、貴様がそこの少年にそそのかされて、こんな茶番を仕掛けてきたのはわかっておるぞ」
え! 俺? 俺がクロフォード卿をそそのかしたことになってるの?
「今ならまだ許してやろう。さあ、その聖猫をこちらに渡せ」
「猫ちゃん、こっちにおいで」
王様の隣にいるのはダイアナ! それにサラもいるぞ。
「くっ! 娘を人質に取ったのか!」
「さあ、いうことを聞け!」
「うっ!」
王様がクロフォード卿に手をかざすと、クロフォード卿が苦しみ出した。
「アッシュ、あの指輪よ! あれでクロフォード卿を操ろうとしているわ!」
「え、サンタナ宮でないと人を操れないんじゃなかったのか!」
「ふん! 侮ったな。我がサンタナ宮から出なかったのは、ただの引きこもりだ!」
それ、偉そうに宣言することか?
「ヴィー、どうにかならないか?」
「今、あの指輪を転送させるわ! 小さな物は、照準を合わせるのが難しいのよね」
王様の突き出した手が光とその指から指輪が消えた。うまく転送できたようだ。
「くっ、指輪が!」
「ふー。助かったよ」
「いえ、あなたを操ろうと、王様が手を突き出していた。おかげで、うまく転送できたわ」
「くそう、こうなれば実力行使だ! サラ、全軍の指揮を取り奴等を葬り去れ」
「くっくっくっ! アッシュ! お前の実力を見せてみろ! 全軍突撃!!」
王様の命令でサラが全軍に突撃の指示を出した。
これは、教会に集まった人々がいるというのに、なんて無茶な!
「ヴィー!」
「わかってるわ! アマデウス!」
ヴィーの呼びかけで、上空に待機させていたアマデウスがステルスモードを解いた。
「キャー! ドラゴンよ!」
「みんな落ち着け! あれは俺たちの仲間だ」
「噂に流れていたがやはりか! アッシュ、お前がドラゴンを操っているのだな」
「いや、俺でなくてヴィーだけど」
「お前がエルフ殿に指示を出しているのだから、そんなのはどっちでもいい」
「いや、俺が指示しているわけでは……」
あれ? 俺がヴィーに指示している……のか?
今はそんなことを考えている時ではないな。
「ヴィー、メガ粒子砲で兵士たちを無力化できないか?」
「眼が、粒子砲ね。殺さずに無力化にはちょうどいいわね。兵士に向けて、粒子砲、発射!」
アマデウスは、ドラゴンのような首を左右に振り、兵士を薙ぎ払うように、眼から砂粒状の粒子を射出した。
「う! 目、目が!」
「痛た、たたた!」
これは、効果的面だ。一瞬のうちに兵士の無力化に成功した。だが、口からではなく、眼から砂粒が噴き出す様子は実にシュールだ。
「あははは! やはり貴様が、いえ、あなた様が、神だったのですね!」
サラは何を言っているんだ?
「聖猫は神の使者。エルフは神の先兵。そして、ドラゴンは神の騎竜。すべてがあなた様に繋がっています」
いや、その中心はヴィーだろ!
「数々の無礼お許しください。せめて、これくらいはお手伝いいたします」
サラが剣を抜き、一閃。王様の首が飛んだ。
「どうか、これをもって、兵たちには御慈悲を!」
そして、サラはその剣を捨て、懐から短剣を取り出すと、それを自分の腹に突き立てた。
あっという間の出来事に誰も止めることが出来なかった。
流血沙汰なんか見たくはなかったのに!
「ヴィー!」
「医務室に転送するわ!」
サラの体が光に包まれて消えていった。助かってくれるといいのだが。
ヴィーも転送されていったため、残されたのは、俺とイリスとクロフォード卿。だが、頼りのクロフォード卿はダイアナのもとへかけて行ってしまった。
「イリス、どうにかして」
「これ以上、にゃあに頼るにゃ」
そんなこと言われても、この混乱どうすりゃいいんだ。ヴィー、俺も転送してくれよ!




