40. ダイアナとサラ
どうしよう……。
偽の神託で王様を交代させようという、お父様の悪巧みを知ってしまった私は、誰にも相談できずに困っています。
王様が良い人ではないことは噂で聞いていました。だから、お父様が言うとおり王様は交代するべきなのでしょう。
ですが、だからといって、神託をでっちあげるようなことを神様が許すはずがありません。ましてや、それに、私の可愛い猫ちゃんを利用しようなんて、とても許せません。
私は意を決して王宮の兵舎に向かいました。
兵舎に着くと私は受付でサラさんを呼んでもらいます。サラさんは私の護身術の講師をしてもらっている、すごく信用の置ける人物です。
兵舎のロビーでしばらく待っていると、サラさんがやってきました。
「ダイアナ嬢、急にどうされたのですか?」
「サラさん大変よ!」
「また、猫に逃げられたのですか?」
「その猫が聖猫で、お父様がエルフと結託して、神託で新しい王様を……」
「ダイアナ嬢、落ち着いてください」
失敗しました。焦って意味不明なことを捲し立ててしまいました。
「その話は、ここではまずいです。とりあえず、私の部屋に」
「ええ」
私はサラさんについていき、彼女の部屋へ入ります。
ここがサラさんの部屋ですか……。エヘヘへ、これは役得ね。
サラさんは私の友達の間でも大変に人気があります。女騎士の中では一番です。
「ここなら誰かに聞かれる心配はありません」
そうです、浮かれている場合ではありませんでした。
「何から話したらいいかしら?」
「時間はあります。初めから順を追ってどうぞ」
サラさんがすすめてくれたとおり、私は猫ちゃんを拾ったところから話を始めました。
「では、ダイアナ嬢は、その女性がエルフではないかというのですね?」
一通り私の話が終わったところで、サラさんから質問されました。
「そうなの。どこからともなく現れて、私が部屋に入った時に、慌てて帽子を被って耳を隠していたわ。それに、私にはわからない言葉を話していたし」
「転移魔法ですか……。エルフの可能性が高いですね」
「そうすると、最初にアッシュと一緒にいた太った女性もエルフだったのかしら? 同じような服を着ていたし」
「え? アッシュ? その少年の名前はアッシュというのですか?」
「そうだけど?」
なぜかサラさんは、太った女性よりアッシュの方に関心があるようです。
「どんな特徴をしています?」
「銀色の髪で、歳は十歳くらいかしら?」
「あの野郎、すました顔して抜け出していたのか!」
「どうしたの?」
サラさんとは思えない物言いです。
「いえ、こちらの話です。お気になさらずに」
「そう? アッシュが猫ちゃんを見つけて連れてきてくれたの、酷いこと言わないでね」
「そうでしたね。喋る猫はアッシュが連れてきたんでしたね。ですが、本当に猫が喋るのですか? 最初に拾った時には喋らなかったのですよね」
「ええ、間違いないわ。最初にアッシュが話しかけたら話し始めたの。どうも、喋るのはアッシュの許可がいるみたいだったわ。そして、アッシュに、どこかへ連れていってもらえるようにお願いしていたわ」
「アッシュにですか……。その猫は聖猫ではないのですか?」
「本人が否定していたわ」
「それは本人に自覚がないだけじゃないのですか? 喋る猫なんて普通じゃないですよ」
「それもそうね。じゃあ、アッシュが聖猫の振りをして神託を告げろと言ったのは、猫ちゃんの自覚を促すためだったのかしら?」
「アッシュが聖猫の振りをしろと言ったのですか? クロフォード卿ではなく」
「そうよ」
「それで、アッシュがクロフォード卿を新しい王に指名した」
「ええ。ですがお父様は断りました」
「すると、今度は、クロフォード卿に王の選定を任せたのですね」
「そうです。お父様は心当たりがあると」
「なるほど、誰の意思でこの計画が動いているか見えてきましたね」
それは、アッシュが黒幕ということでしょうか? 猫ちゃんを見つけてきてくれたのに、そんな悪い人には見えませんでしたが。サラさんにそれを言おうにも、彼女は「そういうことかアッシュ、クックックッ」と不敵な笑いを浮かべていて、ちょっと怖いです。
「それで、クロフォード卿は、誰を王に据える気なのでしょう?」
「それが……」
私がその名前を告げると、サラさんは少し考え込んだ様子でした。
「そうですか。ダイアナ嬢、この件は私がなんとかします。ですから、他の人には絶対に話さないでください」
「ありがとう、サラさん。わかったわ」
サラさんがなんとかしてくれるということで、私はやっと肩の荷をおろしてホッとしたのでした。




