39. 聖猫
この国の王様は、昔、神様からの神託によって決められたそうだ。それなら、新たな神託を授かり今の王族を廃してしまえばいい。問題はその神託をどうやってでっちあげるかだ。
「誰がというか、はるか昔、王冠を被ったしゃべる猫が神から遣わされて、その聖猫が神託を告げたのだ」
聖猫……。聖女じゃないのか。
「アッシュ!」
おっと、またいらぬことを考えていたようだ。ヴィーに睨まれてしまった。
「イリスは王冠を被っていたわ」
「まさか、あの猫か? 喋れたりするのか?」
「ええ、喋れますね」
ん? イリスは喋っていたが、何語を話していたんだ?
翻訳機をつけている俺とヴィーは、相手が何語を話していても理解できる。だから、イリスが何語を話していたとしても理解できた。そのため、逆に、イリスが何語を喋っていたかわからない。仮に、ケッティア語を話していたとすると、それは喋れるといっていいのか?
「ちょっと待ってヴィー、イリスは何語を話していたんだ?」
「この星の言葉だと思うけど?」
「ケッティア語ではないのか?」
「この翻訳機は未知の言葉を翻訳することはできないわ。イリスがバルクァン語を話していた可能性もなくはないけど、初耳のバルクァン語を話せるとは思わないわ」
イリスがこの星に来てから何日経ったか知らないが、少なくともバルクァン語よりは馴染みがある筈か。
だが、イリスは俺たちのように翻訳機を着けていた様子はなかったが、どうやって俺たちの言葉を理解したのだろう?
「喋れるということでいいのだな」
「念のため、呼んで確認してみましょう」
どのみち、これから先はイリスの協力なしには進まない。イリスには申し訳ないがもう少し付き合ってもらおう。
そんなわけで、イリスを呼んだのだが、おまけにダイアナもついてきてしまった。ヴィーは慌てて帽子を被り耳を隠す。
「私を仲間外れにして、猫ちゃんだけ呼ぶなんて、どういうことですか!」
「いや、ちょっと複雑な事情があって」
「私は猫ちゃんから離れませんからね!」
これは完全に拗ねてしまったようだ。
ヴィーの体型が大きく変わっているのだが、ダイアナは、よく似た別の人として認識しているようだ。
「ダイアナ、これから話し合うことはこの国の将来を決める重大事項だ。見聞きしたことを決して他の人に話さないと誓えるか?」
「他の人に話さなければいいのでしょう。誓えるわ」
「サマンサはもちろん、エリーにもだぞ」
「侍女だけでなく、お母様にも……。わかりました」
「ならいいだろう」
クロフォード卿がいいと言うなら、ダイアナに構わず進めることにしよう。
「イリス、イリスが話しているのはこの国の言葉かい?」
イリスは周囲の様子を確認し、喋ってもいいと判断したようだ。
「違うにゃ」
「猫ちゃんが喋った!」
ダイアナが驚いたということは、翻訳機なしで通じたはずであるが、イリスが話しているのはこの国の言葉ではないという。どういうことだ?
「にゃあが話しているのは、古代アヴァロン語にゃ」
「古代アヴァロン語? 俺たちにはこの国の言葉に聞こえるんだが?」
「古代アヴァロン語は種族間の垣根を越えた共通語にゃ。この言葉なら大抵どこでも通じるにゃ」
それなら翻訳機もいらないわけか。ん? ヴィーのバルクァン語は明らかに古代アヴァロン語とは違うよな。
「ヴィーの言葉を理解してるよな。それはなんでだ?」
「バルクァン語なら少し習ったことがあるにゃ」
それってヴィー以外にも、彼女の世界からこっちの世界に来た人がいるということだよな。
「バルクァン人に会ったことがあるの?」
「いや、ないにゃ。随分と古い記録で見ただけにゃ」
「そうなの……」
ヴィーとしては、同族と会えるかもしれないと期待したのだろう、すごく残念そうだ。
「言葉は通じるということらしいから、私からもいいか?」
「にゃんだ」
「あなたは聖猫様ですか?」
「聖猫? なんのことにゃ?」
「神から遣わされたのではないのですか?」
「違うにゃ」
クロフォード卿の質問に、イリスは困惑した表情でこちらを見ている。それもそうだろう。いきなり使徒だと言われたら俺だって戸惑ってしまう。
俺はイリスに神託と聖猫について事細かく説明した。
「と、いうことで、イリス、協力してくれないか? 聖猫の振りをして、神託を告げてもらいたいんだ」
「またかにゃ? お前にゃ、本当は詐欺師にゃろ! ケッティアに連れて行くと嘘ついて、にゃーのことこき使う気にゃ」
「いや、ケッティアには必ず連れて行くから。これはイリスにしかできないことなんだ、頼むよ」
「今回限りなのにゃ、それが終わったら、何をさておきケッティアに連れて行ってもらうにゃ。約束だからにゃ!」
「わかったわ、約束するわ」
なんとかイリスの協力を取り付けることができた。あとは……。
「それで、次の王様は誰にするんです?」
「クロフォード卿がなればいいんじゃないか? 実質、国を動かしているのは宰相のクロフォード卿なのだから」
「いや、私では無理だ。実務は私がやっているが、それだけに敵も多い。私が王になっては派閥争いが激しくなってしまう。最悪、内乱だ」
「どこの世界も派閥争いね」
「それじゃあ、誰か他に適任者はいないか?」
「私に心当たりがあるから、それは任せてもらおうか」
「宰相である、クロフォード卿がそう言うならお任せするよ」
なんにせよ、俺たちでは誰が適任か判断できないからな。




