36. 神
王宮の監禁部屋から転送してもらい、ヴィーと一緒に王都観光をしようと思ったが、王都に観光できるような所はどこにもなかった。
途中、猫を探して迷子になっていたダイアナを家まで送ってあげたが、そこで家に招かれるようなことはなく、その後も俺たちは当て所もなく王都を彷徨い歩いていた。
「アッシュ、あそこは誰でも入って休めるようだぞ」
そろそろ疲れて監禁部屋に帰りたいと思い始めたところでヴィーが指差したのは、村のものとは比べられないほど立派な教会だった。
「教会か。他に行くところもないし行ってみるか」
俺たちはそこにいたシスターにことわり、礼拝堂に入った。
「教会とは子どもたちに基礎教育を施す教育機関ではなかった?」
「それは教会にとっておまけみたいなもんだ。本来は神に祈りを捧げる場所なんだが……、もしかして、ヴィーの世界には教会はなかったか?」
「ないわ。というか、神とはなんです?」
「神様もいないのか!」
彼女の世界にはどうやら宗教がないようだ。
「普通、神様と言ったら、この世界を創造した存在のことだな」
「この世界は誰かが造ったものなの?」
「そう考える人がいるというだけで、実際はどうかわからないがな」
いや、ここは異世界なのだから本当にいてもなんらおかしくないのか。むしろ、いない方がおかしい。
「実際にいるかどうかもわからないものに祈るの? 理解できないわ」
「ヴィーは祈ったりしないのか?」
「祈ることはあるわよ。ピンチの時は助けてくださいと、でもその相手は助けてくれる誰かよ。助けてくれない人や、まして、いるかもわからない人に祈ったりしないわね」
神がいないとそんな感じなのか。
「ところでアッシュ、この世界の猫は椅子に座るの?」
「座る? 椅子に乗って寝ることはあるだろうけど」
翻訳イヤリングの調子が悪いのか?
「でも、あれは寝てないで座っているわよね?」
彼女が見ている方を確認すると、礼拝堂の長椅子に、白い靴下を履いて王冠を被った黒猫が座っていた。
これってダイアナが探していた猫だな。しかし、彼女が言っていたのが比喩ではなく、実際のことだったとは、おまけに、肩からガマ口の小さな鞄まで下げている。
「ケットシー?!」
「ケットシーじゃにゃい。ケッティア星猫にゃ」
椅子に座っていた猫は、後ろ足二本で立ち上がると、俺の発言を訂正した。
猫が喋ったのだが?! ケッティア星猫? 猫の妖精でも、獣人でもなく宇宙人、いや宇宙猫だというのか?!
この世界は絶対に俺に喧嘩をうっているだろう。
「この世界の猫は立ってしゃべれるの?」
「いや、この星の猫はそんなことはないぞ」
「にゃあは、ケッティア星から来た宇宙猫だからにゃ。その辺の原始猫と一緒にしないでくれにゃ」
原始猫って……。
「お前にゃもこの星の人間じゃにゃいにゃ」
多分先ほどのヴィーとの会話を聞かれていたのだろう。宇宙猫の言葉は確信に満ちていた。
「俺はアッシュ、この星の人間だけど、異世界から転生している」
「私は、ヴァイオレット、ヴィーと呼んでね、バルクァン星人よ。時空震に巻き込まれて異世界からこの世界に飛ばされて来たわ」
「それで、君は?」
「イリスでいいにゃ。ロケットのテスト飛行中トラブルがあったみたいなのにゃ。気がついたらこの星にいたにゃ」
「ロケットで不時着したのか?」
「そうにゃ。これがそのロケットにゃ」
そう言って彼女は、肩からかけたガマ口からリュックサックのように肩に背負う双胴のロケット? を取り出した。
「収納魔法?!」
「四次元ポシェットにゃ」
「ポケット?」
「これのどこがポケットにゃ。どこからどう見てもポシェットにゃ」
猫だからな。ロボットじゃないけど。だったらポケットだと思うだろう。
「アッシュ、今はそれよりこのロケットの方が気になるのよ」
「あ、すまない」
「イリス、聞いてもいいかしら?」
「それでヴィーはロケットの何が知りたいにゃ」
「まずは最高速度、それとこれで異世界に行けるかね」
「最高速度は、これで光速を超えられるか実験してたにゃ」
これで光速を! 思ったよりすごいな。
「それと異世界にゃ? 多分、にゃあは光速を越えようとして時空を超えてワープしたにゃ。でも、ここは異世界ではないと思うにゃ」
「異世界ではないとする何か根拠が?」
「ケッティア星の位置が確認できたにゃ」
「なるほど……。あ!」
「どうしたにゃ?!」
「イリスでなく、アッシュの方よ」
「どうかしたのか?」
「塔を登ってくる者がいるわ。多分サラよ」
「そうか、なら急いで戻らないと」
「私はまだイリスと話したいことがあるから、アッシュだけ転送するね」
「ああ、わかった、そうしてくれ」
俺は光に包まれて、王宮の監禁部屋に転送されたのだった。
「あ! ダイアナに猫が見つかったら連絡すると約束したんだった。どうしよう……」




