35. 王都
「この世界は俺になんの恨みがあるんだ?!」
「どうしたの?」
「だってそうだろうヴィー! 王都に魔物肉の串焼き屋も冒険者ギルドもないなんて、そんなの異世界じゃないだろう!!」
俺はヴィーに頼んで監禁部屋から転送してもらい、一緒に王都観光と洒落込もうと思ったのに、あるのは貴族のものと思われる邸宅と一見さんお断りの大きな商会ばかり、岸焼き屋どころか俺たちが入れそうな店が一つもありゃしない。
買い物や買い食いが無理ならせめて散策をと思っても、公園かと思い入ろうとしたのは貴族の屋敷の庭園で、休憩しようにもカフェひとつありゃしない。おまけに、歩っているのは俺たちだけで、すれ違うのは馬車に乗った人ばかり。門番が不審者を見る目でこちらを見ている。
王都はセレブ御用達の高級住宅街で、下々の者は住んでいないようだ。
「従業員や使用人はどこで暮らしているんだろう?」
「みんな住み込みなんじゃない?」
これだけ大きな屋敷ならそれもそうか。
王都に来る途中、馬車から見た街は中世ヨーロッパを感じさせる街並みで、実に異世界っぽかったのに、こんなことなら途中にあった街に転送してもらえばよかった。
そこなら、冒険者ギルドはなくても、串焼き屋ならあるだろう。
そう、この国に冒険者ギルドはない。そもそも魔物はいないし、ダンジョンもないから冒険者がいない。遺跡はあるが、その調査は国の研究機関が行なっていて、誰でもできるものではない。
ここは本当に異世界なのだろうか?
そんなことを考えながらヴィーと一緒に歩いていると、前から同じ歳くらいの女の子が歩いてきた。第一王都民発見!
彼女は周りをキョロキョロしながら歩いている。迷子だろうか?
俺は接触を試みることにした。
「お嬢さん、迷子ですか?」
「?!」
彼女は驚いて、こちらを見たまま固まってしまった。これは、失敗したな。こんな場合どうすれば? 黙って通り過ぎるか? そうしよう。
ということで、そのまま通過しようとしたら彼女に服を掴まれた。
「待って! 猫ちゃんを探しているの」
迷子ではなかったようだ。
「黒猫で手足に白い靴下を履いてるの。それから王冠をかぶっているわ。そんな猫ちゃんを見なかった?」
手足と頭が白い黒猫ということでいいのかな? 王冠ということは、頭は白でなく金色か?
「生憎とそんな猫は見なかったな」
そんな猫どころか、他の猫も見ていない。
「道端でお腹を空かせて泣いていたの。かわいそうだから連れて帰ったら、お父様が駄目だって、屋敷から追い出してしまったの」
「それじゃあ見つけても飼えないだろう。どうする気?」
「う!」
見つけた後のことまで考えてなかったか。
「あなたが飼ってくれない?」
「嫌だけど」
「……」
そんな、縋るような目で見られても、猫を飼うなんて、そんな面倒なこと無理だ。
「……見つけたら連絡くらいしてあげるよ」
泣きそうな女の子には勝てなかった。
「ありがとう」
途端に笑顔になったが、見つけても俺が飼うとは言ってないからな。
「私はダイアナ、ダイアナ・クロフォードよ。猫ちゃんを見つけたら必ず連絡してね」
「わかったよ。それじゃあな、ダイアナ」
「うん、それじゃあ……」
彼女は何か訴えかけるようにこちらを見ている。
「ああ、俺がアッシュで、彼女がヴァイオレット」
「あ、アッシュとヴァイオレットね……」
あれ? 名前が聞きたかったわけじゃないのか?
「あの……、ここどこ?」
結局、迷子だったのかい!
俺たちは近くの門番にクロフォード家の場所を聞き、彼女をそこまで送ってあげたのだった。




