30. 王宮からの使い
ヴィーが盗賊を捕まえてから一月後、久しぶりに一人で村へ来てみれば、そこには豪華な馬車がやってきていた。
「おばさん、何事なんだい?」
「あ、アッシュ君、王宮から来た馬車なんだけど、先日の盗賊関係で来たみたいなのよ。その事をみんなに聞いてまわっているわ。悪いことではないといいんだけど」
「そうなんだ、教えてくれてありがとう」
これは急いで家に戻った方が良さそうだ。
俺は家に戻るとヴィーを探した。
「ヴィーどこにいるんだ!」
「なあに? アッシュ、村に行ったんじゃなかったの?」
彼女は台所から顔を出した。つまみ食いでもしていたのか?
「それが村に王宮の馬車が来ていたんだ。先日の盗賊のことを聞いてまわっているらしい。念のためアマデウスに戻っておいたほうがいいんじゃないか」
「えー、今シヤちゃんと一緒に、マヤさんから料理を教わっていたところなのに……」
「ヴィーちゃん、料理はまた次の機会に教えてあげるわ」
「また、一緒に料理しましょうね」
マヤさんとシヤも台所から出てきた。家族もみんな翻訳イヤリングをつけたため、ヴィーとの会話に困ることはなくなった。
「それなら仕方がないわね。王宮の人が帰ったらすぐに呼んでね」
「わかった。すぐに連絡するよ」
「必ずよ。それじゃあ。アマデウス、船に転送して」
彼女は光に包まれて転送されていった。
「ああ、行っちゃった」
「そうだな。ところで、シヤは何を料理してたんだ」
「べ、別に、お兄ちゃんが好きなものを作ってたわけじゃないんだからね」
「シヤ! ついにツンデレに進化したんだな!」
「ツンデレ? シンカ?」
「シヤ!」
「ヒャー!」
「こらこら、アッシュちゃんいきなり抱きつこうとしたら駄目でしょ。シヤが驚いているじゃない」
俺は感極まってシヤに抱きつこうとしたのだが、それをマヤさんに頭を押さえつけられ、止められてしまった。確かに、いきなりはまずかったか。だけど、いつもいきなり抱きついてくるマヤさんに言われたくはないな。
「我々は王宮の使者だが、こちらがヒルフィールド家で間違いないか?」
「はい、私がこの家の主人ガイ・ヒルフィールドですが、王宮の使者様が我が家にどのようなご用件でしょうか?」
ツンデレに進化したシヤと戯れようと思っていたら、外から声が聞こえた。どうやら王宮の使いがやってきたようで、外で仕事をしていた父と話をしている。
「こちらでエルフ殿が一緒に暮らしているそうだな。国王陛下からの言伝がある。会わせていただこう」
「国王陛下からですか?! 今、家の中に居ると思いますので連れて参ります」
「いや、結構。こちらから伺うとしよう」
どうやら家の中に入ってくるようだ。
「失礼するぞ」
女騎士を先頭に兵士がゾロゾロと家の中に入ってきた。
「ようこそお越しくださいました。私がガイの妻マヤともうします。それと息子のアッシュと娘のシルバニヤでございます」
「うむ、そうか。して、エルフ殿はどちらにいらっしゃる」
「あー、それなんですが、エルフのヴィーでしたら今はここにいません」
「ここにいない? どういうことだ!」
「彼女が転移魔法を使えるのはご存知ですか?」
「村でそのような話を聞いたが、真のことであったか」
「はい、彼女は転移魔法が使えます。それで、今は自分の船に帰っています」
「なに、それなら船はどこにある?」
「船ですので、海でしょうか? 俺も詳しい場所は知りません」
「海だと! ここから王都より遠いではないか。そんなに遠くまで転移できるものなのか?」
「そのようですね」
「それでは、いつエルフ殿は戻ってこられるのだ?」
「それはわからないですね」
「それならばエルフ殿に連絡をとって聞いていただこう。その腕輪で連絡が取れるのだろう」
うっ! それも知られていたのか。それほど人前で使ったことはないはずなのだが。
「それでは、連絡をとってみますね」
俺は腕輪にタッチした。
『御用件ヲオ伝エクダサイ』
「アマデウス、ヴィーに繋いでくれ」
『少々オ待チ下サイ』
「そのアマデウスというのは?」
「えーと、ヴィーの従者のようなものです」
「従者か、なるほど」
『アッシュどうしたの』
「王宮から来た騎士様がヴィーに会いたいようなんだが」
『えー、今は無理よ。魔力切れでしばらくは転移魔法を使えないわ』
ナイスだヴィー! これで諦めてくれればいいが、まあ、そう簡単にはいかないだろうな。
俺はヴィーの発言をそのまま女騎士に伝えた。
「いつ頃戻られるご予定だ。それまでここで待たせてもらおう」
『数日、いや数週間はかかるかも。体調次第なんで』
「それは困ったな。我々としてもエルフ殿に国王陛下からの言伝を伝えずに帰るわけにはいかない」
『それなら、このままお話だけでもお聞きします』
「話だけですか……、まあ、この場合、仕方ないか。それでは、エルフ殿に国王陛下からの言伝をお伝えする」
王宮からの使者である女騎士の話の内容をまとめると、次のとおりであった。
盗賊を討伐した褒美に会ってやるから王宮に来い。気に入ったら妾にしてやる。ありがたく思え。
『慎んでご辞退申し上げます』




