24. バルシャン
「村が滅ぶって、なにを根拠にそんなことを言ってるんだ?」
ヴィーが悪魔で村を滅ぼそうとしていると主張するイザベラに俺は尋ねた。
「パパから聞いたの。イナゴの大群が隣村を襲ったって。次はこの村だろうって」
「イナゴの大群?!」
そこは、異世界なら魔物のスタンピードだろうと思ってしまった俺は罪深い人間だ。
だが、イナゴをただのバッタと侮ってはいけない。大群になれば、全ての作物を食い尽くしてしまう恐ろしい存在だ。確かに規模によっては村が滅びかねない。村が滅びなかったとしても、農業が仕事の我が家には大問題だ。
「今までそんなことは起こったことないのに、今になって起こるのはそいつのせいに決まってるわ!」
「たまたま来たのが同じ時期だというだけで、彼女のせいにするには無理があるだろう」
「偶然のはずがないじゃない!」
お互いの主張が平行線のまま、俺とイザベラは睨み合うことになった。
「私のことはともかく、対策はあるの?」
「対策か……」
「あるわけないでしょ! わかっていて聞いているのね、この悪魔め!」
「イザベラさん! まだ言うのですか!」
シスターがイザベラの首根っこを掴む。これはかなり激怒のようだ。
「二人ともごめんなさい。この子は教会の懺悔室に連れて行くわ」
とシスターはイザベラを引きずり、元きた道を帰っていった。
「あーあっ」
俺は教会で散々お説教されるであろうイザベラを、自業自得だから仕方がないかとそのまま見送った。
「それで、本当に対策はないの?」
「ああ、そうだね……」
はっきり言ってイナゴの大群に有効な対策はない。少数であれば網で捕まえるなどの方法もとれるが、大群となれば、村人総出でもとても間に合わない。
この世界には前世のような殺虫剤は存在しない。毒がないわけではないので、イナゴを毒で殺すことはできるが、その毒は、人や作物にも害がある。イナゴは死んだが、人が死に、作物が枯れたでは意味がない。まあ、被害を広めないために苦渋の決断というのもないわけではないが。
「だったら私がなんとかするわ」
「ヴィーになんとかできるのか? 殺虫魔法とか?」
「私に魔法が使えるわけないでしょ。アマデウスにはそれに適した『バルシャン』が積んであるわ」
「え? バルサ……」
「バルシャンよ!」
「ああ、バルシャンね。ヴィーはバルシャン星人だったか」
「バルクァン星人よ」
「くだらないことを言ってないで、そうとわかればゴキブリでなくイナゴ退治だ」
「まずはイナゴが、どこからどのくらい来るのか調べないとね。アマデウス!」
「ヴィー、ちょっと待って!」
「どうしたの?」
「俺たち注目を集めてるぞ」
そう、ここは村の中だった。それでなくても注目されていたのに、イザベラがあれだけ騒げば、おのずと人が集まってくる。
「おい、イナゴの大群が来るってよ」
「でも、ヴィーちゃんが退治してくれるらしいぞ」
「えー、でも村長の娘があの子は悪魔だって言ってたわよ」
「それはシスターが否定してただろう」
「でも、教会は悪魔なんて存在しないの一点張りだもの」
みんな好き勝手に噂をしているようで、中にはヴィーが悪魔ではないか疑っている人もいるようだ。
「どうする?」
「これじゃあ動きが取りづらいわ。とりあえず家に帰りましょう」
「そうだな」
俺たちは村人たちからの注目を振り切って、まずは家に帰ることにした。
家に帰るとまずは、アマデウスからドローンを出しイナゴの動向を調査させた。そして、それに基づき、イナゴの大群を迎え撃つのに最適な場所をアマデウスに選定させた。
その結果は、村外れの丘の上、つまり、我が家の庭であった。まあ、なんでよりにもよってと思わなくもないが、移動しないで済んで楽ができたと思うことにしよう。
俺たちは庭に出ると、ヴィーがそこへバルシャンを転送させた。
「これがバルシャンか!」
俺は火を付けるか水に漬ける薬剤のようなものを想像していたが、転送されて来たものは、台車に載せられたジェットファンのような装置だった。
「これを使って薬剤を噴霧するのか!」
「薬剤? そんなもの使わないわよ」
「え? バルシャンだろ? 殺虫剤ではないのか?」
「違うわよ」
「じゃあ、どうやって?」
「まあ、見てなさい。早速、第一陣がお出ましのようだからちょうどいいわ」
そう言うと、彼女はバルシャンに命令した。
「バルシャン! イナゴを殲滅しなさい!」
これもスイッチオンでなく、音声指示で動くのか!
ウィーン! ブゥーン!
バルシャンは台車の上で角度をとると、低い唸りを上げ始めた。そしてイナゴの大群があらわれると。
ズババババ!
バルシャンはイナゴに向けて何かを連続で射出したのだった。飛んでいたイナゴはそれに当たり絶命し、次々に地面に落ちていった。
まさかの物理兵器! レーザーでもないとは……。そういえば、眼が粒子砲も物理だったな。
「アレは何を射出しているんだ」
「ドライアイスよ。すぐ溶けてなくなっちゃうから心配しないで」
「ああ、それなら人畜無害だな」
ただ、落ちたイナゴはどうするんだ?
「おいおい、いったい何事だ?!」
ちょうどいいところに父親が家から顔を出した。
「イナゴの大群をヴィーの装置で駆除しているところ」
「イナゴの大群だ?!」
父親は慌てて家から飛び出してきた。
「これは……」
「村長からイナゴの大群が来るって聞いてなかった?」
「いや」
これは、イザベラが口止めしていたのか? それとも……。
「悪いけど父さんは死んだイナゴの片付けをお願いね」
「あ、ああ。肥料にでもするよ」
死んだイナゴの使い道があるようでよかった。




