22. 同居
ヴィーがシヤの病気を治してから一週間、今も彼女はアマデウスに戻ることなく我が家にいた。
遭難して一人ぼっちだというのが、マヤさんの琴線に触れたようだ。ヴィーに我が子のような例のスキンシップ過多の可愛がりをみせていた。美人のヴィーと可愛い系若づくりのマヤさんでは、ヴィーの方が年上に見えるので、なんともチグハグな感じだ。
でも、おかげでマヤさんからの俺への被害は減ったのだが、その分ヴィーからのスキンシップが過剰になった。マヤさんの様子を見て、この世界ではこれが標準だと勘違いしているのだろう。おまけにマヤさんが彼女に、俺の本当の母親は亡くなっていて、寂しい思いをさせているなどと要らぬことを話したようで、おかげでその行動に拍車がかかっている。
それにしてもヴィーの年齢は何歳なのだろう? 聞いてみたいものだが、女性に年齢を聞くのは失礼だろうと、聞けずじまいだ。
マヤさんが引き留めたにしても、一週間もDSDSアマデウスに戻らないのはアマデウスが心配するのではないかと気になり聞いてみたが、アマデウスに自我はなく、あくまで音声入出力用のインターフェイスに過ぎないということだった。
DSDSは調査船ではあるが、軍所属の軍艦でもあるので、ロボット同様反乱を恐れて自我のある人工知能は積んでいないのだそうだ。
「それじゃあ今までずっと一人で、会話もなく過ごしていたのか?」
俺はてっきり船内では、アマデウスと世間話などしながら過ごしているものだと思っていた。
「元の世界では通信で人と話せたんだけど、こっちに来てからはそれもできなかったから、おかげで拾ったアニメの確認が捗ること、捗ること」
それって、明らかに、引きこもりのアニメオタクの所業だぞ。
「だからどうしても人肌が恋しくなってしまうの」
彼女は俺を抱き寄せると頬擦りをし始めた。
「マヤさんに毒されすぎだ!」
俺は彼女を手で押し戻した。
「アーン、いけず!」
俺は彼女が、自分の存在をこの世界の人間に知られたくないだろうと思って、家族にも秘密にしていたが、それは彼女に寂しい思いをさせていただけなのかもしれない。何事も独りよがりの思い込みはよくない。ちゃんと彼女の意思を確認すべきだったのだ。
ということで、確認だ。
「ヴィーは俺とステディな関係になりたいのか?」
「それはない!」
バッサリと斬られてしまった。
「私には婚約者がいるし、だいち、子どもはそういう対象じゃないわ」
「うー、さんざん俺の心と体を弄んだくせに、子どもだからと捨てるんだな」
「弄んでなんかいません」
「してるだろう! こうやって抱きつかれたら、男はみんなそう思うんだよ」
押し戻したはずの彼女は、また俺に抱きついていた。
「そんなことを言われても、アッシュはまだ子どもじゃない」
「だから、そこで俺の股間を凝視するんじゃない! こいつ、いつか絶対に泣かしてやる!」
「あらあら、二人は仲良しさんなのね。私も混ぜてもらおうかしら?」
「マヤさん!」
「もちろんいいですよ」
「よくない!」
ヴィーがマヤさんに気を取られた隙に、俺は彼女の拘束から逃れ、二人と距離を取った。
「まあ、まあ、そんなこと言わずに」
「そうよ、アッシュちゃん」
二人がにじり寄ってきて、俺は絶体絶命だ。女性とイチャイチャしたい気持ちはあるが、子ども扱いなのはいただけない。
その時、天の助けか俺たちの間をシヤが横切った。
「シヤ、お兄ちゃんと遊ばないか?」
「イヤ!」
ガーン! まさに、取り付く島もないとはこのことだ。シヤはこちらを見向きもせず、そのまま歩いていってしまった。
「あらあら」
「二人は仲が悪かったの?」
「俺は仲良くしたいと思ってるんだが……」
「違うのよ。シヤのあの態度はお母さんに、アッシュちゃんと仲良くし過ぎちゃ駄目と言われてるからなの」
お母さんって、叔母さんのことだよな。
「俺、叔母さんに嫌われていたのか?!」
「ああ、そんなことはないから勘違いしないでね。むしろ、お母さんはアッシュちゃんのこと大好きよ」
「それならなんで?」
「元々は私のせいなのよ。成人前にガイと恋仲になっちゃったから、シヤのことを心配し過ぎているのよ」
それって、俺とシヤが恋仲にならないか心配ということか? 兄妹でそれはないだろう。だが、叔母さんとしては、自分の娘が伯父と姪の関係で結婚しちゃったんだから心配にもなるか。
「それって悪いのは父さんということだな」
「ふふふ、まあそうかもね」
マヤさんが意味深な笑いをもらした。
「それじゃあ私はシヤの様子を見にいくわね。アッシュちゃんにつれない態度をとったことに自己嫌悪で落ち込んでいると思うから」
あのシアが本当にそうだろうか? それならシヤがツンデレになって「お兄ちゃんのためじゃないんだからね!」と言い始めるのも近いことだろう。




