21. 治療
突然、妹のシヤが熱を出した。しばらく家族で看病していたが、熱が下がる様子が一向にない。
あいにく、この村には医者も薬剤師もおらず、効くかもどうかわからない民間療法で、薬草を煎じて飲ませるしか治療法はない。
「シヤがこんなに苦しんでるのに、医者に診せることはできないの?!」
「アッシュ、お医者様なんて王宮で王様を診るだけで、一般人がお医者様にかかることなんてできないんだ」
医者がいないのはここが辺鄙な村だからだと思っていたが、村にいないどころの話ではなかった。王宮で王様を診るだけなんて、本当に医者なのか? ただのインチキ呪い師なんじゃないか?
「そんな、それじゃあこのまま苦しんでいるシヤを見ているしかないのか?」
「熱が下がるように、薬を飲ませているだろう」
「そんな、効くかもわからない、その辺の草を煎じた薬なんて!」
「アッシュお兄ちゃん、怒らないで、シヤは大丈夫だから、ゴホン、ゴホン!」
「シヤ、無理するな!」
「ほら、シヤがゆっくり休めないだろう。とりあえず、アッシュは外に出ていなさい」
俺はシヤの部屋から追い出されてしまった。看病もさせてもらえないなんて、兄として情けない限りだ。
シヤが苦しんでいるのに、このまま手をこまねいていていいのか? いいわけがない!
俺は左腕にはめた腕輪にタッチした。
『御用件ヲオ伝エクダサイ』
「アマデウス、ヴィーに繋いでくれ」
『少々オ待チ下サイ』
少し待つとヴィーに繋がった。
『アッシュ、何か用?』
「実は妹のシヤが病気なんだ。ヴィーが人前に出たくないのはわかるけど、どうにか助けてもらえないか?」
『それは大変! できるだけはやく医療キットを持ってそっちに行くわ』
「ありがとうヴィー、恩に着るよ」
通信を切ると、俺は家の玄関先で彼女が転送されてくるのを待った。
待つこと五分、美しいエルフが天から舞い降りた。それはもう、天使か女神のようだ。
「ヴィー、転送でなく、なんで空から降りて来たんだ?」
「だって、急いだ方がいいでしょ。転送用ドローンを飛ばすより、直接アマデウスで飛んできた方が早かったから」
「アマデウスできたのか?!」
俺は上空を確認するが、アマデウスの姿は見当たらない。
「ステルスフィールドを張っているから見つからないわよ」
「そ、そうか……」
アマデウスの姿を村人に見つかれば、ドラゴンが襲ってきたと大騒ぎになるところだったので、ステルスフィールドがあってよかったが、隠蔽魔法や透明化魔法でないのが少し残念だ。
だが、今はそんなことを残念がっている場合ではない。
「早速で悪いけど、妹のところに案内するから、頼めるか?」
「ええ、そのために来たんだから」
彼女は、肩から下げた黒くて四角いバックをポンポンと軽く叩いた。それが医療キットなのだろう。
「それじゃあ、こっちだ。両親もいると思うけど、俺が話をするから気にしないでくれ」
「わかったわ」
彼女の表情がいつになく真剣なのは、妹の病気を心配してなのか、俺の両親に会うためなのか。もしかすると、その両方かもしれない。
トントントン!
「アッシュか? なんだ?」
「シヤを治療してくれる人を連れてきたんだ。中に入るよ」
俺は、両親の返事を待たずに、ヴィーを連れてシヤの部屋に入った。
「アッシュ、治療できる人って……、エルフ!!」
「え?! 嘘でしょ!!」
ヴィーのことを見た両親が絶句して動かなくなった。これは好都合だ。説明している時間ももったいない。
「ヴィー、早速診てくれ」
「お邪魔します」
彼女は遠慮がちに部屋に入るとシヤの寝ている側までいき、肩にかけたバッグを床に下ろしその蓋を開けた。
「何を!」
彼女がバックからハンディスキャナーのようなものを取り出すと、父が我に返り彼女を止めようとした。俺は、それを制止するために彼女の前に立ちはだかった。
「彼女にシヤを治療してもらうんだから、邪魔しないで」
「だが、エルフ……」
「アッシュちゃんは、エルフさんと知り合いだったの?」
「彼女はヴィー、遺跡で知り合って仲良くなったんだ。遠くの国から来たんだけど、船が遭難して、今は一人、帰る方法を探しているんだ」
「まあ、じゃあ、今は家に帰れないで、ひとりぼっちなの。大変ね」
これは、うまくマヤさんの同情を引けたようだ。
「妹が病気で苦しんでいることを話したら、異国の治療道具を持って飛んできてくれたんだ」
それこそ、言葉どおり飛んできたのだが、まさか本当に飛んできたとは思いもしないだろうな。
「そ、そうなのか? それは感謝するが……、あれは本当に大丈夫なのか?」
「まあ、彼女を信じて任せてよ」
「そうね。悪い子ではないみたいだから、信じてみましょうよ」
「そうだな……」
彼女は真剣に、ハンディスキャナーのような器具をシヤに当てている。
「ヴィー、それで何の病気かわかるのか?」
「あ、これ? これで本人の治癒能力を高めているの。病気を鑑定する器具じゃないわ」
てっきり、診断をしているのかと思ったが、もう、治療していたのか。
「病気を鑑定しなくて大丈夫なのか?」
「人間には治癒能力があって、大抵の病気や怪我は、それを高めれば治るものなのよ」
「そうなのか?」
言ってることはもっともなのだが、治癒魔法だと言われた方が安心できると思うのは、俺が魔法にこだわっているからだろうか?
「言ってることはわからないが、アッシュ、本当に信じて大丈夫なんだろうな?」
ああ、そうか、俺は翻訳イヤリングがあるから彼女の言葉がわかるが、家族には通じていないのだな。それでも、俺とのやりとりで雰囲気は伝わったのだろう。
「たぶん」
それから一時間もしないうちに、シヤは熱も下がり元気になった。今まで寝込んでいたのが嘘のように部屋の中を飛び回り、ヴィーと楽しそうに遊んでいる。この短時間に随分と彼女に懐いたようだ。
その様子を見て父も警戒を解いたようで、一緒に夕飯を食べていくように彼女に勧めていた。
もう、うちの家族で彼女がエルフだからと忌避する態度を取る者はいなかった。もっとも、本当はエルフでなく宇宙人《バルクァン星人》なのだが、そんなのは関係ないだろう。




