16. ドラゴンの正体
ドラゴンを目撃してから数日後、俺はDSDSアマデウスのブリッジにヴィーと一緒にいた。
目的は、もちろん彼女にドラゴンの話をするためだ。そして、あわよくば、この宇宙船で飛び去ったドラゴンを探しに行ければと考えている。
「ヴィー、村の近くの霧の谷にドラゴンがいたんだ!」
「ふーん」
「それが、こーんなデカくてさ! それなのに重さを感じさせず、光る翼を広げてスウーと飛んでいったんだ!」
「そう」
「飛び去った後にはさ、谷の壁面に大きな爪痕が無数に付いていたんだ!」
「へー」
こちらがテンション高く話しているのに、彼女の反応はすこぶる悪い。どうしてだろう?
「もしかして、ヴィーの世界では、ドラゴンがそこらじゅうを飛び回っていたのか?」
「いえ、ドラゴンはいなかったわ」
「それにしては、随分と関心が無さそうだけど」
「そうね」
なぜ彼女はこうもドラゴンに関心がないのだろう?
「ヴィーも実際にドラゴンを見れば、その凄さがわかると思うよ。これから一緒に探しに行かないか?」
「探しに行く必要はないわ」
彼女からは、つれない返事しか返ってこない。どうして、今日に限ってこんなに乗り気でないのだろう?
「もしかして、体調が悪いのか?」
「そうじゃないの。ごめんなさい。本当のことを言うと、アッシュの言っているドラゴンに、私たちは、今、乗ってるの」
「え?」
ドラゴンに乗っている? どういうことだ、今乗っているのは宇宙船だよな。
「もしかして、この宇宙船ドラゴンの背中に乗っているのか!」
それはすごい! 確かに、ドラゴンは五百メートル位あった。それなら、宇宙船を背中に乗せることもできるだろう。
「いえ、そうでなくて、アッシュの言っているドラゴンが、この宇宙船だったの!」
「え?」
彼女は何を言っているのだ、ドラゴンが宇宙船? 流石に無理がないか?
「アマデウス、この船の外観図を3Dで表示して」
彼女がそう指示すると、ブリッジのドームに立体的なドラゴンの姿が映し出された。でもよくみると、ところどころ機械くさい。メカドラゴンといった感じだ。
「DSDSアマデウスは、深宇宙探査船《ディープ スペース ディスカバ シップ》でDSDSなんだけど、別名というか通称があって、恐竜型母艦《ダイナソー スタイル デポ シップ》とも呼ばれているの」
恐竜型だと! そんなの許せるか! 誰がなんと言おうと、これはドラゴン型だ。
「ドラゴン スタイル……」
「いえ、ダイナソー スタイルよ」
「そうじゃない。絶対、ドラゴン スタイルだ! ドラゴン型なんだ!!」
「……まあ、通称だから好きに呼べばいいわ」
必死な俺の訴えに、彼女が仕方なく折れたようだ。
「アマデウス、今日からお前はドラゴン型だ」
嬉しそうに言った俺に、彼女は少し呆れた様子だ。
しかし、彼女の世界にも、ドラゴンはいなくても恐竜はいたんだな。
「ヴィーの世界では、恐竜に羽根が生えていたのか?」
「羽根? ああ、これはフィールド発生装置よ。羽根ではないわ」
なにー! 羽根ではないだと!
「この前のように、重力下で飛ぶ場合には、反重力フィールドを発生させるの。それが光って見えたのね」
「え? 浮遊魔法じゃなかったのか?」
「ただの反重力フィールドよ」
がーん! ドラゴンを否定された上に、浮遊魔法まで否定されてしまった。泣きそう……。
くっそ! それならせめて。
「口からブレスを吐いて攻撃したりは……」
「しないわね」
「そんなー!」
ドラゴン型なら口からブレスを吐くだろう! どんな設計をしてるんだ! ああ、本当は恐竜型だったか。
「口からは、ドローンが発着するわね」
「そんな、ワンコやペリカンじゃないんだから。だいち、ドローンは敵側だろ!」
「言っている意味がわからないのだけど?」
「あ、ごめんテンションが上がり過ぎた。今のは気にしないでくれ」
「そうなの?」
「すー、はー」
俺は落ち着くために深呼吸をする。
「ブレスがないとなると、遠距離攻撃の手段はないのか?」
「めが粒子砲ね」
「メガ粒子砲があるのか!」
ファンタジーではないけど、それはそれで興奮するな。
「違うわよ。眼が、粒子砲なの」
「ああ、眼からビームが出るのか」
「ビームは出ないわよ。粒子砲だもの。粒子が射出されるの。砂粒が噴き出すイメージね」
「砂粒……、ダサ過ぎる。目潰しかよ!」
てか、これじゃあ自分の目が潰れるぞ。
「実際に敵のレーダーの撹乱などに使われるわね」
ありゃ、ちゃんと相手の目潰しになってるのか。
「そうなのか。それで、ビームとかはないの?」
「指先からレーザーが出せるわ」
「おお、やればできるじゃないか」
「もっとも、工作用で、攻撃には向かないけど」
「工作用?」
「岩を切り出したり、壁に穴を開けたりかな」
「もしかして、谷の壁面の傷はそれで?」
「そうよ」
「岩を削って何してたんだ?」
「燃料補給ね」
「岩が燃料なのか?」
以外だ、魔力とは言わないが、反物質くらいは出てくるかと思っていた。
「岩というか、物質なら何でも燃料になるのだけれど、重い物の方が効率がいいわ」
「そうなのか。それを核融合でもするのか?」
「核融合でなく、二重四連鎖タキオン転換炉《ダブル クワッド タキオン リアクター:DQTR》を使って物質をタキオンに転換するわ」
「つまり、アマデウスはタキオンで動いているということか」
「そうよ。魔力でなくて残念ね」
いやー、本当にそのとおり!
「ところで霧の谷以外で、アマデウスを隠せる場所はないかしら?」
「燃料補給が終わってなかったのか?」
「そうじゃなくて、上空に留まっているには反重力フィールドを張り続けなければならないのよ。それって燃料の無駄でしょ」
「宇宙空間に出て、衛星軌道を回っていればいいんじゃないか?」
重力圏外に出てしまえば、反重力フィールドは必要ないし、宇宙空間なら人に発見される心配もない。
「それだと、転送可能距離の外にでちゃうのよ」
「転送可能距離って、そんなに短いのか」
「見通し距離なら数百キロはいけるんだけど」
おっ! 結構いけるじゃないか。
「静止軌道の高度までは距離的に無理なのよ。低軌道の高度なら距離的にはいけるんだけど、常に頭上にいるわけじゃないでしょ」
静止軌道でないならば、常にこの星の周りを回っていることになるからな。転送できる時間が限られてしまうことになるな。
あれ? 俺、結構好きな時に転送してもらってないか?
「もしかして、俺に会う前から霧の谷にいた?」
「そうね。出会った遺跡を調査するために、少し前から霧の谷に停泊していたわ」
「なーんだ。俺はてっきり、この宇宙船に居るときは、ずっと宇宙空間に居るものかと思ってたよ」
それなら、転送されなくても歩いて来れたということだ。まあ、今更歩く気はないがな。




