71・韜晦脱却
真っ昼間。ファルコン……真っ黒な怪鳥に乗っての学園への帰還である。
つまり、目立ちまくりである。
皆の注目を集めまくってるわけだが、キーアリーハは涼しい顔だ……ウィル君は戸惑いまくってるけどさ。
……コレが一般人と公爵令嬢の差か。いや、ウィル君も一般人とは言いがたいわけだけどさ。
「さて、ウィルの編入手続きを、ササッと済ませるわよ?」
そう言ってファルコンを回収すると、キーアリーハはオレを抱き上げて歩き始める。向かう先は外泊手続きをやった管理事務所みたいな建物だな。
ウィル君は、手に刀を持って、おっかなびっくりキーアリーハに付き従ってますよ。
「お嬢様……オレ達、すごく注目されてる」
「そりゃそうよ……人を乗せて飛べる影法師を作れる術者なんて生徒には居ないもの」
キーアリーハさん……もう三味線を弾く気は無い、つー事ですね?
前も説明したが、三味線を弾くつーのは相手に合わせるって意味で、キーアリーハは相手に合わせて実力を隠してたわけだ。いわゆる韜晦してたわけだね。
けど、もう実力を隠してまで、周りや相手に合わせたりしないって方向に決めたわけだ。
「あと、オレも注目されてるような……?」
「そりゃ刀を持ったメイドって時点で視線は普通に集まるだろ?」
オレは言ってやる。
そして、オレ達、キーアリーハ御一行で一番目立つのは刀を持った元は男だったのにメイド姿のウィル君である……いや、先日カミサマに強制的に性転換されて元の転生前の性別だった女に戻ったっぽいんだけどさ。
「メイド服……着ない方が良いのかな?」
「アタシ付けのメイドなんだし、仕事中は脱いじゃダメ!」
キーアリーハさん。アナタ、ウィル君の事を嫌ってませんか?
もしくは虐めたくなるぐらいに好きなのかも知れんけどさ。
「んじゃ、オレ、基本ウィル君と一緒に行動するわ。キーアリーハのファミリアたるオレがウィル君と一緒に居るってことで、キーアリーハとウィル君の関係が自ずと察せるワケだしさ」
「ダメ。シャドウはアタシの半身なのよ?」
う~ん……半身と何度も言われてるわけなんだけど、未だにピンと来ないんだけどな?
「ここでのオレの仕事って何なんでしょう? 学園じゃ実質一人暮らししてたわけですよね……あと、オレって公爵家じゃ掃除洗濯しかメイドの仕事はやってなかったんだけど……」
「ウィル君……料理できないの?」
「一応は出来るけど、お前は舌が貧しいから料理には向いてないって言われちゃったよ……」
……ウィル君。美味いものが食べたいって願望はあるみたいだけど、とりあえず腹が膨れれば良いってのが根底にあるんだろうね。
キーアリーハとの食事の差には全然、不満は持ってなかった感じだしさ。
「アタシの護衛よ! ……剣を持ってるんだし一発で判るじゃないっ!」
キーアリーハさん。今のアナタには護衛はいらんでしょ? オレもくっついてるわけだしさ。
……って、ガチで護衛が必要になりそうな気配がバリバリするぜ。
具体的に言えば、周囲の注目を集めてるキーアリーハに気づいたソーノベンが、オレ達に向かってきてるワケなんだけどさ。
オレもターゲットにさせそうなんで……って、キーアリーハのファミリアなんで結局は同じかい。ならオレが動いても良いか。
「お嬢様にはシャドウさんもいるし、特に護衛は不要だと思うんだけどな?」
警戒態勢に入ったオレを尻目に、ウィル君は能天気に言ってくれるよ……相手はキーアリーハを目の敵にしてるソーノベンだぜ? いやまあオレがいる手前、特に護衛は不要ってのは同感だけどさ。
「お嬢様ねぇ? 田舎の貧乏商家の娘だと思ってたのに……キーアリーハの実家ってお金持ちだったのね。でも、魔法使いじゃない者は、妄りに学園には立ち入れないわよ?」
ソーノベンは嫌みを交えた口調で言うが……ウィル君も魔法使いなんだよなぁ?
「オレも魔法使いだよ? エンハンサー……身体能力の拡張がオレの得意分野。あと、一応だけど精霊魔法も使えなくもないかな?」
ウィル君……精霊魔法も使えたんですか。
一応とは言え魔法使いを護衛に付けられる家柄……どう考えても資産家ですやん。いや資産家っつーか、属国とは言え国家元首の一族なワケですが。
でも、ウィル君の腕前って、ラッペトスと戦ったときのキーアリーハ以下だと思う。あの時のキーアリーハは、精霊を上手く従えられないってだけで術の威力は申し分なかったしさ。
ウィル君の言葉を挑発と受け取ったようで、ソーノベンは周囲を漂う風の小精霊を嗾けてきた。
キーアリーハを中心に旋風が起こり、砂埃が巻き上げられる。
いや、砂が舞って前に向かって目を開けてられねぇよっ!
慌てて顔を背けると、視線の先にウィル君が居た。
『ブった斬るぞ?』
刀の鯉口を切りつつウィル君が精霊に呼び掛けた途端、唐突に旋風が止まった。
うん? 精霊魔法と言ってもウィル君は精霊と会話が出来るレベルで、使役できるってレベルには達してないってことかね?
いや、慌てたように風の小精霊が縮み上がったんで、精霊魔法使うより自分で戦った方が強いって考えで動いてるのかもしれんけどさ……
「小精霊ってのは基本的に薄情よ? 親玉クラスの大精霊や自身に力を行使できるような相手に対しては逃げ腰になりがち……よほど慕われてなきゃ、そういった相手に小精霊をけしかけて喧嘩を売るのは自殺行為だぜ?」
ウィル君……言外に自分が精霊相手に力を行使できるって言ってますね?
まあ、魔剣も持ってるからねぇ……たぶんウィル君の持ってる『紫電改』なら、精霊も斬れるだろう。オレも使わせて貰ったんで、その性能は把握してるつもりだ。
「精霊を脅せる魔法使いなんて、滅多に居ないのに……」
そのソーノベンの言葉にオレは違和感を覚える。
「キーアリーハ。学園を発つ前に精霊を追っ払ってなかったっけ?」
「追っ払ったわよ? ファルコンで飛び立つときに、ちょっかい掛けられたくなかったからね」
オレとキーアリーハのやり取りを聞いて、ソーノベンは血相を変える。
「あの時、回りに精霊が居なかったのは、アンタが追っ払ったからっ!?」
そうキーアリーハに問いかけるが、キーアリーハは取り合う気は無いらしい。
ガン無視して、その場を離れようとする。
「いくら魔法使いだと言っても、生徒じゃない者が学園に立ち入るのは問題になるわよ!」
ソーノベンは言うが、キーアリーハは無反応だ……ガチで嫌ってんだな?
「オレの編入手続きが済めば問題ないですぜ……フラムベル公国、随一の豪商。そこのお嬢様ですから、この程度の無理無茶なら通るってモンですぜい?」
ウィル君は言う。
つーかね。公爵家も何かしら商売やってるだろうし、公国随一の豪商ってズバリ公爵家になったりせんかい?
ならんにしても、公爵家と深い繋がりは、あって当然なわけで……
「ウィルっ! 余計なことは言わない!!」
ほら怒られた……
まあ、一般ピープルだと思ってたキーアリーハがガチなお嬢様だと認識されちまったわけで……今後、色々とややこしくならねぇかね?
あと、ガウスさん……今、何処に居るんだろうね?




