エゴ
当たり前、という名で呼ばれているエスカレーターに二人の少年が乗りこんだ。
一段ちがいで、無言のままで。
男の子たちの右側を通る人々は足早に上の階へと上っていった。
駄犬と駄犬好き、前編という名で呼ばれている男の子。
プールサイドボーイにホワイトサンダーシスター。
いつも平等に写したい党の女子二人組は、いくつも二人の横を通っていった。
抜糸だけは巧みな名脇役志望、時計をいつも相手にしているキス魔、後編という名で呼ばれている空の鳥籠をかかえた女子小学生という具合に、男の子たちはなぜか次々と追い抜かされていった。
エスカレーターは、もの自体は古びている。
二人の嫌悪感は足元に溜まっていく。
言葉で受ける痛みは、足元に溜まっていくわけじゃない。言葉で受ける痛みは、何かに似ているわけじゃない。言葉で受ける痛みは、足元に落ちたり集まったりするわけじゃない。言葉で受ける痛みは、男子学生が耐えるべきものなわけじゃない。
それでもだ、中学生たちにはエレベーター前に集まっている沈鬱そうな表情の高校生たちを目にすると、まだこちらのほうがましなように思えてしまうのだった。
二人とも、手に何も持ってはいない。
手すりに、つかのま置いておくべき重たい名前も、まだ見つけてはいなかった、彼らはそういう二人だったので。
骨を折った秋も、片腕しか使えない冬も食べ終えて、以前までは互いに何を喋っていたのか、どんな声をしていたのか二人ともさっぱりと思い出せなくなっていた。
容易に可能だったのはこのこと、他の同級生が集まるような場では顔を合わせないように回避行動をとること。
それをしないのは、男子中学生のエゴだった。
男子中学生のエゴがふたつ。
ためらいが二人の横をとおりすぎていった。
ためらいは、いつもイヤフォンをした耳でいる。
ためらいが聴いている音楽で二人の少年が知っているものといえば、ヤー・ヤー・ヤーズとかペット・ショップ・ボーイズとかイーダ・マリアとかだ。
指定ズボンの裾だけには微かな声が付着してくれていた。部屋に帰ると男の子たちは、下のきょうだいの汚れなき手をうまく使ってその声を聞いた。
「おれについて、あいつが耐えてくれてた、くれてる、そんなこと信じたくはないんだ」
そして、貝殻のこと。
エスカレーターの終わりには近ごろ必ずそれが転がっているのだ。二人とも知っていた、コトコトと音を立てているそれが二人のものだということくらいは見れば理解できた。
見えてないというわけでもないのに、二人とも拾おうとはせず、周囲に悟られないように見向きもせず、二人がそこを愛するのを双方の両親が望んでいる、その階へ行くのには、貝殻は邪魔っ気だった、というわけでも本当になかったのに。




