幾つかは
それがあなたのものだということを、僕は知っていた。
それは、あなたの席に置いてある、あなたのお茶だ。
あなたはただ、やむを得ない理由から席を起っただけだった。
あなたの不在は、あなたがそこに存在することと何ら変わりないことのように僕には見える。
あなたの不在は、あなたのもの。そういうふうに僕には思える。
でも多くの人がそれとは真逆の考えを持っている。
あなたが席から離れていて、誰それの話をしよう、と考えながら黙って椅子の上にいるようなことは彼らには全然なくて、あなたの不在をどれだけ自分たちの手で汚せるか、競っているようなところさえ、彼らにはある。
あなたの不在、いつもそれはなぜかあなたが汚れるということだった。
あなたのお茶が、汚されていく。
僕はずっとそれを見ていた。僕はちゃんとそれを見ていた、あなたのお茶が汚れていくのを、カップの中に毒々しい色の液体が混入されるところを、落とされる唾を、さらには情けないキスハグまで。
僕はずっと黙って見ていた、あなたが戻ってこなければいい、と考えながら。
なぜといって、あなたは自分のテーブルになった席が歪んだ様相になったままで離れたりするような性格はしていないから。
食べ残しもしない、あなたは全てを飲み干す、あなたはちょっと自信家みたいにも見える。
それはあなたのものではないかもしれないのに、と傍目にしてるとそう思える時だって、多々あったので。
さっきまでは確かにあなたのものだった、でも目を離した隙に別のものとすり替えられている可能性だって、充分にあるのだから。
それなのに、あなたは全てを飲み干す、確かにあなたは鼻が利く。でも、あなたには自分のルールがどんな匂いをしているか、きっとちゃんとは分かってない。
厄介なのは、あなたが強い人だという点だ。
それはもう、あなたは強い人だとこちらとしても死ぬまで信じ続けたくなってしまっているほどだ。
テーブルの周りで起こることもあなたはありのままに受けとめられる人なのだ、と。
もちろん強くあろうとするあなたのルールは、あなたの小さくない穴だ。
あなたにはそのことが見えていないけれど、僕らには見えていて、なのにこれまで、そのことをあなたに説明しようとしなかった、したくてもなかなかできない類いのことだと誰かがいったから。
それと、いうまでもなく、自分たちの前であなたが、あなたらしくなくなってしまうのを眼にするのは淋しくなるに違いないことだから。
でもチャンスは何度かあった気がする。
話す必要のあることだと強く思えた時も。
だからきっともう、やるよりやらないほうに僕らの心は傾いていたのだと思う。
理由は、僕らがあなたのことを、見たかったから。
あなたにいつも知っていてほしかった、見てほしかった、あなたが属する、あなたが決して逃げ出すことはかなわない場所、あなただって危ないところで転ぶことはあるんだということ、ここという場所でしか息はできないんだということ。
ここにいるあなたをいつでももっとよく見たい、そんな表情もできるんだと知りたい、僕らは毎日何か見たい。
そしておそらく、そうやってあなたのことを見ているうちに、次第に、同じくらいの強さで、あなたもこれと同じようにやることを望むようになっていたのだと思う。というのはつまりこういうことだ。僕が座った時はこっちを見て。




