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寮内食堂にて






 彼女の手にある紅茶茶碗から、輝きを放つ液体がとめどなく溢れ続けている。彼女の液体が、私たちのテーブルを侵していく。彼女の手から、それは奇跡的に落下せずに持ちこたえている。いつでも完璧な彼女の心の動揺を、溢れ出る紅茶が私たちに伝える。私たちはぎりぎり、彼女の制服の胸のへん、同じ位置にずっといる紅茶茶碗をみとめることはできるものの、肝腎の、彼女のいまの表情を見ることはかなわない。手足が少しも動かない。彼女の両の目はおそらくだけど、まだ部屋の反対側のテーブルのほうを向き、何かの光景に釘づけになっているままなのだろうと私たちは思った。彼女の意識はまだまだ自分の手元に、静かな悲劇が起きているテーブルのほうに向けられることはなく、そして彼女の液体がとめどなく溢れ続けている。タイミング良くトイレに行っている子が一人いた。その子の置いた読みさしの魔導書は、見るみるまに無惨なことになった。無限紅茶は、テーブルを伝って端まで到達する。ダダという品のない音を立てて、敷物の上に流れ落ちる。それでもまだ、彼女は手に紅茶茶碗を持ったまま。中途半端な、自分の席のところで立ったポーズのままだ。彼女の顔は級長のテーブルがあるほうと思しき方向に向けられていて、彼女は固まったままだ。私たちは彼女の術により、椅子の上に縫いつけられたまま、目の動きだけで他のメンバーと会話するのがやっとという状態のままだ。でもここは彼女の好きにさせておこう、そう私たちは取り決めていた。無意識にやっていることとはいえ、彼女は私たちに側にいてほしいと考えているのが私には分かる。ハプニングとはいえ、彼女の所有物になれたような気がして誰もが居心地の良さを感じているのが私には分かる。規則で、実習場以外で術を行使することは禁止されている。それだけにだ、自分が彼女によって物のように扱われていることに、ごまかしきれない喜びを感じ、私たちは自分がどれほど俗っぽいか思い知り、それでもやっぱり私たちの体も心も甘んじて彼女に縛られたまま、何にも冒されていない朝の光を背に感じ、制服のスカートを憧れで汚し、私たちは自分というものの前も後ろも、心もものの考え方も何て矮小なんだろうと、ともかく全員が全員、この状態を恥じていた。彼女の液体は熱かった、それが嬉しいのだった。やがて全員がうつむくしかなくなる、それは苦痛だからということではなく。

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