金網
俺の記憶している情景で、練習前のコート風景というのがあった。
市立中学校のそのテニス部に、俺はじっさいに入っていたということではなかったのだが、記憶は今も鮮やかだ。
何度も話をした男子部員も、目の前をただ行きすぎるだけだった女子部員も、物もみんな、見えるものは金網フェンスごしだ。
今となっては、彼との繋がりがどういうものだったのかは思い出せそうにない。でもその中学校で一人、俺は信頼できる友達をつくれていた。
しょっちゅう体の前でラケットを遊ばせているようなあちらとは違って、こちらはまじめなのか不まじめなのか自分でも判断できていないというか、全てにおいて判断を怠り続けているといったようにぼんやりとした男子生徒で、こちらと違って、あちらは頭の回転がはやい男だっだ。
きっと、分かっていて親友は座っていた。俺がフェンスのところに立つと、親友のほうもやって来て座り込む。そして背を向ける。二人はいつもそんな具合だった。
二人でいつもそうやって練習前に少し喋っていた。今はかなりの確信を持って思う。あれは知っていたに違いないと。俺のことを面白がっているんだと、何度か、仕種でなり声の出し方でなり、伝えてきさえしてたかもしれない。
とにかく、そんなふうにフェンスに触っている時間というのが俺はちっとも惜しくなかった。
細部を観察するようにしながら、そこに立っていた。金網のところまで来た相手が背を向けることを、俺は好んだ。フェンスのすきまから飛び出すようになった髪やら運動ジャージやらを、俺は好んだ。
ほとんど見惚れるような視線になっていたんじゃないだろうか。そこでそうして二人で話していると、よく他の男子部員たちも寄ってきた。
昔は可愛かったのにと今の俺にいってくるようなのは、女でも男でも、あの頃あのコートにいた元テニス部員たちだけだ。
このところいやでも自覚させられている部分でもある。向かい合わせになった相手が男だった時、自分には、フェンスの向うにいる男にしかうまく笑い顔ができないんだと。気づいていてそばに座ってくれる人もいない、今の世界にいる俺じゃ、男たちの気をよくするような笑い顔なんてもうできない、もう搾ったって出てこないんじゃないかと。




