第7話
「元の世界に帰るって、どうやって? ここは井戸がないですよ?」
宇佐美さんが不思議そうに聞くと、3ぼーず先輩たちは互いの手を繋いだ。
「昔の少女アニメでやっていただろう。手を繋いでテレポートするって」
「総、少女アニメなんて俺も見てねぇぞ」
「まぁまぁ、言いたいことは伝わるっしょ? ともかく君たちも手を繋いで!」
3人の言う通りに俺たちは手を繋いだ。俺の隣は三蔵と柊だ。宇佐美さんと近づかせようとしないところが女の結託という感じだろうか。だが、一応こいつらも異性なんだよな。異性と手を繋ぐなんて少し
小っ恥ずかしいところだが……ちなみに宇佐美さんの横は三蔵と智里先輩だ。智里先輩が少し羨ましいが、先輩は異性と手を繋ぐなんて恥ずかしくないんだろうな。年上だし……と思ったが、少し顔が赤い気がしたのは見なかったことにしておこう。宇佐美さんは本人は自覚がないかもしれないが、かわいいからな。
「いいか、繋いだな?」
智里先輩が確認を取ると、閂先輩が声を上げる。
「おっけーだな! よぉし、いくぞー!!! このまま右の方向に走れ!!」
「は!?」
俺は思わず声出す。走れって……高速で円を回転させるつもりか!?
「え? え?」
「宇佐美、とりあえずやるぞ!」
「目が回っちゃうよ!!」
宇佐美さん、三蔵、柊、俺も言われるがままに横へ走り出す。なんだこれ。子どものときにやった遊びような感じ……をもっとハードにしたようなものは!!
「よし、いくぞ、ふたりとも! 祓い給え、清い給え!!」
「主よ、我々を導き給え〜!!」
「合掌!!」
『脱出! パラレルユニバースム!!』
◇◆◇
「……うん?」
気付いたところは、ホールだった。
「帰ってこられたようだな?」
三蔵がつぶやく。すると、大声がホールに響いた。
「うわーん!! みんな帰ってきたぁ〜!! よかったぁ〜!!」
「まったく……天利は何をやってるんだ」
「三池……教授?」
天利先輩の横には、三池教授が立っている。
「今日は学会って書いてあったような……」
宇佐美さんが首をかしげると、三池教授はため息をついた。
「いや、学会から帰ってきたら、勝手にうちのゼミ生がパラレルユニバースムに1年生を送ったと聞いてな。天利に目付けの本能寺、閂、智里を付けておいてよかった。油断も隙もない」
天利先輩、ゼミの生徒っていうのもあるかもしれないけども、もしかして問題児? 確かに留年してるしレポート課題も終わっていないって言ってたもんな。
でも、天利先輩だけを悪者にするのはよくない。助け舟を出したのは柊だった。
「教授! ボクらが先輩に頼んだんです。パラレルユニバースムに連れて行ってほしいって」
三蔵も同調する。
「そうです。私たちも個人的な研究をしたくて無理を言いました」
「ふたりとも……」
「まぁ、レベル20の世界に飛ばされましたけども」
「三蔵! フォローしてくれると思ったのに〜!!」
「あ、あの、当てこすりはよくないです……」
涙目で抗議する天利先輩と、さらにフォローする宇佐美さん。三池教授はあごをさすると、即答した。
「停学」
「ふぁっ!? 後輩に便宜を図ったら停学〜!?」
「いや、天利だけじゃなくて、君ら1年次全員」
「なっ!?」
「そ、そんなぁ〜……」
「なんだと! 首席狙いだぞ、私は!」
「ぼ、ボクだって!!」
慌てる俺たちだが、3ぼーず先輩たちは冷静だった。
「いや……キミら停学で済んでよかったほうだって。オレたちが来なかったらレベル20から帰ってこられなかったんだよ?」
「そうだぞ。天利先輩の目付けを怠った僕らにも問題はあったけどもな」
「命あっての物種だ。大学で死傷者を出すわけにはいかないし、自分の命含めて無駄な殺生はよくないぞ」
「ってわけで、1週間停学。事務室で手続きをしてくれ」
三池教授があっさりと締めた。
俺たち1年と天利先輩の4人は事務室へ向かう。到着すると事務の方に声をかける。
「あの……あたしら1週間の停学になっちゃったんですけど」
一番学年の上な天利先輩が代表だ。暴走した後輩の尻拭いをさせられるなんて、先輩も損な役割だ。
「じゃあ、これに自分の名前を書いて学部の掲示板に貼っておいてください」
「……」
『下記学生を停学処分に処す。期限: 名前:』
じ、事務的だ……。
事務的だが、処分は処分なんだな。
「なんという屈辱! 首席になるために努力しようとしたことが裏目になるとは!」
「本当だよ!」
三蔵と柊はごたごた言ってるけど、これって自業自得だよな……。むしろ俺と宇佐美さん、巻き込まれてね?
「あたしも停学だよっ! あんたたちに関わったせいだ! くうっ~……ただでさえ、春休み中に渡された課題レポート終わってないのにっ!」
そう言えば、レポートってあれか。研究室でやっていた……。本当に天利先輩は巻き添えだ。頼んだのは俺たち……厳密にいうと、暴走した三蔵と柊のせいだ。
「……まぁいいけどね。停学中はレポート終わらせてバイトするし」
「すみません、先輩」
「ごめんね~?」
「三蔵も柊も反省の色が見えない!」
「ふぇぇ……い、いきなり停学だなんて、お母様たちになんて言えば……」
宇佐美さんが泣きはじめる。それもそうだな。彼女も巻き込まれた一員だ。ついでに俺もだ。
「宇佐美は少し、精神的に強くなろうね?」
天利先輩もさすがに怒れないみたいだ。優しく頭をなでている。それをふたりの問題児が困ったように見ている。っていうか精神的に強くなるって、停学処分出されて強くいろって無理ないか? 俺だってちょっと泣きそうだ。三蔵と柊はさすがに反省してくれているのか?
そんな予想は大きくはずれた。
「今度はちゃんと、基礎的なことを学んでからだな。まずは移転魔法だ」
「ボクも停学中、もっと呪文を考えとく!」
こいつらはまったく懲りてねぇ。これからの大学生活、うまくやっていけるのか?
そんなことを考えているときだった。
「……うわ、入学早々停学とはすげぇ新入生だなぁ」
「本当だよ、だっさw ひとりは3年? 先輩ついてこれとか、あり得ねぇと思ったら中二学部か」
「……!」
俺たち4人は顔を引きつらせた。3ぼーず先輩たちとは違う感じの、チャラチャラした2人組だ。
「しかも女4人に男ひとり? ハーレムじゃん。なになに? 女に守られてるの? それとも女囲ってるの?」
「そういうのだったら、俺も中二学部入ればよかったぁ〜」
「口を慎め。私と宇佐美は聖職者志望だぞ」
俺たちのゼミの魔法構築論の神宮寺教授は、『神学部落ちの生徒は呼んでいない』とは言ったけど、確かに三蔵と宇佐美さんは聖職者志望だ。そんな相手に対して、他の学部生はこんな失礼なことを言うのか。……って、俺も一応牧師の息子なんだけども。少々事情が違うとはいえ。
「っていうか、中二学部って俺たちの学部よりも偏差値低かったよなぁ〜。浄正の足を引っ張ってるんじゃね?」
「俺たち政経学部のほうが頭はいいもんな!」
わかりやすい嫌味だな。っていうか、政経学部ってこんな感じなのか……。面倒くさいな。男ふたりは、宇佐美さんに向かって声をかける。
「キミ、かわいいじゃん。俺たちテニスサークルなんだけど、入らない? 今なら新歓前だし!」
「あ、あの……」
「てか、女の子はテニサー入りなよ! いい彼氏見つかるかもよ?」
「私は首席になる人間だ。そんな浮ついたものには用がない」
「ボクもいいかな。なんか胡散臭いサークルだなって思うし。三蔵サンと張り合うことで手一杯だから、彼氏とか言ってる場合じゃないっしょ」
「うちの一年はしっかりしてるでしょ? 政経くんたち」
天利先輩がふふん、と腕を組んでふんぞり返る。……っていうか、なんというか……ここで一番ダサいの俺!? ハッと我に返る。女の子たちを盾にして、言われ放題でただ黙っている。い、いや、黙って耐えるのも男だし……。そんな言い訳を心の中でしていると、政経テニサーの男たちは、宇佐美さんの腕を乱暴に取った。
「とりあえず、見学だけでもおいでよ〜! 見るだけでもいいし!」
「は、離してください!」
「やめろって言ってんだろ」
「!」
……あ、しまった。あっさりと口に出してしまった。多分学年的には先輩だろう、やつらは。でも、女性がこんな暴漢みたいな輩に襲われそうになっていて声を上げないのは男じゃないからな。俺は、宇佐美さんの腕を掴んでいた男の手を払った。
「嫌がる女性に触れるのが、男のやることですかね? 先輩」
「そうだ、そうだ!」
天利先輩、三蔵、柊も声を上げる。これで政経学部の野郎どもが引き下がればいいんだけど……。
「へぇ、1年のくせにガッツがあるな? 男同士なら触れてもいいってことか? じゃあちょっと語り合うか? キミがテニサーに入ってくれてもいいんだよ? コワモテの兄ちゃん」
テニサー野郎どもは、悪い笑みを浮かべる。肉弾戦とか殴り合いとかは勘弁だぞ、おい。どうすっかなぁ……。一応工業高校のときもヤンキーの抗争とかはなきにしもあらずだったんだけども、俺はある意味顔で救われていた。怖い顔っていうだけで、「何考えているかわからない」とか勝手に言われて、抗争から回避していたからだ。でも都会は怖いな。怖い顔でも逆に絡まれるのか。
ちなみに俺はケンカはあまりしないタイプだ。家が牧師家系っていうのは、案外育ちがいい部類なのかもしれない。なんだかんだ言って、「暴力はよくない」ってことをきちんと学んでいるからな。っていうか、大学って工業高校より質悪いのか? 学部偏差値だけで人を見下したり……本当に人としてダサいな。
しかし、暴力を振るわれたら勝てる気がしない。女性陣を巻き込むわけには行かないし、かといって男同士で戦うとかなったら2対1だし……。そもそも暴力に頼らないで、なんとか解決する方法はないのか? だけども話し合いに応じてくれなさそうなタイプに見える。そんな相手との交渉、どうやってする?
「なぁ、中二学部の兄ちゃん。サークル棟の見学でもしようよ。案内するよ? 停学になって暇なんでしょ?」
「いえ、いいです」
「そんなこと言わずにさぁ〜……もちろん女の子たちも一緒でOKだからね?」
「サークル活動する暇はないと言っている」
「あたしも」
三蔵と天利先輩が援護するが、聞き分けがないぞ、こいつら。そもそも停学の意味わかってるか? サークル活動も多分禁止だぞ? そんな大学規則もわからないやつらが政経で大丈夫か? 「問題ない」って返されても、この場合は「問題大ありだろっ!」って即ツッコむからな? まぁ、天利先輩はレポートとバイトする気満々で、それもどうかとは思うけども。
「いやいや、休み中暇だよ〜? サークル見学だけでいいからさぁ〜」
しつこい!! どうすりゃいいんだ。こっちのほうが人数も多いんだ。無視すればいいか。俺は切り替えるとサラッと政経の「センパイ」方に言い放った。
「俺たち停学なんで、サークル活動はできません。じゃ、失礼します。行こう、みんな。天利先輩」
俺は「相手にするな」というオーラを出して、4人と一緒にその場から離れようとする。しかし、今度テニサー野郎たちは俺の腕を掴んだ。
「逃さねぇよ。こんなに女の子いっぱい引き連れてるんだ。お前がテニサーに入ってくれるだけで話は別だっつってんだよ。停学の学生が先輩に暴力振るったら、退学かな?」
「っ!」
くっそー……面倒くさい。本当に卑怯だな。しかしどうしよう。四面楚歌だ。俺がここでケンカしたら、今度は退学か。そしたらビバ! 一人暮らし生活! がおじゃんになるぞ……。それどころか退学させられて高卒扱い、実家に逆戻りだ。
「……」
「ほらほらどうした? さっきまでの威勢は」
威勢も何も、しつけぇっつってんだよ。気づけよ。参ったなぁ。……そしたら、仕方ない。ここは根性見せるか。
「……」
「お、おい、本当にどうした?」
「……黒巣?」
テニサー野郎どもが焦りだし、三蔵が不思議そうな顔で俺を見る。俺は無言でフリーズした。ただ硬直して黙っている作戦、「黙って辛抱」だ。
「……」
「おい、なんとか言えよ! 不気味だな!」
「……」
女性陣も俺の挙動を無言で見守ってる。ここで下手に手を出したら、逆に先輩たちが停学になるだろう。俺のガタイのでかさ的に、無理やり連行することもできない。女子は4人もいるし、こちらは計5人。2人相手になかなか困っていたが、「作戦:辛抱」! これでどうだ!
「……お前、キモい。何考えてるんだ」
勝手にキモい扱いするな、と心の中で思うが、これはいい感じだ。「辛抱」することで相手が勝手に不気味に思ってくれる。しかも俺の顔は怖い。やつらが勝手に離れていく。
「こ、今回はいいけど、女の子たちはサークル考えといてね!」
「……考えるまでもないっしょ」
男ふたりがその場を離れると、天利先輩がつぶやいた。それはそうだ。だけど、やっと行ってくれたな。俺は大きくため息をついた。
「はぁ〜……他の学部の先輩たちから絡まれるなんて、予想外だよ〜」
柊も緊張していたのかようやくくたっとした笑顔を浮かべる。宇佐美さんに至っては、また泣きそうな顔だ。
「あー、宇佐美。もう大丈夫だ」
三蔵がフォローすると、先程のふたりへ対して天利先輩が文句を言った。
「今のは立派なアカハラと強制勧誘だよ。停学だろうが関係ない。事務室の方に通報しておくから。今度注意されるのは、政経学部だよ。だから宇佐美は安心してね」
「は、はい……でも、怖かった……」
「ホントだよ! アカハラも強制勧誘もひどすぎる!」
柊もプンスカする。怒って当たり前だ。天利先輩は3年だけど、後輩にアカハラするやつなんて、どこの学部だろうが失礼だ。
「それを立派に対処した。お主らは我が見込んだだけあるな」
俺たちメンバーじゃない声が聞こえる。そちらの方向を見ると、ショートカットでガタイのいい女性がいた。
「あ、あなたは……?」
「……どこかで見たことあるような?」
宇佐美さんが目を丸くしている中、天利先輩はうーんと首を捻る。
「お知り合いですか?」
「いやぁ、どこかで見たようなってだけなんだけど……」
「天利くんは覚えていないか。まぁ、我はあまり大学の講義には関係しないからな」
女性の体について言うのは失礼かもしれないが……身長が高くて下手したら俺より筋肉質だ。何食ったらこんなに強そうなオーラが出せるんだ……。俺は先程の一見で、顔の怖さだけでどうにかしていた自分を反省していた。顔だけではなく、体も彼女のように鍛えたら、舐められないか……? いや、そういう問題でもないだろうか。ところで、この女性はどちら様だ?
「天利先輩のお知り合いじゃないんですか?」
天利先輩と女性に訊くと、女性のほうが答えてくれた。
「我はこの大学の神仏学部の助教をやっている、漁火ヒミコだ。改めてよろしく」
「助教?」
「つまり、研究者兼学校の先生だ」
不思議そうにしていた宇佐美さんに、漁火助教はすごくわかりやすくあっけらかんと言った。助教……まぁ、研究者兼大学の先生であるんだろうけども、そんな人が俺たちに何か用事でもあるのか? その疑問を声にしたのが、三蔵と柊だった。
「助教ってことは、やっぱり聖職者なんですか?」
「学校の先生ってことは、ボクたちの停学に関して?」
漁火助教はふたりの質問に順序立てて丁寧に答えていく。
「聖職者……それは難しい問題だな。私は聖職者というか、『修験者家系の巫女』だ」
修験者家系の巫女……また新ジャンルだな。宗教とかとはまた違うのか? 色々疑問に思っているのが顔に出たのか、さらに漁火助教は続ける。
「宗教というか、山岳信仰というやつかな、うちの家系は」
「山岳信仰か。仏教も山に寺などがあるな」
「せ、聖書にもシナイ山って出てきます!」
「神社も山にあるところあるよねぇ」
山ねぇ……。巫女っていうのはよくわからんが、ともかく助教が何の用だ?
っていうか、俺たちの学部は神仏学部とは言え、ゼミの神宮寺教授は「神学部落ちはお呼びでない」とか言ってる人なんだよなぁ。そういう人もいるから、『修験者家系の巫女』っていうのもいるのか? よくわからん学部だなぁ……。大体なんだかんだで「魔法研究」とかいう、もはや宗教とは関係ない研究してるもんな、この学部。
「それで、『助教』がなんでボクたちに声をかけたの? 助けてくれればよかったっていうか……学校の先生が見てたなら助けてよ!」
「もちろん、政経学部テニスサークルのアカハラに関しては警告を出す。だが、我はお主たちの行動力について興味があってな」
「私たちの行動力ですか?」
三蔵が疑問符をつける。俺たちの行動力ってなんだ。
「もしかして、停学になったこと?」
柊の言葉に、天利先輩は首を振った。
「いやいや、冗談じゃない! あたしは巻き添えですよ!?」
「天利くんはレポートがあっただろう。我が用があるのは、魔法構築論ゼミの4人だ。神宮寺教授と同じ研究室だからな、我は」
同じ研究室の助教か。ちょっと厄介なんじゃないか? 俺たちの行動力がすごいという助教……そして俺たちは停学中……。俺は察しが良すぎるのか? なんか、面倒くさいことを頼まれそうな予感がする。それは的中した。
「お主ら、停学中であろう? 我の研究に参加しないか?」
「え?」
俺たち全員声を上げる。いやいや、停学中なんですけども!?




