第28話
さて、下山だ。来た道を下るのだが、閂先輩が先頭と言うわけではなく、登りと同じように助教が前だ。下るだけとは言え、道に迷ったら大変だからな。でも、登り道ではなく下りなので、歩くのは多少楽な気はする。
片道8時間くらいかかっているのか。ってことは、帰りもそのくらい……?
「まだまだこの登山としては折り返し地点ってことか……」
「いや、まだまだではないだろう。私たちは頂上まで来られたんだ。それは誇ろう」
「三蔵……」
さすが聖職者志望と言ったところだ。呪文として使ったわけではないのだろうが、少しだけ自信につながる。
「そうだぞ。あと半分だ、とも行こう」
本能寺先輩も気にかけてくれる。なんだろうな、ただ『頑張れ』って言われるより、『ともに行こう』のほうがなんとなく嬉しい。
「あの……少し考えたんだけど」
宇佐美さんが後ろで口を開く。
「私が魔法を使えたのなら、また自分たちに魔法をかけることってできるんじゃないかなぁ……」
「あ、そうか! 速く歩けるようにしたり、疲れないように呪文をかけることはできそうだね!」
柊の元気な声も聞こえる。なるほど。このパラレルユニバースムでは自己暗示が使える。ってことは、歩くことを楽にしたりもできるのか。
「それで? 例えばどんな呪文なんだ?」
智里先輩がたずねると、全員が考え込む。一番うしろから閂先輩が叫んだ。
「これは1年次の研究テーマなんだろ! 俺たちがアイデア出したらダメなんじゃないか?」
「それもそうだな……だけど協力はするからな」
本能寺先輩が俺に言う。歩くのを楽にする呪文ねぇ……。
「何か案はないか? 黒巣」
「三蔵、頼られるのは嬉しいが、すぐに人に聞かないで自分でも考えてくれ」
「うーん……」
速く歩ける呪文……疲れないための言葉……。『俺たちは速く歩けるし、疲れない!』とか、そのまんま言ってもいいものだろうか? なんだか呪文っぽくないが、自己暗示的にはいいのか? とりあえず口に出して言ってみる。
「『俺たちは速く歩ける! 疲れない!』」
俳句かよ。心の中でツッコむ。しかし、この言葉で俺たち全員が光に包まれる。
「わっ、すごい!」
「じゃあ、ボクも続くぞ! 『ボクたちは速く歩ける! 疲れない!』」
全員で唱えると、なんだかスローガンみたいだな。でも全員で声に出すと、どんどん光に包まれていく。歩くスピードが速まる。ゆっくり動いていた景色が、倍速……それ以上になっていく。まるで新幹線の車窓から見る風景だ。
「すごいな、皆の衆!」
助教の声が聞こえるが、歩く速度が速くなるだけじゃ危ないな。行き止まりとかでぶつかってしまう。
「三蔵、うまく舵取りできるか?」
「やってみる。『私たちは怪我をしないで安全に下山できる!』」
大声でその言霊を放ったその瞬間ーー。俺たちはパッとふもとまでテレポートした。
「……何が起きたんだ?」
「山を猛スピードで歩いて……仏門女子が呪文を……」
「さすがにあのスピードで歩いていたら、怪我をするだろうという山の判断だったのだろうか?」
3ぼーず先輩たちが口々に話しているところで、魔法を使っていた俺たちもハッとする。
「テレポート魔法になったな」
三蔵が自分の言霊に驚いた表情を浮かべる。柊も少しびっくりしている様子ではあるが、笑っていた。
「はは、まぁ、あれだけスピード出してたもんね……」
「きっと山が守ってくれたのかもしれないね」
宇佐美さんがきれいにまとめてくれた。そうだな、山が暴走している俺たちを無事に下山させてくれたのだろう。これは言霊とか魔法とか関係なく、山の厚意ーー。俺はそんな気がした。
「さて、無事に一瞬で下山もできたことだし、研究室に帰るぞ」
漁火助教が言うと、俺たちは息を吸ってから声を揃えた。
「やっほー!!」




