第17話
全員の叫びで空間が光りに包まれる。眩しくて目を閉じ、ゆっくりと開くとこの場所はーー
「……マジかよ」
俺は思わず口から言葉が漏れた。
「わぁっ! 本当に山来た!!」
「すごいね!」
「成功ということだな」
女子たちも驚いているが、これは本当に成功したらしい。漁火助教と3ぼーずたちは感心しているのか、うんうんとうなずいている。
「お主ら、第一関門はクリアだな」
「でも寒ぃなぁ」
「それはそうだろう。雪は降っていないが、冬山だからな」
「あれ? 今ぽつって雨粒当たったぞ。全員カッパ着たほうがいいな」
本能寺先輩の発言で、全員がリュックサックを漁り始める。
「お主ら、ついでにゴミ拾いの準備もしたまえ。頭にはライトをつけるように!」
まだ暗い中、ごそごそと準備を始める俺たち一行。ええと、ヘッドライトとカッパ、トングと袋……。しっかし寒いな。カイロも使うか。カイロを取り出し、ゴミを袋の中にさっそく入れる。
全員準備が整うと、いよいよ山登り開始だ。まずはゴミ拾いだがーー
「どうだ? 落ちてるか? ゴミ」
後ろにいる智里先輩に言われて、暗い山道を歩きながら周りを見回す。助教、本能寺先輩、俺、三蔵、智里先輩、宇佐美さん、柊、閂先輩の順でまだ広めの山道を進んでいくことになった。特に順番とかはなく、自然とこうなった。
「そうですね、今のところはあまり見かけないというか」
「おーい! 一番うしろ、我の声は聞こえるかー!?」
「聞こえまーす!」
閂先輩が助教の声に呼応する。結構大きな声で叫ばないと、先頭と最後尾はやりとりできないんだな。注意しないと。
ぽつ、ぽつ、と雨粒が顔に当たる。冷たいが、歩いているからか気持ちが少し高揚しているか、そんなに寒くは感じていないのはありがたいというか。これも厚着してきているからかもしれないけどな。
「あっ、ゴミはっけーん!」
「やっぱり落ちているんだね、ゴミ」
柊と宇佐美さんの声がする。結構ふたりの声は大きいんだな……。宇佐美さん、おとなしいイメージだったけど、彼女ももしかして山にいることでテンションが高くなっているのか?
この声を聞いた本能寺先輩が、一瞬立ち止まって後ろに注意する。
「元気なのはいいが、体力温存しておけよ? 俺たちは山を登るだけじゃなく、滝にも打たれるんだからな」
そうだった。ある程度元気を温存しておかなくては……。体力の割り振りと言ったらなんだが、うまくその辺も自己コントロールしていかないといけないのか。やっぱり山登りって一筋縄ではいかないんだな……。
ゴミを見つけては立ち止まり、袋に入れる。でも、この山はあまり普段人が来ないような場所なのだろうか? 思ったよりゴミの数は少ない。もっと富士山の樹海のような大変な場所を想像していたけども、それは違った。
「粗大ゴミも落ちてなさそうだな。しっかりと管理されている、いい山だ」
三蔵がつぶやいたのを耳にする。腕時計を見ると、現在4時。日の出はまだだ。……今思ったけど、暗い山道でゴミを見つけるのって、難しくないか? よーく目を凝らすとあるっちゃあるんだけども……。
「まるで宝探しですね、これじゃ」
「宝がないほうがいい宝探しかよ」
本能寺先輩がツッコむ。まぁ、確かにな。山にゴミは落ちていないほうがいい。それに、山道でトングと袋を持って登るのは大変だ。両手が使えないから、危ないし。
この山はある程度「道」ができているな。俺が小学校のときに登った山は確か獣道だったけど、ここの山道は今のところ木が敷かれていて歩きやすくなっている。「山登りだ、山行だ!」とか思っていると大変そうだと思ったが、これなら本当にトレッキング気分で大丈夫そうだと少し安心する。だけどそれも最初だけなのだろうか?
最初はゴミを見つけると声を上げていた後方も、だんだん声が聞こえなくなってくる。想像より山道は険しくなかったけども、さすがにこのような場所にゴミを捨てるなんてことはしないのだろうか。もしくはできないか。
「まぁ、山に叱られるもんな……」
何気なくつぶやくと、最前列から助教の大声が耳に入った。
「山を怒らせると大変だからな! はっはっは!」
助教、聞こえたんですか……。それにしてもすごい元気だ。まだまだ力が有り余っているというような感じ。俺も負けてはいられない。山登りは勝ち負けじゃなく、どちらかというとチームワークなんだろうけどな。
しばらく歩くと、突然前方が立ち止まる。
「どうしたんですかー!?」
最後尾の閂先輩が漁火助教に声をかけると、彼女は大きく手を振って合図を送った。
「この先は川だ! トングとゴミ袋をしまって、気をつけて橋を渡るように!!」
言われた通りに手に持っていたものをリュックにしまう。川っていうけど……橋、なくね?
「どうやって渡る気だ……」
「板があるだろ?」
前にいる本能寺先輩の声を聞き、視線を先にやると確かに板が川の上に掛かっていて橋の代わりになっているが……細いし、柵のようなものなどはない。本当にただの板だ。この上を歩くのか……? 怖っ。
「落ちたらまずいな」
「まずいどころか川ですよ!?」
本能寺先輩と俺が怯える中、漁火助教はひょいひょいっと先に行ってしまう。
「渡ればいいのだよ、渡れば! 踏み出さなければ前には進めぬ! はっはっは!」
そんな大雑把な……。とか思っているうちに、彼女は渡りきった。助教、とんでもない……。だけどこれで本能寺先輩も渡らなくてはいけなくなった。
「い、行くぞ! 危ないから、ひとりずつだ!」
先輩は俺に指示する。俺も後ろの三蔵にひとりずつ渡るように伝える。山登りとかトレッキングとか、ある程度楽観的に考えるようにしていたが、この板の上を通るのはかなり度胸がいるな。
でも、びくびくしているほうが返って危ないのかもしれない。本能寺先輩が渡り切ると、俺も続く。怖い。が、下を見てはいけない。できるだけ平常心ーーで、渡り切る。次の三蔵も顔色ひとつ変えずに渡り切った。
「おお……」
「だ、大丈夫ですよっ……」
智里先輩と宇佐美さんも恐る恐ると行った感じだが渡った。
「このくらいならなんとかっ!」
「おう、度胸あるな、1年!」
柊と最後尾の閂先輩が渡ると、ようやくまた歩を進める。でも、川があるってことは、そろそろ……。
「着いたぞ! 滝行の場所だ!」
漁火助教が声を上げた。




