第16話
ーー翌朝、午前3時。日の出前である。夜中、寮から学校に来る間、空に星が瞬いていた。夜道は怖いかとも思ったが、同じ敷地内だし人気は元からない。ある意味、だだっ広いキャンパス内の空を独り占めしているような感じで、少し贅沢な気分だった。
校門は開いていなかったが、守衛さんに言って横の扉を開けてもらって校舎内へ。こんな時間まで働いている守衛さんに敬意を払いつつも、結構校舎内は思ったより電気がついていて安心する。
研究室前に到着すると、すでにメンバーは揃っていた。
「よっ! 1年。ビリだぞ」
「おはようございます、先輩方。みんなも早いな」
「まぁ、女子は固まってきたからね。女子寮の入口で集合したんだ」
閂先輩を筆頭に3ぼーずに挨拶をすると、柊が言った。
「……また徳でも積んでたのか?」
「はぁ?」
三蔵がぽかんとした顔で返す。本人気づかないからな。
いいことなので呆れる必要はないのだが、このメンバーのことだ。夜道でも何かしら徳を積んだり善行をしている可能性があるな、とちょっと疑う。……何度も言う。疑ったところで善行なので問題はないのだが……。
「私が夜道がちょっと怖くて、無理言っちゃったの……」
宇佐美さんか。この場合、善行というよりも協力といったところか。協力し合うことは悪くない。女子寮と男子寮は少し距離があったし、声をかけられなかったのもわかるし。
「はっはっは、チームワークというのは大事だからな! みんな、登山の準備はばっちりだな!」
漁火助教がみんなを見渡す。みんなの格好は、登山帽にダウンジャケット、でかいリュックにトレッキングシューズだ。それを確認すると、助教はみんなにもうひとつ荷物を配る。
「お主ら、昨日水着を買っていなかったな? 今日は滝行もあると言っただろう?」
「あっ、そう言えば……」
いけね、水着がなかったら滝行できないじゃん。三蔵と柊、宇佐美さんも「しまった」という表情をする。
「問題ない。我が準備した。3ぼーずくんたちが『水着はどんなのを選べばいいんですか?』と聞きに来てくれたおかげだ」
「先輩たちが?」
宇佐美さんが小首を傾げる。水着のことを忘れていたとは言え、水着と言ったらまぁ男は海パンだろう。もしかして、ふんどしでやろうとしていたとかか? それを言ったら俺たちなんか水着を買うこと自体忘れていたので、最悪真っ裸でやれ! とかいうことになりかねなかったのだが、さすがにそれはなかっただろうか……。
「案ずるでない。水着はこれだ!」
漁火助教がみんなに水着を配る。これは……。
「あっ、最新のスクール水着じゃない? ネットで見たことある!」
「最新?」
柊の発言に、三蔵が注目する。そう言えば聞いたことがあるな。水着は露出が多いから、小学校のスクール水着が長袖短パン型の水着になったって。あれか!
「行くのは冬の山だし寒いから長袖でちょうどいいね」
宇佐美さんが笑顔になるが、そこは笑顔でいいのだろうか? 普通に考えて冬山で滝行って結構ハードだがな。
「1年、顔がこわばってるぞ?」
「もっと気楽にならんのか。トレッキングだぞ?」
「きっと山で食う弁当はうまいはずだ!」
3ぼーず先輩方も案外今日は余裕があるらしい。なんだかんだ言っても彼らは先輩だからな。きっと俺が不安そうな顔をしていたら、それが伝染すると思ってフォローしてくれたんだろう。やっぱり何気なく善行を積んでいる。聖職者志望、凄まじい。でもある意味そのくらい気楽な感じで行かないと、マイナス感情に持っていかれてしまうのかもな。登山は精神修行でもあるのだろうから。
「よし、準備もできたところだし、パラレルユニバースムに移動しよう」
漁火助教の言葉に、俺たちは従った。
◇◆◇
講堂に移動すると、舞台袖から壇へと上がる。そこで漁火助教を囲むと、質問コーナーの時間だ。
「パラレルユニバースムへの移動って、どうやってするんですか? 入学式のときは教授たちが祈祷することで移転したし、天利先輩も九字護身法を使っていたのですが……」
「それ、気になる! パラレルユニバースムのレベルごとに祈祷方法が違う感じなの?」
三蔵と柊がきくと、宇佐美さんも声を上げた。
「私たちが移転方法を学ぶのはいつぐらいですか? 先輩方はわかっているみたいですから……」
宇佐美さんが心配するのはわかる。俺たち自身がパラレルユニバースムと現実世界の移転方法を理解しなければ、その世界に取り残されてしまう可能性があるからだ。現に、入学式では取り残されて大パニックだったわけだし。
「俺たちは転移魔法使えるけど、3人セットじゃないと使えないからな」
「そこが問題点ではあるな」
「共同研究だったから、仕方なくね?」
3ぼーず先輩たちの転移魔法って、あの手を繋いでぐるぐる回るやつか……。確かにひとりふたりじゃあれはできないもんな。もっと簡単に行き来できる方法はないのだろうか?
「ふむ、では、ひとつヒントをあげよう。パラレルユニバースムについては、各レベル、各場所の『特性』というものがあるのだよ。今回の場合はそれが『山』ということだ」
「山……」
それは重々承知しているのだが、特性ねぇ……。
「山って言ったら、まぁ『やっほー』って叫ぶかな?」
俺がぽつりと思ったことをつぶやくと、柊が反応する。
「確かに言うね。それが祈祷になったりするの?」
「どうだろうね? でも、確かに『やまびこ』って『山の呼応』だよね」
宇佐美さんが笑顔で言い、三蔵もそれに対して回答を述べる。
「『山の呼応』……なんだかある意味、山への正しい祈祷なのでは?」
「面白い! お主らがそう思うなら、『やっほー!』という言霊でパラレルユニバースムの扉を開けてみたまえ!」
「えぇっ!?」
言いだしっぺは俺だけど、本当にそんなもので空間移転、転送魔法になるのだろうか?
「とりあえずやってみない?」
宇佐美さんが言うと、三蔵と柊も乗る。
「いいね! これはボクらの共同研究じゃん!」
「これで空間転移できたらすごいことだぞ? やってみる価値はある」
「本当にこんなことでできるもんかな……」
俺自身が半信半疑でいると、3ぼーず先輩方も励ましてくれる。
「俺たちの転移魔法も、あーだこーだいいながらゼミで考えついたものだ」
「そうそう! とりあえず実験だと思ってやってみようぜ!」
「研究は実行あるのみだ」
そう言われると、もうやるしかないよな。
俺たちは壇上から大声で客席に向かい声をかけた。
「『やっほー』!!!」




