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ぼくだい!~僕の大学は魔法研究が必修です~  作者: 浅野エミイ


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第14話

「では、ミーティングはここまでだ。3年たちはこのあと講義を受けるように。1年は買い物か。我も行こう。研究費で支払うのだからな」


「はーい」


 一同が返事をすると、天利先輩と日向先輩が席を立つ。


「天利、さっさとレポートに戻るぞ」


「えぇ〜、まだゆっくりしていたいよ〜」


「天利先輩、三池教授のゼミとは違うっす」


「これは俺たちに与えられし試練……」


「天利先輩は大人しくレポートしていてください!」


 3ぼーずの天利先輩の扱いがなんとなくわかってきたような、こないような。3ぼーずにとって、天利先輩はオタサーの姫状態なのだろうか? とも思ったけど、たまに邪魔者みたいに扱われている感じもしなくはないし……。一体何なんだろうな、彼らは。「心配だ」とか「目が離せない」とかはよく言っているけど、日向先輩と天利先輩の様子は至って普通の大学生と言った感じだし。3ぼーずが天利先輩に恋愛感情を持っているか? と聞かれると、それもまた違うような気がするんだよな。本当によくわからん。


「さて、では私たちはこれから買い物に行くわけだが……私はこの辺の土地柄をまだあまり知らない。柊や宇佐美は詳しいか?」


 三蔵が訊ねると、頬杖をついていた柊と、宇佐美さんが答える。


「うーん、この辺は住宅街だけど、駅のほうに行けばデパートがあるよ」


「ショッピングモールもありますけど、登山グッズはあるでしょうか?」


「登山グッズを専門に置いているのは、デパートのほうだな」


 スマホで検索していた助教がつぶやく。登山の専門店なんてあるんだな……。この浄正大学は駅から徒歩15分の場所にあるのだが、そこからデパートやショッピングモールなどへのアクセスはいいということか。まだ引っ越してきてあまり土地勘はないが、そこそこ退屈はしなさそうだ。しかし、今は結局停学中。助教の目付けはあるということか。ちらりと漁火助教を見るが、鼻歌交じりに先ほど取り出してきた寝袋をしまっている。……本当にトレッキング気分でいいのだろうか? 気楽にとは言われているが、一応大学の研究の一環であるし、何より滝行があるので油断は禁物だ。


 張り詰めた表情だったことに気づいたのか、柊が俺を見て笑う。


「くろっち、何。ビビってるの? 山登り」


「ビビってはないけども、色々大変だなと思ってな」


「情けないぞ、しっかりしろ」


「山は私も初めてなので、緊張はしますけど頑張りましょう!」


 三蔵に活を入れられ、宇佐美さんに応援される。俺、このメンバーに支えられてるな……。男のくせにとかは思わないけども、ちょっと情けない。俺もこのメンバーを支えていかなくてはいけないんだ。


 そんな様子を見ていた漁火助教は満足げな表情だ。


「さて、ではデパートへ向かおう。山岳館というテナントがあるはずだ」


◇◆◇


  バスに乗って駅まで向かい、そこから歩いて数分のデパートの5階。山岳館は、そこそこ広い店だった。


「わぁ、色々なグッズが売ってるんですね。私、山登り専門のお店って初めてで……」


 宇佐美さんの言う通り、品揃えは豊富だ。トレッキングシューズから服や山登り用の下着や非常食みたいなものなんかもある。


「まずはトレッキングシューズでしょ。どんなのがいいかな?」


「それぞれの足にあったものがいいだろう。ただ、予算の都合があるからな」


「それは気にするでない。研究費は割と潤沢にいただいたぞ!」


 助教ががっはっはと笑うが、もうみんなだいぶ慣れたのか、それぞれ気にせずトレッキングシューズの品定めを始める。俺もどんなものはいいのか眺めるが、靴はともかくトレッキングシューズのいい悪いは正直わからない。


「助教、どういう靴がいいとかあるんですか?」


 俺が何気なく聞くと、他のメンバーも助教に視線を送る。こういうのはやはり教職に聞くのが筋というものだ。


「そうだな、やはり山だ。蛍光色の派手な方がいい。遭難したときの目印になるからな」


「ひぇっ、遭難!?」


「いや、待て。パラレルユニバースムで遭難した場合、助けは来るのか?」


「三蔵サン、怖いこと言わないでよ!」


「心配するでない。そのために一応神宮寺教授には山登りの届けを出してあるからな!」


 安心できるのだろうか。でもあまり気負いすぎてもよくはないよな。俺はできるだけ気軽な言葉をかけた。


「こんな団体で登るんだし、大丈夫だろ。助教も登ったことある山なんですよね?」


「まぁな! そのときは草履で登ったっけ……」


「助教が草履で登れる山なら、大丈夫……なのか?」


 そこで大丈夫なのかと思ってしまう三蔵も心配だが、そのくらいの余裕はなくさないでいきたいのでスルーする。


「ともかく蛍光色の靴がいいのか。あっ、これはどうかな?」


 宇佐美さんが柊に蛍光色の靴を見せる。


「蛍光の靴はこの種類だけみたいだね」


「念のため、あっちにある反射板みたいなのもつけたほうがいいのだろうか?」


 三蔵が指を指したところには、シールのようなものがある。山では目立ったほうがいいのか。そういうのもありだな。


「あ、すみません。靴のサイズを見てもらえますか?」


 俺が店員さんに声をかけるが、靴のサイズを見てもらうのは俺だけではない。ここにいる5人全員の足のサイズを測る店員さん、なんか……すみません!


 新歓のときの居酒屋での先輩たちを思い出す。ああ、浄正大学の神仏学部ってこうして迷惑をかけていくんだなぁ……。サイズを測ってもらいながら俺がとほほと肩を落としていると、助教が笑った。


「気にするな、このあとここの店は儲かるのだから」


「はぁ」


 よくはわからないけども、確かに靴は確実に5足は売れるからな。確かに上客なのか、俺たちは。


 全員サイズを測り、靴を選び終えると、あとは必要になりそうなものを全員自分の手持ちのかごに入れていく。まずはリュックからだ。登山用のリュックって、普通のと形が違うんだよな。あとはトレッキング用の服と雨具。各々自分の体にあったサイズを選ぶ。デザイン性? ほとんど関係ないしそれに関してはよくわからないが、できるだけ派手目であたたかそうなものを選ぶ。デザイン性は女子のほうが気にするだろうかと思ったが、特にそのような気配はなかった。


「どちらかというと、耐久性……ですね」


「あったかさ一番!」


「デザインというか、山で遭難しないようなもの、だな」


 そんなもんか。意外とあっさりしているというか、俺と感性は近い。


「助教、それはなんですか?」


 宇佐美さんが漁火助教のかごを見てきく。なんだ? バーナーか?


「これがあれば休憩中にお茶くらい入れられるだろう?」


「山でお茶? なんかいいね、それ!」


「悪くないな、体も温まる」


 柊も三蔵も嬉しそうだ。ようやく呑気さが出てきたと言ったところだろうか。確かに山を舐めてはいけないんだろうけど、トレッキングってこのくらいの「楽しさ」がなかったら本当に単なる苦行だな。


 助教が支払いをして、買い物がひと通り終わると、俺たちは一度学校に戻った。


 助教の研究室には、事務方から寮の部屋の鍵が4つ、置かれていた。


「お主らは今日、ここの部屋を使ってくれたまえ。あとは……」


「お弁当作りだな」


 三蔵が言うと、柊と宇佐美さんも盛り上がる。俺も遅れをとってはいけない。


「おにぎりの中身、どうしよっか?」


「梅干しは必要……だよね。汗をかいたときに塩分が出るから」


「じゃあ、塩昆布も入れるか?」


 梅干しに昆布……あとは、三蔵が漬物がどうとか言っていたな。きゅうりの浅漬けくらいならできるか? 買い物メモを書いている三蔵に、俺は口添えした。


「三蔵、きゅうりもだ」


「む、わかった。とりあえず、米と海苔と梅干し、塩昆布、きゅうりだな」


「あと卵焼きもほしいよね!」


 柊のリクエストで、卵焼き追加だ。


「お菓子も必要だったよね。飴とチョコレート。ガムもあったほうがいいかな?」


「わかった」


 宇佐美さんのリクエストも三蔵が受理する。あとは今度はスーパーに買い出しだ。その前に、腹が減った……もういつの間にか午後か。


「スーパー買い出しに行く前にメシにしないか? 昼時だぞ」


「そうだね。どうする? 学食でも行こっか?」


 柊の案に、全員が乗る。


「ここの学食、何がおいしいのかな?」


「さっと見た感じ、定食があったぞ」


 宇佐美さんと三蔵もわくわくしているようだ。俺たちは助教とともに学食へと向かった。


◇◆◇


 学食でのランチは、全員Aランチを頼んだ。今日の献立は天丼だ。これがワンコインというのはありがたい。ランチも、ゼミのメンバーと一緒ということで、必然ランチディスカッション状態になってしまう。


「助教、冬山と聞いてはいるが、天候とかはわかるんですか?」


「一応、パラレルユニバースムはある離島の山をイメージしているのか、その山に気候が似ているのだが……どうもそこの山の天候が、冬場は安定しないらしいのだ」


 柊は三蔵と漁火助教の話を聞きながら、黙々とメシを食らう。宇佐美さんも食べながら注目している。冬場の離島の山か……。どんなものか、行ってみないとわからないな。とりあえず寒いことはわかっているし、山の天気は変わりやすい。雨具の準備もできてはいる。


「でも、よく考えたら滝行するんだから、雨に濡れても変わらないんじゃ?」


「風邪を引かないようにしないと……」


 柊と宇佐美さんの意見も正しい。滝行のあとに風邪を引いてしまってはどうしようもない。しかも日が登る前から寒い中の山登りだ。


「そうそう、お主らはライトを忘れていたな? 我が買っておいたぞ」


「ライト?」


 ……ああ、あれか。さっき助教が小さい何かをかごに入れているのを見たけど。


「あの小さいの、どうやって使うんですか?」


 質問すると、助教は芋の天ぷらを食べながら答えた。


「頭につけるのだよ。両手は使えるほうがいいからのう」


「まるでホタルだね」


「とは言え、安全第一だからな」


 柊が言うと、三蔵が助教の代わりに返した。しかし……重い荷物を背負って30km。暗闇の中を歩くのか……滝行というおまけ付きだ。


「ともかく、今はご飯をしっかり食べないといけないね。おにぎりも作らなきゃいけないんだし」


 宇佐美さんの言葉に、みんな自然と食事に向き合う。明日は山登り。今から体調管理は始まっているのだ。 


◇◆◇


 学食のランチが終わると、今度はスーパーに買い出しだ。俺が使っているところだ。そこで、米、海苔、梅干し、塩昆布、卵、きゅうりを買う。


「うぇっ! 海苔とか梅干しってこんな高いのかよ……」


 俺がつぶやくと、三蔵も反応した。


「確かに実家にいるとわからないことだったな。うちは梅干しは漬けているから、買うとこんなに高いとは知らなかった……」


「ボクは実家だけど、普段家にあるものだから注目とかしてなかった……確かに高いね」


「言われてみないと気づかないことってあるんだね。私も実家に感謝しないと……」


 柊や宇佐美さん、実家暮らしのメンバーの言葉も、ひとり暮らしを始めた俺には重みがある。


「米、5kgで足りるよな?」


 俺が持ち上げると、漁火助教が言った。


「せっかくだから、10kg買おう。我が持って行く。余っても、寮のほうに寄付すればよい」


 さらっと寄付と言った。そういや漁火助教も巫女だったな……。神職か。だけどもいくら筋肉質な彼女でも、10kgの米を持たせるのは男としてダメじゃないか?


「あっ、俺が……」


「はっはっは!」


 声をかける前にお会計だ。結局米は漁火助教が持ち、俺はせめてもということで買い物袋を持った。

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