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ぼくだい!~僕の大学は魔法研究が必修です~  作者: 浅野エミイ


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第12話

 パラレルユニバースの電波か……。考えたこともなかった。というか、俺はまだパラレルユニバースについて何も知らないな。


「実際パラレルユニバースってどういう作りになってるの? ボク、よくわかってない」


「それは私もだ」


「私も……でも、仮想現実的な? もの? ではないんですか?」


 柊、三蔵も同じように不思議に思っているみたいだ。俺は宇佐美さんと一緒で、仮想現実的なもの……VR空間のような場所だと思っていた。ゴーグルも付けていないのに、没入感がすごいけども。


 そもそも3ぼーず先輩たちも電波がどうなっているかもわからないってどういうことだ?


「じょきょーはパラレルユニバースについて、詳しいんですか?」


 閂先輩が挙手した。っていうか、先輩たちもあまりよくわかっていない? そんなバカな。


「あの、先輩たちはパラレルユニバースムでの実習って結構されているんですよね?」


 俺は顔を引きつらせながら3ぼーず先輩に訊ねる。


「そうだよ! 先輩たちはボクらをレベル20の場所から連れ帰るくらいの実力はあるんだし、詳しいんじゃないの?」


「もう完全に頼っていました〜!」


「い、いや……あんまり細かいことは気にしてなかったっていうか」


「仮想空間『らしい』ということしかわからない、というのが本音だ」


 本能寺先輩が女子ふたりに対して苦笑いを浮かべると、いつもは仲のあまりよろしくない智里先輩もフォローする。一応『仮想空間』ということはわかっているのか。でも、宗教家独特のおおらかさで、あまり細かいことは考えていなかった……というオチ。おおらかなのもこの場合、いいのか悪いのか。


「仮想空間とかいいつつ、HPがなくなったら危険とか言われていますけど……」


 俺はちらりと助教のほうを見た。腕を組んで俺たちがやんややんやと騒いでいるのをじっと見ている。


 三蔵はそんな助教を気にせず、3ぼーず先輩たちにきいた。


「先輩方もよくわかっていないのに、レベル20まで助けに来てくれたんですか?」


「そりゃあ、後輩が危ない目にあったら助けに行くでしょ。それに何より天利先輩がまた留年したりしたら……」


「恐ろしすぎるだろ! そんなの!!」


「夜も眠れなくなる……」


 3ぼーず先輩たちは、俺たちの救助とかいうよりも天利先輩のほうが心配だったのか。それもどうかとは思うけど、結果人助けをしているので結果オーライなのだろうか?


「お主らが気にしているパラレルユニバースムについてであるが、あれは簡単に言うと、異世界である」


「異世界!?」


 あまりにも簡単に言い過ぎて、驚いたのが自称・中二病の柊だけだった。


「柊としては喜ぶべきところじゃないのか?」


「う、嬉しいよっ……! 将来異世界ものを書くのにはうってつけだもんね。でも……リアルであるなんて誰も思わないじゃん……」


 三蔵に言われた柊は困ったような表情を浮かべた。自称・中二病でも、根は真面目で常識人なんだよな、柊って。


「異世界はいいとして、パラレルユニバースムではスマホが使えないんですか? お山に行くんですよね?」


 宇佐美さん、異世界はいいとしてって、彼女もかなりおおらかだな。それよりもスマホが使えないことのほうが問題か。確かに山だしな。山に登るときは、救援が呼べるようにスマホも必要だが……普通の山と異世界の山じゃ勝手が違うような。


「いや? 異世界だろうが普通の山だろうが、スマホの電波は使えないぞ?」


 助教があっさりと言い放った。


「もともと標高が高かったり、電波の域の境目だったら山でもスマホは使えん。まぁ、パラレルユニバースムはもともと学業施設的な異世界だから、研究用途以外でのスマホの持ち込みも禁止ではある」


「学業施設的な異世界ってなんですか」


 俺は思わずツッコんだ。そんなもの聞いたことがない。っていうか、この浄正大学は、魔法研究のために異世界を作ってしまうくらいになんか……「よくわからないスゴさ」を持っているのだろうか。


「まぁ、ともかく異世界だろうが山だろうが、現世のよくわからん石板なんぞ荷物になるだけである」


 漁火助教、文明の利器を「現世のよくわからん石板」扱い……。ある意味大物。いや、『ある意味』ではなく、最初から迫力がある人だけども。


 でも、言わんとすることはなんとなくわかってしまう自分もいる。もともと俺の親の世代にはスマホなんてなかったわけだし、自然界の中ではスマホを使うこと自体あまり無意味なのかもしれない。


「サバンナのことを考えてみろ。スマホをいじっている隙に、ライオンに食われるぞ」


「まぁ、そういうこともありますね……」


 本能寺先輩がまた引きつった笑みを浮かべる。なんで聖職者志望がサバンナでスマホを使うシチュエーションを想像したんだ、漁火助教は。言いたいことはなんとなく伝わるけども。


「そんなわけで、スマホは持っていってもいいが、荷物になるだろう」


「はぁい」


 柊があっさりと返事する。こいつもこいつで案外ドライだよな。物わかりがいいと言えばそうなんだろうが。てっきり今風の大学生っぽく、スマホ依存かと思ったがそうでもなさそうだ。


「ラジオはどうなんですか? スマホの電波がなければ、ラジオも聞けませんよね」


 智里先輩が質問する。多分スマホも聞こえなかったらラジオも無理だろう。だが、漁火助教はそれを否定はしなかった。


「それは自分たちで実証してみればよい。自らの体験も勉学には必要だ」


「ふうん……確かにそうかもしれないね、拳」


「祝、俺に振るな。総の案だぞ」


 漁火助教の言いたいことがなんとなく伝わる。スマホは使えないが、異世界でラジオが聞けるかどうかの確認はしていないと言ったところか、もしくは「聞けないかどうか、自分たちで確認しろ」という愛の鞭でもあるのか。大学って厳しいな。


「あと、持ち物だが……滝行があるので着替えと、水着は必要だ」


「え? 水着でいいの? あの……普通って白い着物みたいなの着ない?」


 柊が疑問符をつける。『滝行』なんだから、普通は白装束を想像するよな。水着でいいなんて……と、俺は「意外と自由だな」なんてのんきに考えていたが、よく考えると行くのは『冬の山』である。水着だろうが白装束だろうが、寒いものは寒い。現実の世界だって4月とは言え、まだ朝晩は寒いんだ。


「水着なんて、チャラついてはいないか?」


 三蔵が眉間にシワを寄せる。


「水着と言っても色々ありますから、三蔵さん」


 宇佐美さんが慌ててフォローするが、水着か……。これが夏場のプールだったらニュアンスが違うけども、女子がビキニなどを着ていたとして、それはきっとクソ寒いであろう冬の山中にある滝である。大体このメンバーでロマンスが生まれる想像が今のところはできない。ただ凍えるだけだろう。もちろん白装束でもガタガタ震えることは変わらないのだろうけども。


「我の体験的に、安全面に配慮した結果だ」


 一応考えられてはいるのか、安全面。助教の実体験からということは、白装束で滝行をして危ない目にあったことがあるのか、この人は……。そしてそれを俺たちにもやらせるつもりなのか……。三蔵や柊はガッツがありそうだが、宇佐美さんは本当に大丈夫か? 俺はまたちらりと隣を見るが、宇佐美さんは真剣に持ち物をノートに取っている。三蔵や柊もだ。……やっぱり俺だけか? 色々余計なことを考えているのは。


「えっと、脱ぎ着できる服と、着替えと水着とタオルも必要だよね? 他にゴミ拾い道具と……あとは何かありますかー?」


 柊の質問に、助教ではなく3ぼーずが答える。


「俺は実証実験用のラジオだな」


「あ、あと山の天気って変わりやすいって聞くぞ。雨具なんかも必要か?」


「手が使えるほうがいいから、傘よりカッパのほうがいいですよね? じょきょー」


「閂くんの言う通りだ。カッパも持参するように」


「はぁい」


 漁火助教に振り、柊が承諾する。なんだかんだで大荷物だな。これを全部持って30kmも歩くのか……。10時間、だっけか? 途中で腹が空きそう……って、あれ?


「漁火助教、メシはどうするんですか? もしかして、山だからクマでも狩れとかきのこでも食えとか、そういう感じの……」


 俺が恐る恐る質問する。マジで怖い。ゴミ拾いはともかく、30km歩いて滝行しろっていう助教だ。山での食事くらい自分たちで調達しろとか言いかねないのではないかと俺は怯える。だが、この場所で怯えているのは情けないことに俺くらいのようだ。全員、変な風に肝が座っている。前回気を失っていた宇佐美さんでさえも。なんで平気なんだ……?


「はっはっは、案ずるでない。もちろん弁当持参だ。言っただろう、トレッキングだと思えと」


「それはそうなんですけども……」


「気を抜くな、黒巣。弁当……だと?」


 今まではしっかりしていた女子陣だったのに、助教の『弁当持参』という言葉のほうにつばを飲み込んでいる。なんでだよ。


「お弁当……っ!」


「それは気が抜けないね!」


 宇佐美さんも、柊もどうした。修行より食い物か? 食い意地が張っているのか? なんて呑気に思っていたら、勝手に三蔵と柊が対立し始める。


「三蔵サン! わかってるよね?」


「言うな、柊。これはーー弁当対決っ!」


 弁当対決だろうがなんだろうが、勝手にしてくれ。……だけど弁当か。俺はひとり暮らしだし、何を作ればいいんだ? 弁当なんて、いつ振りだろうか。高校のときはもう親も適当にしろって感じで、小遣いから購買でパンを買ったり、学食に行ったりしていたからな。弁当を作ってもらっていたのは中学くらいまでだし、大学に入学した今は、自分で作らないといけないのか。それはある意味女子3人がつばを飲み込んだ意味もわからなくはない。


「お弁当の準備なんて、できてないですよ〜! お母様に説明しないと……」


「宇佐美くんはまず、自分で作ろう」


「えぇ……」


 助教が宇佐美さんを励ます。確かに大学に入ったんだし、弁当くらいは自分で作ったほうがいいだろう。3ぼーずはどうなんだろう? と、ちらっと先輩方に目をやる。


「弁当か……花見のときの天利先輩の弁当を忘れない」


「あの話はやめろ」


「ヨーグルトサラダ……雑巾のようなにおい……うっ……」


 また彼らは天利先輩のことで悩んでいるのか。なんか……本当にご苦労されてるんだなと少し同情する。だけど、彼らはまだ女子1人に対して悩みを共有する仲間がいる。それはありがたいことなんだろうな。


 俺の仲間……仲間というか、同じゼミのメンバーと言うと、三蔵と柊はバチバチのライバルだし、宇佐美さんは少し頼りなさげだ。でも、しっかりやってるところはしっかりやっているから、俺もついていかなくてはいけないんだなとふと思う。


「だけど、弁当か。お前ら、どうする?」


 本能寺先輩が閂先輩と智里先輩に話を振る。男の料理か。興味深いなと耳を澄ましていると、智里先輩が抜け駆けした。


「コンビニのパンでいいだろうか?」


 そんな手があるのか……。いや、確かにそれでもいいんだろうけども。しかし、それを聞いていた漁火助教が口を挟んだ。


「パンより米のほうが腹持ちはいいぞ」


「じゃあおにぎりでいっか」


 それでいいのか、3年生。俺が少々呆れているところ、本能寺先輩が諌める。


「総も祝も真面目にやれ。後輩は弁当を作ってくるって言っているのに、俺たちがコンビニの弁当だったら情けないだろう」


「君はどうするんだ? 黒巣」


「え、俺?」


 同じ男ということでだろうか。いきなり智里先輩に話を振られてしどろもどろになる。正直どんな弁当を作ってくるかとかは何も考えていない。


「おにぎりでいいって言うなら……」


 凝った弁当は作れないけども、おにぎりくらいなら米を握るくらいだし、俺でもなんとかなりそうだ。


「コンビニのおにぎりでもよいが、もちろんゴミは持ち帰るからな。他にも、チョコレートや飴など、糖分も用意するように」


 お菓子類も必要なのか。大学帰りにスーパーにでも寄っていかないといけないな。


「持ち物などはそんなところか。あとは各自で用意できるな? 靴はトレッキングシューズを用意するように」


「はーい」


 助教の言葉に全員が返事する。トレッキングか……。こんなふわっとした感じで本当に大丈夫なのか?


 しかし、山登りと一口に言っても物入りなんだな。それもそうか。滝行までするんだし。


「では、登山は明日行う。3時、校門前に集合だ。それまでに用意をしておくように。もちろん体調の準備もな」


 そう言って漁火助教が締める。


 ……って、明日3時に校門前集合!? 朝何時に起きればいいんだ!?

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