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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第四章「教師、堕つる刻」
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#54 ほっとしたのも束の間


 試験二日目を卒無くこなし、気がつけば最終日の最終科目に差し掛かっていた。

 昨日も帰りに校内をこっそりと見て回ったが、盞華──「カレンデュラ」達も勉学に励んでいるようで、何かを企てているようには見えなかった。

 職員室が何やら少し慌ただしいようにも見えたが、この学校の教師は、一人としてまともな人間が居ないため、大体いつだって騒がしいのだ。

 昨日だって、セトとフカが大喧嘩をしていたし、他の教師も随分と口論を繰り広げているのを、のるんは何度も目撃している。


 (ニュクスの言葉が間違いだった。そう思い込むのは簡単だけど……)


 万が一ということはある。この試験が終われば、今日は念入りに校内を探ってみよう。

 幸い、明日明後日は試験休みということで、授業はない。

 ただ、部活動は普通にあるので、校内は解放されている為、出入りは可能である。

 可能であれば、今日のうちに行方不明者を探しておきたい。でないと、「ヘルヘイム」に侵入しにくい。

 今ののるんは、なしろか生徒会のどちらかの助力が無ければ、「ヘルヘイム」へと行けないのだ。


 (何かしらの手段を確保できれば良いんだけどなぁ。例えば、那雲さんを利用するとか)


 生徒会に正式に加入してしまえば、メリットは勿論あるが、デメリットが大きい。

 だから、正式加入することを躊躇ってしまっている状況下だ。流石に今入る訳には行かない。

 精々、情報収集の手段程度にしておきたいのだ。仲良くは勿論するが、傾き過ぎるつもりはない。

 どうしたものかと、頭を悩ませていると、試験終了のチャイムが鳴る。

 それなりに対策はしたが、取れても平均点から少し上くらいのものだろう。


 「あ〜〜疲れたっ。ねね、のるんちゃん!折角試験終わったし、どっか行かない?」


 背伸びをして、疲れを誤魔化していたら、近くの席に座っていたさなから声を掛けられる。

 有り難い誘いだが、今日はやることがある。非常に心苦しいが、断るしか無い。

 さなの居る方向を向いたのるんは、眉を下げ、心底申し訳なさそうな顔をして顔の前で手を合わせる。


 「ごめ〜〜ん!実はちょっと用事があって……。この埋め合わせは必ず……!」


 あまりに演技が下手だったのか、さなは少し引き気味に、おぉうとだけ言って首を縦に振った。


 「まぁ、試験終わりは大体予定あるよね〜。私は逆に部活が今日は休みだから、のるんちゃんと何処かに行きたかったんだけどな〜?」

 「そう言われると罪悪感マシマシになっちゃう……。じゃ、じゃあ次の休みにどっか行こ?ね?部活が休みの時に、ボクも時間合わせるからさ」


 のるんの懸命な態度に絆されたさなは、小さく息を吐いてから手を振って、その場を去った。

 今はもう放課後だ。ニュクスの言葉は未だに半信半疑だが、それでも動いて損はない。

 荷物を纏めて、のるんも教室を出ようとしたその刹那だった。教室の扉が勢い良く開けられた。

 

 「の、のるんさんっ!急いで生徒会室に来てください!これは生徒会長命令です!わふぅ〜!」

 「え、何、あ、物凄い力強いんだけど、え、ちょっと待って。あの、ボクの意思は」


 いきなり入ってきた凪織は、のるんの言葉を聞くまでもなく、教室から連れ去った。

 周りの視線や反応など、お構いなしと言った様子で、のるんをファイアーマンズキャリーの体勢で運んでいった。

 歳下の女子にこの姿勢で運ばれていくのるんは、チベットスナギツネのような顔だったと、後に記事にされるのだが、それはもう少し後に語られるだろう。


 

_______________


 星失高校──「生徒会室」


 有無を言わさずにつれてこられた生徒会室には、凪織の他にも、ヤタノ、リア、鈴も揃っていた。

 各々が苦々しい顔で、席に座り、連れてこられたのるんの方を見ている。

 普段は多忙な生徒会メンバーが、勢揃いしていることになる。一体何の用なのだろうか。

 試験の結果が悪かったからって、あんな運び方で周りの注目を一身に受けながら連れてこなくたっていいだろう。

 自分がいつも座っていた席に降ろされると、のるんは目を丸くさせながら鈴の方を見る。

 

 「えと……、那雲さんに拉致されたんですけど……一体何があったんです?」


 分かっている。頭の中では想像がついている。嘘だって信じたかったが、可能性は非常に高い。

 既に覚悟を決めているのるんは、神妙な顔をしながら、鈴にそう尋ねた。


 「実は、今日の朝から猫鮫先生と連絡が取れなくなっています。旦那様とも会話はしましたが、昨日の夜から連絡が取れていないそうです。そして、直に警察へと捜索願を出す予定だそうです。……なので、明日の午前中から、「ヘルヘイム」に侵入し、猫鮫先生が居るかどうか、確認をしたいと思います」

 「居るかどうかの、確認ですか」


 のるんは、涼しい表情でそう言い切った鈴の言い方が、どうにも妙に引っ掛かった。

 居るかどうかの確認をし、居た場合はどうするつもりなのか。彼女の言葉には、違和感を覚える。


 「えぇ。「ヘルヘイム」に居た際は、それ相応の対応を取らねばなりません。目撃情報の記憶処理や、事案の発生状況の把握、再発防止の対策を練らなければ。短期間にここまでの失踪者が出た際は、責任問題も問われますから」


 のるんは、鈴の言葉に眉を顰めた。

 猫鮫先生を助ける気など、更々無いと言わんばかりの計画案だったからだ。


 「じゃあ、もし仮に猫鮫先生が「ヘルヘイム」にとらわれていたとして。生徒会は救出には向かわないのですか?」

 「そうは言っていません。我々は最悪の状況を想定し、最悪の事態を回避する手段を、今こうして述べているだけです。残念ながら、「ヘルヘイム」に猫鮫先生が居るかどうかも、未だ定かではありませんから」 

 

 のるんは、横目でリア、ヤタノ、凪織の表情を確認する。納得している者も居れば、していない者も居るのだろう。ただ、のるんが理解した事実は一つだけだ。

 鈴達生徒会が気にしているのは、学校の体裁、世間体だけ。フカの安否など、二の次だという事だ。

 そして、あろうことか、フカの存在を無かったことにし、問題自体を揉み消そうとしているのだ。

 

 (短い付き合いではあったけど……、猫鮫先生は……)


 『貴方が此処に来て、初めての試験。勿論、勉強をするもしないも自由ですわ。良い点を取るも、取らないも自由。ですが、こういった知識があれば、考え方も、行動も変わってきますわ。出会った人も、環境も、何もかもが変われば、きっと結代さんや周りの人にも、少なからず変化があるでしょう。それこそが「色即是空 空即是色」と言うものですわ』


 ぶっきらぼうではあったけれど、放課後につきっきりで試験内容をおさらいしてくれた。

 馬鹿みたいな格好に、馬鹿みたいな立ち振舞をしていたフカだったが、決してのるんを、見放すような言動はしていなかった。

 彼女の自分とは異なる立ち位置、立場での言葉は、馬鹿な自分でもすんなりと飲み込めたのだ。

 そんなフカが、もし仮に「ヘルヘイム」に拉致されていれば、記憶処理をして、居なかったことにする?


 (冗談じゃない。そんな馬鹿げたことは絶対に許せない)


 机の下では、固く握った握り拳が怒りに打ち震えていた。

 だが、のるんはその怒りをぶつけること無く、深呼吸をしてから、表情を取り繕い、鈴を見る。

 こちらの表情の変遷を伺っていたのだろう。涼しい顔の裏に、別の顔が垣間見えている。


 「そうですか。生徒会の動向は把握しました。それで、協力者のボクを呼んだ理由は何です?猫鮫先生が行方不明なんていう重大な情報を流して、はいじゃあ帰ってください。とは行かないのでしょう?」

 「本当、察しが悪いのね、結代さんは。アンタも、私達の捜索に付き合えって事よ。言わなきゃ分からないかしら?」


 キッとのるんを睨みつけているリアが鼻を鳴らしながら、嫌悪感を隠そうともせずに言った。

 個人的には好きになれない彼女だが、自分じゃない誰かの記憶では、のるんの事を慕っていた筈だ。


 (その辺りも調べなきゃな。彼女の生い立ちや、どうして自分を目の敵にするのかを)


 「のるのるは、別に無理してぼく達と、一緒に行動はしない方が良いよ。勿論、鈴カイチョーの意向を汲んだ上で、同意が出来るなら、ぼくは何も言わない。でも、納得出来ずに無理矢理飲み込んで行動に移すのは絶対に良くないと思うから。もちろん、わんこも同じだよ」

 「えぇっ!?ボクですか!?ボクは……生徒会の一員なので……、玉兎生徒会長の意向に従い、ます・わふぅ……」


 凪織も、ヤタノも、二人とも完全な納得はしていないのだろう。

 二人とも、生徒会に所属しているからという理由で、飲み込んでいる。

 それに、学年が違うから、フカとの関わりも相当薄いだろう。つまり、自分達とは違う立場なのだ。

 だが、生徒会に歯向かえば、のるんが「ヘルヘイム」に侵入する手段が一つ減ってしまう。


 (それだけは、何としても避けなければならない)


 逆らいたいが、逆らえない状況下で、のるんは首を縦に振るしか無かった。

 奥歯を噛み締め、同意を示した時、スマホがブルリと震える。誰かからトークメッセージが届いている。

 机の下で確認すると、宛先はヤタノだった。


 『今夜19時、学校前で待ってて』


 彼女らしくない文面だったが、きっと何か意味があるのだろう。

 敢えて、ヤタノとは視線を合わせずに、鈴の報告や、情報連携、注意事項を聞き流している。

 その場は、鈴に従うフリをしながら、のるんは生徒会室を後にした。



 





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