#49 「悪いけど、負ける気はないから」
のるんとヤタノが校庭で作戦会議をしている中、凪織となしろも遅れてやってきた。
二人はこれから、作戦会議をするらしく、ヤタノは半分虚ろな状態の、のるんに話しかけている。
こちらはある程度、作戦会議を終えた所である。どういうふうに戦い、どう相手を下すかを決めた。
(でも相手は、戦闘経験者の姫宮さん。ボクが……太刀打ちできるのだろうか)
今回の組み合わせは、のるんとヤタノ、凪織となしろのペアだ。役割が随分と偏っている。
(ボクと漆原さんは……えっと、確か)
のるんは、先程ヤタノから聞いた内容を、頭で何度も何度も反芻する。
役割とは、戦闘時に置ける担当領域を指しており、大きく分けて四つに分類される。
「強襲者」 ──「戯装」や詠唱術を主体にしている攻撃役。
「支援者──味方の補佐に回ったり、回復等も行う補助役。
「妨害役──状態異常や、搦手で戦闘を有利に運ぶ弱体役。
「盾役」──味方を守り、己を盾にしたり、相手の敵視を向けさせる防御役。
現在ここに居る四人は、のるんとヤタノが「強襲者」、なしろが「妨害役」、凪織が「盾役」となっている。
支援者が居ないことがネックだが、バランス良く役割がバラけているため、比較的戦いやすい。
そんな中、「強襲者」を二人固めたペアでの戦闘は、相手をする側も、される側も難しいのだ。
(えと、確か……那雲さんは……)
彼女は、未だに戦闘経験が浅いものの、元来の性格も「戯装」に反映されているせいか、非常に堅牢な守りを誇っている。
ヤタノが守備力を捨てて、攻撃性能に全振りしても負傷する頻度が少ないのは、彼女が敵視を取り、攻撃を一身に受けているからだ。
対人戦で彼女がどこまで活躍出来るかは未知数。
しかし、なしろを背後に置き、自身が削られ切られる前に、彼女の攻撃でこちらを無力化出来れば、十二分に勝機はある。
(そして、姫宮さん……)
戦闘経験がのるん達より長く、「天下布舞」との関わりも深い様子が見られる。
また、単独で「ヘルヘイム」に侵入しても問題なく活動できるのを鑑みると、単体戦闘能力は相当高いと見られる。
得意属性の呪詛、副属性の疾風を加味しても、正攻法ではないことは分かるが、どういう戦い方をしてくるかは正直分からない。
(そして、一番肝心なのは……)
コレが対人戦であって、対「エゴ」戦ではないことだ。
「エゴ」を相手にする際は、ある程度のセオリーがある。
弱点を的確に突き、相手が体制を崩し、こちらへの攻撃が疎かになっている間に総攻撃をする。
弱体化も効く相手が多いことから、今居る四人で戦う際には、戦術の要であると言える。
でも、対人戦は勝手が大きく違う。相手によって、巧みに戦術を切り替えることが出来る。
例えば、凪織が得意とする詠唱術──相手の敵視を奪う「自己嫌悪」も、ある程度は自分の意志で対抗できる上、束縛、混乱、虚弱、気絶といった状態異常を軽減、無効するアクセサリも装備する事が出来る。
(そういった意味合いでは、この三日はもっと模擬戦の対策もしておくべきだった)
勿論、のるんも最低限はしている。勉強中心だったのは否めないが。
「BlackSmith.Rpas.」で状態異常防止のアクセサリや、「戯装」のカスタムパーツを変更済だ。
一番使用されて厄介な、束縛、気絶、混乱の状態異常を防止する物を装備している。
ヤタノにも同じ物を装備して貰い、カバーできない部分は回復用アイテムで補う手筈にしている。
「ねえ!きいてる?のるのる〜?おぉ〜い!」
「ぇっ?あ、ごめん、聞いてなかった」
ヤタノが自分の目の前で手を振っている。どうやら、また考え事に熱中しすぎていたらしい。
なしろとヤタノが見つめ合い、激しい火花を散らしているのを見ていたせいか、虚ろな目でぼーっとしてしまっていた。
のるんが、舌を出し、茶化したように笑うと、ヤタノの表情が一気に真剣なものに切り替わる。
「のるのる、この勝負。勝つよ、絶対に。じーにあすの名に賭けて!」
「う、うん。頑張るけど、じーにあすって固有名詞なんだ……?」
のるんの疑問に、ヤタノは一切答えること無く、決められた場所に立つ。
今回の模擬戦のルールは、至極簡単なものだ。
2on2でのチーム戦で、二人共無力化、ないしは戦闘継続が不能になった時点で、勝敗が決する。
戦闘可能領域は校庭内のみ。校舎や、外への進入は故意でも不意でも禁止。
制限時間は無制限、打撲、捻挫以上の負傷を伴う詠唱術、攻撃の禁止。
精神攻撃は、再起不能になる可能性あるなしに関わらず、全面的に禁止。
改めてルールを確認すると、模擬戦にしては、何とも血腥いなぁと、のるんは感じていた。
「でも、このルールだと、相手を校庭から追い出しちゃえば勝ちだよね……?」
のるんが、まさか、そんな事はしないよね?という念押しで聞いた言葉に、ヤタノは嗤った。
明るい金髪をポニーテールにし、今日は紅いカラコンを入れているせいか、妖艶に輝いている。
「え?まぁ、うん、そうだねぇ。でも、弾丸や刀身はわざわざゴム弾と鈍らにしてあるんだから、使わない手はないし、そんな面白くないことして勝っても、意味なんて無いよねぇ?」
彼女の瞳は、まるで狩人のようだった。獲物を見る目で、凪織や、なしろを見ている。
普段から自称嗜虐系ロリを謳ってはいるが、今日この時だけは、真実かもと思ってしまう程だ。
未だに、ヤタノと睨み合っているのか、時折、なしろの視線を感じる。ジトリとした、嫌な感じだ。
(なんであんなに二人は燃えてるんだろう……?)
自分も一応は、出来る限りの準備を重ね、時間は短いが扱える属性も把握したが、力の入れ方が違う。
既に「戯装」を展開し終えている三人に遅れて、のるんも「戯装」を展開し、所定の位置に立つ。
のるんヤタノ組は、校舎側。なしろ凪織組は、校門側の対局の位置で待機している。
戦闘開始の合図は、一番おっとりしてそうな凪織に任せることにした。
(だって、漆原さんや、姫宮さんに任せたら、不意打ちから始まりそうだし……)
おどおどしていた凪織は、少ししてから深呼吸をし、大きく息を吸って叫んだ。
「「模擬戦」開始っ!!」
凪織が出した精一杯の掛け声に合わせて、戦いの火蓋が切って落とされた。
先手必勝だと言わんばかりに、ヤタノはなしろ狙いでゴム弾を連射する。
射手が見えているにも関わらず、「戯装」の影響もあってか、弾道が曲線を描いている。
「エゴ」相手であれば、全弾命中し、相手を蜂の巣にしてしまう程の弾数が放たれた。
「姫宮さんっ!この弾丸はボクがッ!」
「ふふっ、任せたわ。那雲さん」
なしろ目掛けて放たれた弾丸は、凪織の「自己嫌悪」により、弾道を再修正されて、凪織の「戯装」に吸い込まれて、弾かれた。
弾丸にまで作用されるのであれば、話は変わってくる。
凪織を無視して、なしろを倒すという戦術の根幹が揺らいでしまう。
(どうする?無機物である弾丸ですらなしろに当てられないのなら、ボクの攻撃も……)
詠唱術で手札としてあるのは、氷結、地変、崩壊だが、氷結以外はまだ伏せておきたい。
そうこうしている内に、なしろは詠唱術の準備を整えている。恐らくは呪詛属性の状態異常だろう。
幸い、致命傷になりかねないものは防げる算段だ。ある程度は無視して、凪織を攻撃しようとしたその矢先だった。
なしろの詠唱術を回避していなかったのるんの身体は、一気に重くなる。
知らない詠唱術、知らない状態異常だ。双小剣型の「戯装」が持てないほどに動けない。
「ふふ、結代さん達には見せてないものね。虚弱の他にも、妨害手段なんて幾らでもあるわ」
微笑を称えていたなしろに注視していたのるんの身体が、いきなり重力に反して吹き飛ばされる。
突然のことだったせいで、受け身すら出来ずに、近くにあった木に全身を強く打ち付ける。
「のるのる!大丈夫!?」
「がはっ……、っ、大丈夫、ではないけど、まだやれる」
のるんが攻撃された方を見ると、「戯装」に氷塊を纏わせた凪織が自信満々といった表情で、こちらを見ている。
体内が必死に酸素を供給しようと、咳き込みながらも、のるんは凪織を睨みつける。
「のるんさん。ボクが盾役だからって、警戒対象から外すなんて、ナンセンスです。聖槍や聖盾だって立派な武器なんですから!」
「やってくれるじゃん……、一矢報いた程度で勝った気にならないでよね……!」
のるんは、制服に仕込んでいた回復剤を一気に飲み干し、刃に属性付与し、頭の中で戦術を組み立てる。
遠慮なんてしている場合じゃない。相手は全力で勝ちに来ている。
ヤタノも、やる気満々だ。どうすれば、眼の前の相手に勝てるかだけを考えれば良い。
「悪いけど、負ける気はないから」
その時に、のるんが発した不気味な笑みが、今も時折悪夢に出ると、後に凪織は語った。




