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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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#48 「己の弱さを自覚しろ」



 のるんが目を覚ますと、スマホが震えていた。誰かからの着信音が鳴り響いている。

 いつの間にか、ベッドで眠っていたらしい。急いでスマホの画面を確認すると、ヤタノからだった。

 急いで応答ボタンを押し、耳に当てると、彼女らしい明るい声が聞こえてきた。


 『あ、のるのる!ごめん、寝ちゃってたかな?』

 『大丈夫、うとうとしてただけだから〜。で、どうかした?』


 なんとか、寝起きの声を誤魔化すために、敢えて元気な声を演出すると、スマホの奥から安心したような声が聞こえてくる。

 時計を横目で見ると、時刻は23時付近を指している。

 まだ寝るには少し早い時間なので、ヤタノが謝る必要もないのになぁと思いながら、要件を尋ねる。


 『えとね、来週の月曜日辺りで「ヘルヘイム」で戦闘経験を積んどきたいなぁ〜って』

 『それは全然良いけど、再来週、中間試験じゃなかったっけ……?』


 今日の日付は5/8、試験は5/18の月曜日からだ。つまり、来週の月曜日は試験一週間前だ。

 試験が余裕なのであれば、全然構わないのだが、ヤタノは大丈夫なのだろうか。

 のるんの言葉に、少しだけ言い淀んだヤタノの成績は正直、そこまで良くはなかったはずだ。

 腐っても生徒会の一員ならば、それなりの成績を取らなければならない気もする。


 『ま、まぁ!一週間前に勉強しなくても、ぼくは余裕だし!?じーにあすだしぃ!?』

 『なら良いけど……、ボクと二人で行く感じ?』


 のるんの言葉に、電話越しながらもドヤ顔しているであろうことは想像がつく声がする。


 『ふっふっふ〜!実はもう既に姫っちとわんこも呼んであるのだ!』

 『あの二人は勉強大丈夫なのかしら……、どう見ても那雲さんは馬鹿そうだけど……』


 あのなりで成績優秀な方が怖い。万年赤字でないと少し困る。

 何も考えていないような顔で、学年首席だった際には、のるんは泣いてしまうかも知れない。


 『姫っちは、勉強しなくても余裕。わんこは常日頃から勉強してるから一日くらいなら問題ないって言ってた〜。なお、ぼくも余裕!なんせ、じーにあすだからね!ふふん』

 『そっかぁ……。まぁ、ボクも一日くらいなら良いけど……』


 嘘である。勉強はあまり得意ではないため、前日にヤマを張って、その部分だけ勉強する。

 徹夜するのも得意ではないため、深夜の2時には寝てしまう浅漬けスタイルだ。

 過去に徹夜で勉強したは良いものの、試験本番で熟睡してしまって、全部赤点になったこともある。

 零明高校は、以前所属していた高校よりかはレベルは低い。だからこそ、油断はできない。

 生徒会に仮所属している身としては、ある程度の成績は出して置かなければならない。

 

 (そのせいで、土日の空いてる時間は勉強してたりするんだけどね……)

 

 なので、ある程度の成績は担保できる自信はある。勿論、平均程度だが。

 のるんは、ふとニュクスとの会話を思い出した。どちらにせよ、自分も力は付けたい。

 またいつ、凪織のように攫われる人物が出るか分からないのだ。


 (生徒会も、オカ研も、天下布舞だって、味方じゃない場合も多いんだ……)


 信じられるのは自分だけ。なら、強くならなきゃならない。弱いままじゃ、誰も守れない。

 平穏な日常を送るためには、力が必要なのは十二分に理解した。


 『なら、月曜の放課後は、「ヘルヘイム」の校庭で、模擬戦をするからね』

 『模擬戦……?えと、バトルロイヤル形式の?』


 のるんの言葉に、電話越しからチッチッチと声が聞こえてくる。

 なんだか無性に腹が立つが、一旦深呼吸をしてから話の続きを聞く。


 『んーん、今回は2on2のタッグバトルだねぇ。ボクとのるのる、わんこと姫っちの組み合わせね』

 『また珍しい組み合わせだね、なんか理由あるの?』


 『え?だって、わんこと組んでもいつも通りだし、姫っちちょっと怖いから!ふふん!』

 『おぉう……そっか、まぁ消去法でボクって事だね』


 少しへそを曲げたような口調で、のるんが口を尖らせると、ヤタノは声を弱くさせる。

 そういう事になりますはい、と弱々しい声で返事が返ってきた。

 実際問題、慣れていないものとペアを組んでの模擬戦は賛成だ。

 自分もなしろと組んでばかりでは、対なしろの戦術を組むことすら出来ない。


 『えと、大丈夫そうなら、先に集まって作戦会議とか出来ればって思うけど……どう?』

 『うん、大丈夫。ボクも模擬戦前に、得意属性の把握しておかなきゃ』


 『あぁ、そう言えば氷結以外は使ってなかったんだっけ?』

 『うん……、だから那雲さんの「エゴ」戦の時も、氷結属性の詠唱術しか使ってない……』


 一属性しか使えないのは致命的である。複数属性の掛け合わせは強力かつ必須だ。

 例えばだが、凪織は、氷を自身の「戯装」に纏わせて防御力を底上げし、祝聖属性で相手の弱体化を防御することで、物理面、精神面での耐久力を底上げすることが出来る。

 なしろは、疾風、呪詛が扱えるので、メインは呪詛による弱体化、サブで疾風で呪詛の効果範囲を拡大しつつ戦うことで、自身の得意戦闘領域を拡げている。

 ヤタノは、電撃、崩壊が扱えるので、両属性を掛け合わせて、多彩な攻撃を繰り広げている。


 (でも自分は……)


 のるんは扱える属性が分からないせいで、複数属性の連携技すら見いだせていない。

 その上、双小剣の扱いも慣れていないので、攻撃は詠唱術を使用することが多い。

 今のままでは足手まといになりかねない。この模擬戦の誘いは自分にとってもメリットが大きい。

 

 『おっけい!んじゃあ開始時間を17時からにして、ぼく達は16時には集まっておこっか!』

 『分かった、それじゃ、月曜日の16時に「ヘルヘイム」の校庭付近だね。了解だよ』


 その後は、中間試験の話を混じえながら、ヤタノと談笑をしてから電話を切る。

 この土日は、勉強をしておこう。幸い、さなと土曜は会う予定があるが、昼間だけの話だ。



 ______________


 5/11 月曜日──異世界「ヘルヘイム」校庭付近


 約束の時間よりもさらに少しだけ早く、のるんは「ヘルヘイム」へと侵入していた。

 淀んでいる空は赤と黒が支配しており、校内も校庭もあちこちに血が付着している。

 校内の「エゴ」も粗方片付けておいた。倒しても倒しても湧く訳では無いので楽だ。


 「よし、じゃあ漆原さんが来る前に、ある程度確認しておこ……」


 まずは火炎……失敗。小さな火の玉を生み出そうとしたが、掌で小さな火が出る程度だ。

 次に疾風……これも失敗。旋風(つむじかぜ)すら生まれる気配はない。

 電撃、呪詛、祝聖、も不発だったが、地変と、崩壊の二つは少しだけ形になった。

 簡単な地形変動、大地生成と、付近の木を消滅させることが出来た。


 (となると、ボクは三つの属性を扱うことが出来る……?ってこと?)


 基本的に、使用できる属性は主に二つのはずだが、氷結、地変、崩壊が使えるのならば、ある程度のアドバンテージはありそうだ。

 集合時間の五分前になっても、まだ彼女の姿は見えない。今のうちに考えをまとめておこう。

 凍らせた大地を射出させたり、大地で閉じ込めて大地ごと崩壊させるのはありかも知れない。


 (ただ、模擬戦でやっていいレベルじゃない気がする……軽い怪我程度で済むのは……)


 うーんうーんと考えていると、徐ろに肩を叩かれる。

 考え事をしていたせいで、身体がビクリと跳ねてしまう。ふと振り返るとそこにはヤタノが居た。

 敵や、他の人物だったらどうしたものかと、考えていたので、心底安堵した。


 「おまたせっ!少し遅くなっちゃった……ごめんねぇ……のるのる」

 「ううん、大丈夫。それよりもボクのもう一個の属性、分かったよ。地変だった」


 崩壊も扱えることは一旦伏せておこう。いつかの為に取っておきたいと思ったからだ。



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