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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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#44 あ、ちゃんと教師するんだ……


 

 5月7日の朝。あっという間にゴールデンウィークは終わってしまった。

 充実していた大型連休は終わり、のるんの心はすっかり五月病に苛まれている。

 友人や一人で過ごす時間が、有意義すぎた事と、「ヘルヘイム」の事を忘れていたかったのだ。

 今日も眠い目を擦りながら、ニュースをぼんやりと眺めていると、後ろから抱きしめられる。


 「ん〜……また知らない間に侵入したの〜?」

 「ふんすっ!GWが明けたからね!のるんちゃんが寝てたらまずいでしょ?」


 こちらを気遣っているような文言だが、のるんの頬に恍惚とした表情で、頬擦りしている現状では、あまり説得力はない。

 ちゃんと戸締りをしているはずなのだが、どうやって侵入しているのだろうか。

 一ヶ月も経てば、もはや日常と化しているが、今でも少しだけ気になる。


 『GW明けは暫くの間、天気が安定するでしょう。憂鬱な五月病を乗り切りましょう!』


 ニュースのアナウンサーが若干気怠げ気味なのは、見なかったことにしておこう。

 彼女達にはきっと、GWなど無い筈だ。毎日ニュース番組を見ていれば、それくらい分かる。

 そろそろ中間試験の時期だ。勉強もそれなりに励んで置かなければならない。

 顔を出すつもりはないが、生徒会の末席に所属している以上、最低限の成績は出す必要がある。


 (勉強……かぁ、誰かと一緒にしようかな。それとも一人のほうが捗るかな……)


 のるんが物思いに耽っていると、いきなりほっぺを抓られ、現実へと引き戻される。

 じんじんと痛む頬の痛みを、ぼんやりと受け止めていると視界にさなが入り込んできた。


 「も〜、聞いてる?再来週から試験だから、一緒に勉強しよ?」


 頬を膨らませながら、上目遣いでそう話してくるさなは、如何にもご機嫌斜めといった様子だ。

 恐らくだが、自分が考え事をしている間も、色々と話をしてくれていたのだろう。

 申し訳なさを表情に現しながら、のるんは眉を下げて笑う。


 「そうだね、放課後に良かったら一緒に勉強しよっか?」

 「やたやたっ!じゃあ、部活後とかに行けそうな時は連絡するね!」


 部活後に勉強しようって気持ちになるのが凄いなぁと、のるんは珈琲を飲みながら思う。

 自分なら「ヘルヘイム」に入った後に勉強なんて、とてもやる気になれない。

 そういうストイックさが、さなの魅力であり、凄い所でもある。自分ではとても無理だ。

 上機嫌でるんるんとその場を歩き回っているさなは、あ、と声を漏らした。


 「そう言えば、のるんちゃん、部活入ってなかったよね。何か入るの?」

 「ん〜。考えてないんだよね……。入部期限とかあるんだっけ?」


 のるんの言葉に、はて?とさなは頭上に疑問符を浮かべる。

 大抵の学校では、常時受け付けている部と、そうでもない部があるのがセオリーだ。

 正直、そこまで部活に興味は無い上に、一年限定となると、入部して良いのか悩みどころでもある。


 「うーん……特に期限とかは無かったんじゃないかなぁ。入部するしないも自由だし」

 「ふむ。なら、色々見て回ってから判断すればいいかな」


 その後は、いつものように、雑談を交えながらのるんとさなは、約一週間ぶりに学校へと向かった。



_________________



 星失市──「零明高校」2年2組教室内。


 あっという間に放課後になり、のるんは荷物を纏めていると、声を掛けられる。

 今日は体育があったせいで、かなり身体が疲弊している。長距離走は本当に嫌いだ。

 そんな中で、誰かと話したいという気持ちはないのだが、のるんは疲れた表情で声の方を向く。


 「結代さん。ちょっとお時間頂きますわよ」


 声を掛けてきたのは、担任である猫鮫フカだった。

 昨日の酔っている時とは違い、教師の顔で生徒に対して向ける表情でこちらを見ている。

 昨日の今日で声を掛けてくるとは、随分と仕事熱心なものだ。

 のるんは疲れているので、気怠げに対応する。正直、帰ってお風呂入って、本でも読みたい。

 

 「えー……、拒否権は?」

 「ありませんわ。とっとと職員室に出頭なさいな」


 それだけを言い残すと、フカはすたすたと教室を出ていった。

 近くに居たさなが、ため息を吐いているのるんの肩を叩きながら、ニマニマしている。


 「なぁにしたの〜?猫鮫せんせー、怖い顔してたけど〜?」

 「特に何もしてないよ……。でもなんだろ?心当たりなんにもないんだけどなぁ」


 嘘だ。昨日の出来事を根に持っているのだろう。

 豆代をフカに押し付けて帰ったのだから、怒っていてもおかしくはない。

 しょうがない。のるんは荷物を纏めるだけ纏めておいて、一度職員室へと向かう。


 「気は乗らないけど、仕方ない……」


 のるんは、職員室前に立つとノックをし、猫鮫フカを呼び出す。

 どの学校でもそうだが、職員室は生徒からすれば、緊張感を感じさせる場所だ。

 生徒の為にある学校なのに、生徒が入るべき場所ではないという先入観のせいで、気圧されてしまう。


 「来ましたわね。話というのは簡単なことですわ」


 フカは自席に座っており、見慣れぬ書類を引き出しから数枚取り出している。

 話の入り、態度、仕草、言動。その全てが、喫茶店で感じたものとは大きく異なっている。

 ゴクリと生唾を飲み、のるんがフカの言葉を待っていると、フカは一枚の紙をのるんに手渡す。

 受け取った紙を見ると、そこには入部届という文字が記されていた。

 

 「貴方、まだ部活に入っていないでしょう?うちの学校は基本的に帰宅部は許しませんの」

 「ゆ、許さない?」


 初耳だ。この時期から中途入部が可能になることは知っているが、強制される話は知らない。

 さなや、他の面々も何らかの部に所属していることは知っていたが、誰も必須とは言っていなかった。

 困惑した表情でフカと書類を交互に見ていると、フカはため息交じりに立て肘をつく。


 「折角の青春を帰宅部で過ごすことは、理由が無い限り、わたくしは認めませんの」

 「え、ええ……。でも入りたい部活がなかった場合は……?」


 「その場合は作っちゃえば良いんですの。顧問が必要な人数になれば、わたくしが兼任しますわ」

 「フィジカル化け物かよ……、化け物なのは飲酒量だけにしとけばいいのに……」


 のるんは思わず、本音がポロっと出てしまった。

 彼女は聞いているだけでも、三つほど部活の顧問を兼任していたはずだ。

 そのうちの一つとして、なしろの所属する「オカルト研究部」が含まれていたことを思い出す。

 

 「飲酒量も、フィジカルも人並みでしてよ。まぁわたくしはサメでもあるんですけども!」

 「サメが教師するなよぉ……。メイド服にもサメの尻尾にも突っ込まなかったのにさぁ……」


 周囲の生徒や教師、よくよく考えたら、喫茶店のマスターさえも彼女の尻尾に意見していなかった。

 彼女の尻尾にはなにか、不思議な力が備わっているのではないだろうか。

 そんな事を考えていたら、今週中に部活を決めて入部しろと、脅されてしまった。

 運動系、文化系のどちらか片方だけでいいとは言われたものの、この学校の部活の数は異常なのだ。

 全部見て回るのに、どれだけ時間がかかると思っているのだろうか。

 

 「あんまり体動かして疲れたくないし、文化系……?嫌でも数多すぎるから運動系……?」


 貰ったリストを眺めていると、ふと目に入った部活の名前があった。

 ──「拳でファイト部」部長:如月盞華

 名前を見て、のるんは目眩がした。苗字が奇しくも如月先生と同じなのだ。

 それなりに珍しい苗字ではあるので、学校に二人もいることのほうが少ない筈。


 (それに確か、拳でファイト部って前に芥川さんが言ってた部活だよね……)


 盞華──恐らく「カレンデュラ」が部長の部活。本来は行くべき場所ではない。

 でも、言っておいたほうが良いというアドバイスもある以上、行かないという選択肢もない。

 活動場所を見ると、第三体育館、と記載がある。というか、この学校体育館何個あるんだ。

 

 「活動曜日は月金の二日……。毎日やってる訳じゃないんだ。まぁ、これだけ部活数あったら、体育館も場所も足りないってことなのかな……?」


 詳細情報を眺めながら、のるんはカレンダーを見る。今日は木曜日だ。

 明日なら活動しているらしい。今日の所は、近くで活動している部活を軽く見学することにした。

 




 

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