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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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#43 あだるてぃ〜あてぃちゅ〜ど



 

 日が暮れたので、三月を家まで送り、のるんは広い家の中でぼんやりとテレビを眺めている。

 三月の心の闇がそれなりに深いことは良く分かった。人の死──親の死はかなり重い物だ。


 (死か……、死って何なんだろう。今まで考えたこともなかったな)

 

 のるんは、いつの間にか親が居なくなっていたので、気にしたこともない。

 だが、思春期に家族を失った喪失感は、想像を絶するだろう。

 理解は出来ないが、共感は出来る。これも何処かで聞いた言葉だ。勿論、聞いた記憶はないが。


 「って、あら。もう豆大分減っちゃったな。うーん……」

 

 夜の珈琲を一杯飲もうと思って、戸棚を開けたのるんは、残量を見て少し考え込む。

 三月が何回もゲイシャをお代わりしてしまったので、ストックが底をつきかけていた。

 自分もお気に入りな豆なので、まだ店が閉まる前に、改めて買い出しをしておこう。

 衣服はそのままで、ちゃんと玄関の鍵を掛けて、のるんは足早に駅へと歩いていく。



 ___________


 星骸市──喫茶「曇り空」


 つい最近来たばかりだからか、今回は迷わずに済んだ。

 相変わらず分かりにくい場所にあるこの店の周囲は、静かなものだ。

 店の名前と同じく、今晩は曇り空。まるで自分の今の心境と同じかも知れない。

 昔ながらの木の扉を押すと、中からは珈琲の匂いと、若干のアルコールの匂いが漂う。


 「おや、こんな遅くにまた来たんだね、のるん。今日は騒がしい子がいるけど、寛いでね」


 ネメシスが好きな席に座って、と言ってお冷の用意をしていると、聞き覚えのある声が聞こえる。


 「まぁ、騒がしい子って、わたくしの事を指してるんですの〜?失敬ですわよ〜」


 のるんが声の方に視線を移すと、メイド服にメイドにそぐわない鮫の尻尾を振っている女性が、気持ちよさそうにグラスに入った飲み物を煽っている。

 ──猫鮫フカ。零明高校の歴史教師であり、自分のクラスの担任だ。

 流石にこんな場所で、彼女とは会いたくなかったが、やむを得ない。のるんは少し離れた席に座る。


 「はいどうぞ、今日は何にする?あ、勿論お酒はダメだけどね」

 「あぁ〜ん?わたくしが居る場で、酒を飲まないやつなんて居るんですの〜!?不届きですわぁ〜!」


 完全に出来上がっている。見ちゃいけない物だと分かっていても、どうしても視界に入る。

 苦笑を交えながら、のるんはゲイシャとゲイシャの豆をオーダーすると、ネメシスはにこやかに笑う。


 「気に入ってくれているようで何よりだ。今度から定期的に仕入れておくね」

 「ありがとう、ボクもあの珈琲。ハマっちゃったかも」 


 待ってて、とネメシスはカウンターの奥へと戻ると、隣の席に誰かが力強く座る感覚が伝わった。

 嫌な予感がしながら、首をゆっくりとそちらへと向けると、力強くカウンターを叩く音が聞こえた。


 「こ〜んな夜更けに、隠れ家である「曇り空」に来ちゃう子が、なぁにオシャンな珈琲なん……」

 「あはは……、こんばんは、猫鮫先生。明日から学校始まっちゃいますけど、大丈夫です?」


 のるんの顔を視認した途端、フカの顔は真っ青になり、ひゅっと喉を鳴らす音が聞こえてきた。

 酔いも醒めたのか、手をばたつかせ、一瞬で距離を離したフカの目は泳ぎまくっている。

 流石に居た堪れなくなったのるんは、カウンターのグラスをフカの方へと押しやり、笑顔を見せる。

 

 「大丈夫です、此処で会ったことは、二人だけの秘密にしておきますから」

 「そそそそ、そんなお気遣いしてもらわなくても結構ですのよ?わたくし、やることやってから飲んでますので!」


 全力で目を泳がせ、尻尾をビタンビタンと振り回しているフカは、明らかに動揺している。

 正直、のるんは気にしていない。猫鮫フカが大酒豪で、あちこちで酒を飲んでいることは有名である。

 問題なのは、未成年の高校生である生徒に絡み酒をした挙句に、難癖をつけてきた部分だ。


 (別にボクは良いんだけどなぁ……、ただ何もしないで放免すると、先生の沽券にも関わりそう)


 どうしたものかと悩んでいると、フカは申し訳なさそうから、何かを企むような顔に変わる。

 こういう顔をする奴は、大抵碌でもないことを考えているものだ。きっと、フカもそうだろう。

 嘘くさい笑顔を貼り付けたフカは、ちょんちょんとのるんの肩を叩く。


 「先程のお詫びと言ってはなんですが、結代さんのお悩みを聞いて差し上げますわ」

 「え?あぁ……そうですね、悩みか……。うーん」


 フカをどう納得させるかが一番の悩みだとはとても言えない。

 他の悩みなど、あまり無いのだが、どうせなら三月の話をぼかしてしてみようか。

 どう伝えるかを散々悩んだ末に、のるんは口を開き、ゆっくりと話し始める。

 

 「成程……、人の死についてですの。その友人様がどなたかはまぁ、詮索しないでおきますが」

 「えぇ。ボクはその友達と、どう向き合うのが正解なんでしょう」


 のるんは、人の死についてフカに問う。酒に酔った教諭の話など大したことはないだろう。

 酔ったフカの意味のない戯言を聞き、満足させて上機嫌な間に、フカを帰せば良い。

 のるんの目的は豆と、この場を穏便に去るだけ。その事しか考えていない。

 グラスに注がれているアルコールをぐいっと飲んだフカは、優しい表情でこちらを見る。

 

 「結論、貴方は向き合わなくても良いですわ。向き合うのは本人だけで結構ですのよ」

 「え」


 フカから伝えられた言葉は、予想もしていないものだった。向き合う必要は無い。

 言葉の意味が理解できなかったノルンは、どういう事ですか、と言葉の真意を問う。


 「確かに、御友人は深い絶望に叩き落とされたことでしょうね。さぞ、辛いことでしょう。ですけれど、それをただ友人というだけで、一緒に背負おうだなんて考えは、傲慢でしかありませんの」

 「で、でも。折角、お友達なんだから……なにかしてあげた方が良いかなって」


 のるんは、条件反射で反論した。だが、のるんが発した言葉尻を、フカは見逃さなかった。

 ネメシスにお代わりをオーダーし、吐く息は酒臭い彼女は、クスクスと笑う。


 「ほら、貴方の言葉にも、隠れた本音が出ているじゃありませんの。「してあげた」だなんて、まるで貴方が施す側に立っているような言い方ですわよ?恐らく、結代さんも悪意があってそう言った訳じゃないでしょうけど、端から見れば、他人を使ったマスターベーションにしか見えませんわ」

 「…………」


 酒を煽り、満足げな表情をするフカに返す言葉もなかった。

 反論できない自分に悔しさを覚えながら、俯いていると、フカは酒のお代わりをオーダーする。


 「良いです事?己の「正義」や考えを、押し通すことは結構ですが、他者にとって貴方の考える「正義」が「正義」では無いということを、念頭に置いて行動するべきですわ。己の正義を他人に振りかざすのは、「英雄(ヒーロー)」ではなく、「悪役(ヴィラン)」ですの。人の為、と言いながら行動したからといって、それが正しい行動ではない可能性だってあるんですのよ?」

 「それでも……、その人の為に動くことは間違っていると、そういう事ですか……?」


 のるんの弱々しい言葉に、フカは「当然ですの」と言ってのける。


 「そうですわね、例えばですけれど。ナルコレプシーの方に、「授業中だから寝ちゃいけないよ」と、善意で毎回起こす生徒がいるとしましょう。確かに行いや道理は間違っていませんわ。ですけれど、その方にとってはどうすることも出来ない事案に対して、苦言を呈されている事になる。それは果たして、相手のためになると思います?」

 「……んーん、ならないです。でもそれは、ナルコレプシーだと知らなかった上で、その人の為を思って……」


 そこでのるんは気づいた。前提条件があると、話が変わってくるのだ。

 自分が知らなかった、なんて言い訳は、言われた本人には通用しない。

 寝たい訳じゃないのに、眠ってしまう。そんな事を健常者に突かれては、イラッとしてしまうだろう。

 起こした生徒は正しい事をしたのに、起こす事は決して正しくない。解けない矛盾が生じる。


 「じゃあ、ボクのケースは……」


 のるんの言葉に、フカはゆっくりと頷く。この間にも、酒のグラスは空になっている。


 「えぇ。貴方は前提条件を知っている。其の上で、相手が望むことをするべきですわ。それが本当の優しさなんですの。まぁ、出来ることはありませんし、ただ傍に居ると言うのが、大体の場合、正解でしょうけどね。わたくしならそういたしますわ」

 「そっか……分かりました。猫鮫先生、ありがとうございます」


 のるんは、椅子に座ったまま、フカに頭を下げる。

 普段は尻尾をビタンビタンしているだけのアホ教師だと思っていたが、伊達に長く生きていない。

 すっかり冷めてしまったゲイシャを一気に飲み干し、ネメシスから豆を受け取る。

 ご馳走様でした、と誰にいうでもなく、小さな言葉で呟くと、のるんは立ち上がる。

 

 「ネメシスさん」

 「ん?どうしたんだい?」


 下げたコーヒーカップを洗っているネメシスは、首をこちらに向けずに聞き返している。


 「この豆代、猫鮫先生にツケておいてください。珈琲、御馳走様でした」

 「は!?いや、それ1kgですわよね!?確かgで200円位しますわよね!?」


 のるんの言葉に、フカは徐に立ち上がり、目をひん剥いて驚いたような仕草を見せる。

 大人なら、2000円くらい奢ることくらい、造作もないだろう。

 この場で置きたことを忘れる代金としては、丁度良い数字だとのるんは判断した。

 ネメシスも、その事が理解したのか、くすりと笑い、びっくりしているフカを見ながら笑う。

 

 「ふふっ、了解だ。ゲイシャ一杯で800円だよ」

 「はい、これで。では猫鮫先生。失礼します」

 「は!?いやちょっと!?マスターも何見送ってるんですの!?」


 のるんは、レジカウンターにお金をおいてその場を後にする。

 未だに状況を理解していないフカは、追いかけようとしたが、酒の飲みすぎでふらついて、コケた。

 踏んだり蹴ったりという言葉が似合う彼女は、その場で崩れ落ち、お嬢様のように涙を流す。


 「うぅ……どぉじで……、どぉじでですのぉ……給料日まだですのよぉ……」

 「多分だけど、安い授業料だと思うよ。この場は、これで忘れるよっていう意味でね」


 後日、恨みを買ったのるんが、授業中に虐められるのはまた別のお話。


 



 「Result」

 

 ・猫鮫フカの好感度が上昇した。

 ・のるんは猫鮫フカと「知り合い」になった。

 ・猫鮫フカの関係値上昇により、???のフラグが発生しました。

 


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