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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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43/53

#42 時には


 

 カレンダーを確認すると、今日は5月6日……楽しかったGWも今日が最終日だ。

 この三日は、朱雀と救助活動を一緒にしたり、さなと家でダラダラしたり、セトと喫茶店でとめどない話をしたりしていた。

 夜の時間帯は買った本を読んだり、畑に作物を植えたり、買ってみたゲイシャを淹れてみたり。

 一人の時間も、誰かとの時間もそれなりに有意義なものだった。此処まで楽しいGWは初めてかも知れない。

 毎朝食べるトーストにいちごジャムを塗り、のるんは物思いに耽る。


 「でも、今日が最後かぁ〜。明日からまた学校に行く日々、それに「ヘルヘイム」の探索も続けなきゃ。やること一杯でちょっぴり充実してるのかもなぁ」


 サクサクのトーストをゲイシャで流し込み、今日は何をしようかと考える。

 GW最後の今日は、誰とも約束をしていない。つまり、一日フリーなのだ。

 まだ行けていない場所や、一人で行ってみたい場所。そんな所に行ってみようかと思っていた。

 暫くの間考えた後、のるんはフルールにあるゲームセンター「ないふはぁと」に向かうことにした。

 


 ______________


 星失市──「フルール」内、ゲームセンター「ないふはぁと」


 星失に唯一あるゲームセンター。普段は閑散として、機械音が鳴り響いているのだが、今日は違った。

 GW最終日というのもあってか、今日はそれなりに人が多い。家族連れやカップルまで居る。


 (暇なのかなぁ、皆。折角の最終日にわざわざゲームセンターなんて来る?普通)


 人のことを棚に上げ、のるんは唇を尖らせながら、混雑しているフロアを歩く。

 人が少ないだろうと見込んできたのだが、予想は大きく外してしまった。

 いつも使用している「太鼓の玄人」や、「カニカニパニック」にも待機列が産まれている始末だ。

 空いている機体は何か無いかなと「ないふはぁと」内を散策していると、見覚えのある姿が見えた。


 (ん……あれは……?)

 

 何かを探しているのか、不安げな表情で辺りをキョロキョロと見回している三月だった。

 何となく気になったのるんは、三月の肩をちょんっと叩いて声を掛けた。

 

 「どうかしたの?悲しそうな表情しちゃって」

 「ひひゃあ!?……ってのるのるか……。マジびっくりしたし……。てか、マジ奇遇だし」


 肩を震わせ、可愛らしい声を上げ振り返った三月は、のるんの顔を見ると心底安心した表情を見せる。

 安心した表情も束の間、すぐに何かを察知したのか、三月は何も言わずにのるんの腕を引く。


 「ん?なになに、どしたのって、わっ」

 「何も聞かずに、あてぃしに着いてくるし。これはマジ急ぎだし」 


 入って五分で「ないふはぁと」を退店したのるんは、三月に手を引かれるまま、フルールのフードコートへと移動する。

 フードコート内は最後の祝日の日だからか、平日の放課後とは比較にならない程、人が居る。

 満席とまでは行かないが、のるん達が座った両隣の席は、既に埋まっている。

 額に汗をにじませている三月は、警戒心を顕にしながら、未だに周囲をキョロキョロと見ている。

 どういう状況か理解できていないのるんは、怪訝な表情で三月に小声で尋ねる。

 

 「それで?状況が何も理解できないんだけど、何かあったの?」

 「今日は開店直後から「ないふはぁと」に居たんだけど、視線をびんびんに感じるし。どの機体で遊んでても、ねちっこい視線を感じてマジキモい。だから、こうしてのるのると一緒にいたら大丈夫かなって思ったんだけど……、まだ感じるしマジ無理だし」


 三月は心底不快そうな表情で肩を擦っている。

 のるんは三月と一緒にいてそういった視線を感じないのだが、そういうのに敏感なのだろうか。

 時折、周囲を確認しているが、尾行されている様子もない。

 ナンパ目当てなら、自分がいれば他を当たるだろうし、何か用事があるのであれば、きっと接触してくる筈。


 (でも三月が嘘言っているようにも見えないけどなぁ……どうしようかな。……あ)


 良いことを思いついたのるんは、三月の肩を指で叩き、耳をこちらに貸すように指で合図する。

 意味を理解できた三月は、首をカクリと縦に振ると、こちらに耳を近づけてくれる。


 「良かったら、ボクの家においで。そうしたら、暫くの間は安全でしょ?」

 「な、ななななな、ななな、家!?お友達の家デビュー!?のるのるマジたらしだし、やべーし!」


 明らかにキョドって大声を上げたせいで、周囲の人からの視線が一気にこちらに集中する。

 その事に気づいた三月は、顔を赤らめ、恥ずかしそうに縮こまりながら席に座る。

 いたたまれなくなったのか、三月は早く行こ?とのるんの足を何度か蹴っている。


 「はいはい、分かった分かった……。そんな遠くないから、行こっか」

 「うん……、まじそーりーだし……」


 三月の手を引きながら、のるんはその場を後にする。



 ________________


 星失市──「のるんの家」


 朱雀や、さなのお陰でかなり片付いた喫茶店の残骸は、すっかり住み慣れた家になっていた。

 珈琲の匂いが室内に立ち込めており、レトロチックな室内は二人きりで居るには些かムーディらしい。

 三月は、興味津々げに一階部分をキョロキョロと見回しているが、何となく気恥ずかしい。


 「適当な席に座って。今は三月しか居ないんだし」

 「なななっ!誘ってるし!?あてぃしをお持ち帰りしたと思ったら大間違いだし!?」


 のるんは、えぇ……と呆れたような声を出しながら冷蔵庫から麦茶を出し、三月の前に置く。

 珈琲を淹れても良かったのだが、なんとなく三月は飲めなそうな気がしたから、お茶にした。

 冷えた麦茶をぐいっと飲んだ三月は、幸せそうな顔をしながら、深いため息を吐く。


 「今日はめちゃくちゃ迷惑かけたし……まじそーりーだし……」

 「別にいいよ。友達でしょ?でも、気になるんだけど、ストーカー?される心当たりとかあるの?」


 確か三月は、父親が殺されて以来、学校には行っていないと聞いている。

 一月も経てば、ある程度は注目の的では無くなる筈だが、まだ執着する人もいるのだろうか。


 「ん〜。無いことは無い、かな?未だにあてぃしは、来栖零士の娘って目で見られるし」

 「でも、それと今回は関係無い、んだよね?」


 三月は曖昧な表情で微笑みながら、カウンターに立て肘を突いた。

 普段の脳天気な笑顔とは違って、影があって、含みのある表情に、のるんはドキッとさせられる。

 

 「分かんない。お店には良く「来栖零士の娘は今!」みたいな名目で取材したいとかって凸ってくる奴も居るけど、「ないふはぁと」にまでは来なかったんだよね。だから、少し気が滅入っちゃってたのかも?」

 「そっか……。それは辛いね、そんな生活続けてたら、心身共に参っちゃいそう」


 のるんは沸騰したやかんから、ウォーマーで温めていたドリップポットにお湯を移し、ミルで豆を砕く。

 豆を挽いた直後に漂う甘い果実のような匂いが、ゲイシャを淹れるメリットの一つだ。

 三月をちらりと見ると、物凄く悔しそうな顔で俯いている。それもそうだろう。

 自分が唯一、安全だと思っていた居場所が害されたのだ。その絶望感は計り知れないだろう。


 「そう、だね。「ホムンクルス」にも、「ないふはぁと」にも居場所がないとなると、あてぃしは何処に行けば良いんだろうね。もういっそ、このまま死んだ方がいいかな?ね、どう思う?」


 今にも泣き出しそうな三月の瞳には、深い絶望が湛えられている。

 昔の自分であれば、曖昧な返事しか出来なかったが、のるんは勇気を振り絞って、三月の方を見る。


 「三月さえ良ければ、何時でもおいで。キミのために、この店を開けてあげるから」

 「ぇ……、良いの?」

 

 のるんはニッコリと笑って、首を縦に振る。


 「勿論、事前予約制だよ?ボクだって、夜は大体いるけど、昼間は出掛けてる時もあるし」

 「確かに……、のるのる、あんまり「ないふはぁと」にも来ないしね……」


 そんな毎日通う場所でも無くないか、とは絶対に口が裂けても言えない。

 彼女にとって、居場所とは、毎日行く心のオアシスなのだろう。


 「あはは、まだ引っ越してきたばっかりだから、色んな所に行ってみたくてさ」

 「ま〜?あてぃしも「ホムンクルス」が落ち着きさえすれば……、落ち着くんかなぁ」


 情緒がジェットコースターになりつつある三月を横目に、砕いた豆をペーパーフィルターに淹れ、お湯を注ぎ、蒸らしの時間を取る。

 人間の情緒に波があるように、珈琲の表面に注ぐべき湯量も、気温などで変わってくる。

 豆の機嫌を伺いながら、適切な湯量と配分を考えて淹れる。簡単に見えて、奥が深いのだ。

 お湯を注ぎ、やがて抽出が終わると、部屋の中に果実のような甘さを感じさせる匂いが漂う。

 匂いにつられて、鬱屈としていた三月が、興味津々といった様子で、カウンターの奥を覗いている。


 「この匂い、なんか他の珈琲と違うし。てか、のるのる。珈琲淹れれたんだ?」

 「こっちに引っ越してきたから、ちょっと練習中。三月も飲む?」


 淹れ終えたゲイシャをカップに注いで、三月の前に置き、のるんはもう一度豆をミルで砕く。

 綺麗なコーヒーカップに並々と注がれたゲイシャに、三月は目を輝かせる。


 「あてぃし、ブラックは無理だけど、ミルクとお砂糖たっぷり淹れて飲むし!」

 「一口だけそのままで味わってみて。きっと、そのままでも飲めるよ」


 のるんの言葉に、三月は頬を膨らませていたが、ちょびっとだけ口に含むと、目を丸くさせる。


 「……これなら行けるかも。これ、めっちゃ美味しいし」

 「そかそか、良かった。あ、そうだ。前におすすめしてもらった「嘘憑き天使シリーズ」さ……」


 美味しそうに珈琲を飲む三月を、満面の笑みで眺めながら、自分もゲイシャに口を付ける。

 果実のような甘みに、何処か奥深いキャラメルのようなほろ苦さが口の中で調和している。

 人によっては、紅茶に近いと言わせるだけあって、珈琲の好まれない部分が全く無い。

 珈琲が苦手な人に、是非飲んでもらいたい逸品だ。まぁ、のるんが好きなだけなのだが。


 「うんうん、そこであの子がさ〜?」

 「あ、ちょっと!まだそこまで読んでないかも!」

 

 その後も、日が暮れるまで、三月と暫くの間一緒に過ごしていた。



 ____________

 

 「Result」

 

 ・三月の好感度が大幅に上昇した。

 ・のるんは三月と「友人」になった。

 ・来栖三月の関係値上昇により、???のフラグが発生しました。


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