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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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#38 本とは、識る為の手段


 GWをどう過ごそうかと考えていたら、あっという間に放課後になっていた。

 さなや朱雀は、各々で予定があるとのことで、今日は久々の単独行動日になりそうだ。

 

 「うーん、何処に行こうかな。朝に考えてた本屋はマストとして……」


 他に何処に行けば、選択肢の幅が広がるだろうか。よくよく考えたら、フルール位しか知らないのだ。

 この二週間は、勉強と「ヘルヘイム」、畑いじりなどをしていたので、何処かに出掛けることはあまりしていなかった。

 折角の機会だ、少し遠出して星骸市での散策も、ありかも知れない。


 (一旦本屋に行って、ガイドブックでも買ってみようかな……)


 お金の面は、「ヘルヘイム」で得た残滓を「BlackSmith.Rpas.」で買取して貰えれば、問題無い。

 探索に必要な「戯装」の拡張パーツにもお金は掛かるが、それでも多少の余裕はある。

 Rpas.の店主である茶々丸も、それなりの値段で残滓を買い取ってくれているが、モデル業でどれだけ稼いでいるのだろうか。

 同じ高校生とは思えないくらい、金銭感覚が自分とは掛け離れている気がする。

 羨ましさを覚えつつも、彼女ほどのプロポーションやセンスもないのるんは、ため息を吐き、星失市の商店街にある本屋に赴く事にした。


 「…………」


 何処からか、こちらを見ているような視線に、のるんは気づくことなく学校を後にした。


 ──本屋「ホムンクルス」

 

 何処にでもあるような個人経営の本屋だが、最新の本も入荷しているようだ。

 外から見る感じだと、閑散としているが、最近の人は紙の本を読まないのだろうか。


 (まぁでも、電子書籍でいいって言われたら、何も反論は出来ないもんなぁ)


 のるん自身はどちらでも良いと思うタイプだ。本を持ち歩かないし、外で読む機会も早々ない。

 家で落ち着いて、珈琲を飲みながら読むのであれば、紙の方が格好良い気がする。

 紙の本を買う理由なんて、その程度のものだ。言ってしまえば、高二病が原因でもある。


 「取り敢えず、入ってみるかぁ」

 「…………」

 

 少し重い扉を開くと、古い紙とインクの匂い、少しカビたような匂いが鼻腔をくすぐる。

 以前にも一度、来たことはあったが、何度来ても、この匂いはここでしか味わえない。

 古本屋特有の匂いに、のるんは少しだけ面食らったが、沢山の本が置いてあり、興味が唆られる。

 慣れない場所に少し興奮しながら、辺りを見回していると、奥から人が出てきた。


 「しゃっせー……って、あれ〜?もしかして、のるのる〜?」

 「んん?あれ、なんで此処に三月が?」


 エプロン姿で、やる気のない声色で出迎えてきたのは、以前にゲーセンで会った来栖三月(くるすみつき)だった。

 ネイルもメイクもゴッテゴテの彼女が本屋で働いているのが、少しだけ面白いと思いながら、のるんは目を丸くさせる。


 「あてぃし、此処の店の看板娘だし。てか、前の本は読み切ったし?」

 「あ〜「ねむねむにゃんこ物語」と、「天に召されよ戦乙女」だよね?勿論、読み切ったよ!」


 雨の日は読書が捗るので、もっぱら読書に努めていた時期があった。

 主人公の「ねむにゃん」が勇者の剣を引っこ抜いたが為に魔王を倒す旅に出るハートフルストーリーの   

 「ねむねむにゃんこ物語」や、死に行く女戦士「ヴィマール」が、弟子に自分が培った技術を全て伝えて、死んでからも弟子の勇姿を見守る「天に召されよ戦乙女」も、とてもおもしろいと感じたのだ。

 面白い本は、いくら読んでも楽しいものだ。他にもいい作品があるのなら、読んでみたいと思っている。

 のるんが、長々と感想を伝えると、三月も嬉しそうに、無い胸を張っている。

 

 「そこまで褒めてもらえると、悪い気はしないし!他にも良いのはあるけど、今日は何しに来たし?」


 三月は、上ずった声でのるんに尋ねると、のるんは少しだけ悩みながら、答える。


 「実は、GWに出掛ける場所を調べるためにガイドブックみたいなのがあればいいなぁって……」

 「ほ〜?この辺で言うと、星失(せいしつ)星骸(せいがい)辺り?」


 のるんは首を縦に振ると、三月は考え込む仕草をしながら、目当ての本がありそうな場所へ向かう。

 これ〜?、それともこれ?と本を探している三月を見ると、ギャップのせいか、嬉しくなる。

 

 「うん、最初は近場あたりで探そうかなって」

 「ほぉん?でもそれなら、友達に穴場スポットとか聞いた方が良い気がしたんだけど、違う?」


 強烈な右ストレートを顔面に食らった気がして、のるんは、その場で崩れ落ちてしまう。

 まさか、友達居ない同盟の三月に言われるとは、思っても見なかった。

 いきなりその場で崩れ落ちたのるんを見て、三月は目をひん剥いて、駆け寄る。


 「のるのる!?どしたし!?なにがあったし!?」

 「友達の三月に聞くけど……、三月の思う穴場スポットは何処なの……」


 身体が痙攣し、弱りきった様子ののるんが、そう尋ねると、何故か三月も、徐ろに泡を吹いて倒れる。

 綺麗な顔のまま、三月はのるんの隣に倒れ込み、水揚げされた魚のように跳ねている。


 「あ、あてぃしに聞くなし……、あてぃしは所詮、孤独な陰キャでコミュ障だし……」

 「じゃあ友達に聞けばなんて言わないでよ……、ボク達、友達でしょ……?」

 

 何とか起き上がったのるんは、三月を起こし、本を探してきて貰う。

 その最中に色々話を聞いていると、どうやらかつて、来栖零士は此処の店主だったらしい。

 父である零士が亡くなってからは、放課後は母の代わりに、店に立っているとの事だ。

 

 (じゃあ休みの日はゲーセンに入り浸ってるって事ね……。そりゃあ他の場所も知らないか)


 不審死した男が経営していた店だからか、店の中は閑散としている。

 昨今のデジタル化の影響も大きいのだろうが、この店がなくなってしまうのは少し惜しい。

 定期的に新作は買ってみようかな、とのるんは思いながら、三月から数冊の本を手渡される。


 「ほい、星失、星骸のデートスポット本と、個人的にお勧めな本、見繕っといた」

 「ありがとっ、どれどれ……?」


 三月から渡されたのは、二冊はガイドブックで、下二冊は見慣れない本だ。

 表紙には「嘘憑き天使、今日も黄昏れる」と「メンヘラ女子の生き様」と書かれている。

 どういうチョイス……?と訝しげな表情で三月を見ると、三月はギャルピースし、笑っている。


 「どっちもシリーズものだから、もし面白いと思ったら、次の奴も紹介するし」


 裏表紙を見ると、「嘘憑き天使」シリーズは、嘘をつくとその嘘が現実になるという能力を持った天使が、下界に降りて様々な問題に直面し、仲間とともに解決する作品らしい。

 なんとなくだが、読めば読むほど、知識や、想像力が高まりそうだ。

 対する「メンヘラ女子」シリーズは、なかなか靡いてくれない気になる男の子の気を引くために、試行錯誤しながら誘惑しようとするも、内気な性格が邪魔して、結局上手く行かない主人公が努力していく作品、らしい。

 こちらの作品は、読了すれば、魅力や寛容さが高まりそうだ。


 (雨の日だったり、時間がある時に読んでみようかな。折角おすすめしてくれたし)


 商魂逞しいなぁ、とは思うが、多少は売上に貢献したいと思ったのるんは、四冊を購入し、帰路につく。

 のるんが店を出てから少ししてから、再度「ホムンクルス」の扉を開くものが居た。

 店に入るや否や、辺りを見回し、人が居ないのを確認すると、大きく深呼吸をする。


 「こんばんは、まだ空いているかしら」

 「しゃっせ〜、大丈夫っすよ〜。ごゆっくりどうぞ〜」


 三月は、見慣れない顔だなぁ、と思いながらもお客さんを眺めながら、店の掃除をする。

 客がいる時は、基本的にバックヤードには戻れない。本を盗まれても困るのだ。

 客は、色々と本を物色しながら、目当てのものが見つからなかったのか、店員の方を見る。


 「ねえ、さっきの人が買っていった本って、どれになるのかしら?通りがかった時に見えたのだけれど、表紙が珍しくて、気になったの」

 「あぁね?そういう事なら、紹介するし。てっきり、さっきのお客さんのストーカーだと思ったし」


 三月の言葉に、メガネを掛けた根暗そうな白髮の女性は、クスクスと笑う。


 「酷いことを言うのねぇ。そんな訳無いでしょう?知らない人に執着する程、暇じゃないのよ」

 「ふぅん?なら良いけど。さっきのお客さんが買ったのはこれだし」


 三月は、四冊の本を白髮の女性に手渡すと、「買うし?」と尋ねる。

 白髮の女性は、表紙と裏表紙を簡単に見ると、首を縦に振る。


 「えぇ、わたしも気になるし。全部頂くわ。星失も星骸も、詳しくは知らないし」

 「へ〜。お客さんは、この街に来たばかり?」


 何でも無い世間話だ。三月もただただ会話の流れで、聞いただけに過ぎない。

 ただ、白髮の女性にとっては、そうでもなかったようだ。悩ましい表情で、口籠っている。

 暫くした後に、どう伝えるべきか悩んだ白髮の女性は、ゆっくりと言葉を紡いだ。


 「いつから此処にいるんでしょうね、()()()物心ついた時から、居たんじゃないかしら」

 「ま〜。なら尚更、そういう情報には疎いかもねえ。毎度ありぃ」 


 お客が帰った後に、一人になったのを確認すると、三月はふぅぅと大きく息を吐く。


 「何の目的で、のるのるに近づいているんだろ?さっきの人。あんな見え見えの嘘ついちゃって」

 




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