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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第三章「部活、新たな出会い」
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#37 迷った末に


 

 凪織救出成功したその晩、のるんは食事と風呂を済ませてテレビを見ていると、スマホが鳴る。

 ウトウトしていたせいか、着信音に身体を震わせ、スマホを手に取ると、凪織の文字が表示されている。


 「なんだろう……?でも、出ない訳にも行かないか」


 のるんは、眠い目を擦って、応答ボタンを押し、スマホを耳に当てる。


 『もしもし?』

 『あっ、こんばんはっ!すみません、こんな夜分遅くに。今大丈夫デス?』


 大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫ではないが、出てしまった以上は仕方ない。

 声だけは元気いっぱいという様子を演じながら、少しだけ声を高めにして答える。


 『ボクは大丈夫、そういう那雲さんこそ、大丈夫?疲れてないの?』

 『こう見えて、それなりにタフですからね!身体の丈夫さだけが自慢みたいなもんデスし……』


 声色も随分と明るいものだ。先程まで死ぬ寸前だったとはとても思えない。

 凪織の言うように、体力や精神面などは相当タフなのだろう。見習いたいくらいだ。


 『それで?どうかしたの?電話なんて、珍しいじゃん』

 『いやぁ……、メッセージでも良かったんですケド。感謝の言葉は声で届けようかと……へへ』


 その気持ちがあるのなら、学校で言えば良いのでは?という言葉はぐっと堪える。

 今の彼女に正論を言っても、なぁん……と返ってくるだけだ。

 長くなりそうな予感がしたのるんは、渋々お湯を沸かし、珈琲を淹れる準備をする。

 ハンズフリーモードに切り替え、インスタントコーヒーの粉を棚から取り出す。


 『別にそんなの気にしなくて良いのに。……そう言えば、これからどうするの?』

 『どう、とは?』

 

 のるんの言葉に、凪織の声色は少しだけ不安や、疑惑の色が混ざる。

 

 『「戯装」を手にしちゃった以上、生徒会としての活動がこれから多くなると思うけど、これからも生徒会として活動をしていくの?』

 『あぁ……。その点ですが、漆原さんと色々相談しまして。クビにされない限りは、二人とも生徒会に所属しておこうかなと』


 ヤタノの主導とは言え、その判断は意外なものだった。

 自分を助けなかった生徒会に、それでも所属しておくメリットでもあるのだろうか。

 理由は聞いても、きっと答えてくれないだろう。聞かない方が良いことだってある。

 

 『そっかそっか、ボクはどうしようかなぁ。誘われてはいるけど……』


 のるんも、生徒会の庶務として声は掛けられている。

 定期的に鈴や、りあとも関わりを持っているが、どうにも二人に対し、苦手意識が芽生えてしまっている。

 そんな中での、凪織の一件だ。見捨てる理由も正直、理解出来てしまっている。

 きっと、誘った理由も大方見当がついている。旧家の人間だからか、始末したかったからだろう。


 『正直、のるんさんが悩んでいるのであれば、オススメはしないのです。生徒会の目的も、良く分かってませんし。ボクらが情報を持って返ってくるので、のるんさんは、姫宮さんの方をお願いしたいのです』

 『お願いって?』


 凪織の言葉に、のるんは、意味も分からずに鸚鵡返しする。


 『残念ながら、現段階では姫宮さんが、この学校で何をしたかが分かりません。漆原さんがある程度は内部を探る予定ではありますが、警戒度は今回の一件で、相当引き上げられているハズ……』

 『確かに、漆原さんも「ヘルヘイム」に侵入してたのがバレてるなら、かなり情報収集するの難しそうだね……。あれ?じゃあ、那雲さんが残る理由って……?』


 暫くの間、二人の間に沈黙が流れ、少ししてから、凪織の深呼吸する声が聞こえてくる。


 『特に無いんデスよね……。ボクも多少は、戦力にはなるでしょうけど……なんだかんだ、「ヘルヘイム」に侵入して戦闘になるってことがあんまりなさそうですし』

 『うーん、那雲さんは戦える力を磨きたいの?』


 『折角手にしたのなら、強くなりたいデス。数少ないお役に立てる物……、ですし。わふぅ』

 『なら、空いた時にボクと一緒に「ヘルヘイム」に行こっか。ボクはあの世界の事、気になるし』


 実際問題、平穏な生活を過ごすためには、あの世界のことを知っておく必要がある。

 さなや、朱雀。他の友人達を巻き込む訳には行かない。護るためにも、強くなっておきたい。

 

 (力がなきゃ、誰も護れない……か。誰の言葉なんだろう)


 誰かから聞いた覚えはないが、頭に残っているワンフレーズ。

 この記憶が自分の物なのか、姫宮のるんの物なのか、今となってはもう分からない。

 時折、こうやって身に覚えのない記憶に、自分が否定されているような感覚に陥っている。

 

 (まだ此処に来て二週間なんだけどなぁ)


 寂れた片田舎で、なんでもない一年を過ごす筈が、どうしてこうなったのだろうか。

 未だに、如月先生を名乗る身元保証人にも会えていないし、分からないことが多すぎる。


 『そう、デスね。きっとあの世界を悪用している人だって居る筈なんです。「カレンデュラ」を名乗る女性がボクのことを観察してたし……』

 『「カレンデュラ」……あぁ、あの人ね……。確かに気になるかも』


 「カレンデュラ」、かつての記憶では頼りがいのある仲間だったが、どうやら今はそうでもないらしい。

 黒い和服に身を包んでおり、目元に傷がある銀髪の女性。どうみても、彼女だろう。

 彼女が「ヘルヘイム」を知っている理由や、あの世界で何をしようとしているのか。

 その辺りも、詳しく調べておく必要がありそうだ。調べる手段を調べるところからだが。

 

 『もしかしたら、零明の生徒かも知れないので、出会しても逃げて下さいね?戦闘能力も未知数デスから……なぁん』

 『そうだね、ボクらは素性を隠さずに行ってたから、その点でも注意しないと』


 その後も、凪織と世間話を交えながら、夜が更けるまで会話をしていた。

 眠気に抗えなくなった頃に、電話を切る際に、寂しげに「なぁん……」という鳴き声が聞こえた。

 




 __________________


 

 その後は、特に何かが起きることもなく、四月の最終週になった。

 カレンダーを見ると、今日はどうやら4/28の火曜だ。明日からGWが始まる。

 すっかり慣れた手つきで、トーストを焼いているとテレビからニュースが聞こえてくる。


 『今週から始まるGWは、前半は雨が降る日もありますが、大半は晴れるでしょう』


 いちごジャムを塗りたくったトーストを食べながら、のるんはカレンダーをちらりと見る。

 明日からGWらしい。凪織の一件から、特に事件という事件は起きていない。

 「カレンデュラ」の姿もなく、定期的にヤタノや凪織と「ヘルヘイム」に侵入しながら、過ごしていた。

 

 「GWなぁ、特に予定もないけど、なにしようかなぁ」

 「じゃあわたしと出掛けようよ。最近遊べてなかったし」


 後ろから、さなが抱きつきながら、一緒にニュースを見ているが、もはや驚かない。

 平日で朝活がない時は、大体こうやって一緒にご飯を食べて通学をしている。


 (時々思うけど、別に付き合ってはないんだよね……?誰にでもそうなのかな)


 少しだけドキドキはしているが、あまり気にしないようにしておく。

 恋に恋する年頃ではあるが、そう簡単に恋人など作りたくはない。

 背中に柔らかい感覚が伝わっているが、懸命に意識を逸らしながら、言葉を続ける。


 「そうだね〜。何処か行きたい所はある?」

 「キミと一緒ならどこでも良いよ〜!身体動かすのもありだし、映画館とかも良いなぁ」


 そんな笑顔でこっちを見ないで欲しい。勘違いする男の子は沢山居そうだ。

 幼気な男子高校生であれば、きっとすぐにでも恋に落ちるだろう。


 (出掛ける場所かぁ、今日中にリサーチしておこうかな……)


 今日の帰りにでも、星失市と星骸市のガイドブックでも買いに行こうか。

 最近行けていないので、気になる本が多いかも知れない。 




 

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