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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
32/34

#31 「衛兵」


 

 階段を登り、四階に辿り着いても、なしろの顔色は悪いままだ。

 「カレンデュラ」を名乗る女性に心当たりはある。この世界ではあっていないものの、見知った仲だ。

 夢の中の彼女は、正義感に燃え、あの「姫宮のるん」とは対象的な人物だった。


 (ここまで逆転しているのは、姫宮さんと彼女くらいなものだけど……)


 城内の景色は変わらない。徐々に上に登っている感覚はあるものの、未だに凪織の姿は見当たらない。

 それでも、陽気なままのヤタノは、のるんにべったりくっついたまま、表情をころころと変える。


 「にしても……、「カレンデュラ」さん?っていう人が生徒会でも無いってなると、何者なのかなぁ?」

 「分からない……。でも、姫宮さんとは知り合いだったみたいだけどね」


 今は聞ける状況じゃない。それに、なしろを戦力としてカウント出来るかどうかすら怪しい。

 戦意は喪失していないだろうか。この先、なしろの力が必要な敵だって、現れるかも知れない。


 (なんらかの対策……いや、でも)


 こういう時に、知識があれば、色んな考えが浮かんだのかも知れない。

 勉強は苦手だが、本などを読んだり、勉強をしておくことで、機転が利いた事を言えたりするのだろう。

 愚直なことしか考えつかないのるんは、何も言わずに、城内を練り歩く。

 道中の衛兵型の「エゴ」は、のるんとヤタノの二人で苦労すること無く、片付けている。

 相変わらず、ヤタノは「ビリビリショック!」と「超ビリビリショック!」を多用しているのだが、どうやら他にも電撃属性で何か出来ないかと、模索している様子が伺える。


 (戦闘の中で、色々閃いて戦うタイプなのは、凄いよね。ボクはとても出来ない)

 

 のるんは、どちらかと言われると、平時に思案しながら、実践で色々実験するタイプだ。

 そもそも、戦闘中と言った緊張する状況下で、そんな事を考えている余裕はない。

 だから、のるんもヤタノに倣い、今のうちに、幾つかの詠唱術に技名を付けておいた。


 対象を凍らせ、行動制限を掛ける──「凍結術式(フリーズ)

 氷を液体に変換し、特定の位置に流し込む──「液体術式(リキッド)

 氷を氷柱状に形成し、相手へと射出する──「氷柱術式(アイシクル)

 水蒸気を発生させ、他属性と組み合わせて効果を発揮させる──「蒸気術式(スチーム)


 ヤタノの様な名称ではなく、自分でもある程度は認識しやすいことを心掛けて、名付けた。

 なしろやヤタノは、分かりやすいなぁと言った反応だが、それが技名のメリットなのだ。

 他にも色々あるが、書き出していたらキリがない。技名を付けるということは、それだけ使用頻度が高いということになる。

 ある程度の基礎を培った上で、応用する。その力が詠唱術には必須である。


 例えば、

 「氷柱術式」の術式を多重に展開させ、空から氷柱が降り注ぐ──「氷柱槍(アイシクル・ランス)


 こういった応用にまで、一々言及していたら、本当にそれだけで大幅に時間を取ってしまう。

 肝心なのは、氷結属性は「液体()」・「気体(水蒸気)」・「固体()」の三形態を上手く扱うことである。


 (頭使うなぁ……。でも、あったほうが良いもんなぁ……)


 うんうん唸りながら、のるんはなしろ先導の元、先に進む。

 時に宝物庫を漁り、時に客室のタンスを開けながら、中身を色々と物色する。

 他にも、「エゴ」の残滓が「戯装」改良の素材になることを思い出しながら、地図を確認する。


 「もう少しで、凪織が居る可能性の高いエリアに到着するけど……、姫宮さん、大丈夫?」

 「えぇ、問題ないわ。あの程度のアクシデント、なんてことないもの」


 気丈に振る舞ってはいるが、表情や態度はそうは言っていない。

 此処まで戦力を一番温存していたのは、なしろだ。此処からの戦いに一番重要になる。

 それに、呪詛属性や疾風属性の詠唱術や、なしろの戦闘スタンスは、口頭で聞いた程度の知識。


 (ボクが……陣頭指揮、取れるのかな)


 はっきり言って、物凄く不安だ。此処でなんとかなる、と言えるほどの度胸もまだ無い。

 四階の探索もある程度完了し、五階への階段へと差し掛かろうとした矢先だった。

 何処からか、重厚な足音が響いてくる。どうやら、階段の上から降りてくる音だ。

 他の衛兵が、銀の甲冑を身に纏っているのに対し、現れた衛兵は、金の鎧を着込み、馬に乗っている。


 (うわ、所謂デュラハン……?って奴なのかな。凪織らしいっちゃ、らしいや)

 

 馬は馬で、首の先がない。黒い煙が変わりになっているのだろうが、明らかに普通じゃない。

 衛兵の手には、他の衛兵と違い、巨大な両手剣を片手で握り締めている。


 「此処から先、何人たりとも通すこと能わず。賊が入っていい場所ではない」

 「賊扱いかぁ〜。ま、確かにぃ?わんこっていう一番大事なものを奪いに来たから、あってるか〜」


 ヤタノの言葉が、のるんに勇気を与える。金の衛兵が発する空気感を、跳ね除けてくれている。

 こういう時に、彼女の明るさや、楽観的な考えが身に沁みるのだ。


 「此処が踏ん張りどころね。わたしも戦うわ、結代さん、指示を頂戴」

 「んむ!ある程度は自分でなんとかするけど、細かい所は任せたっ!」


 のるん、なしろ、ヤタノの三人は「戯装」を展開し、金の衛兵に対峙する。

 衛兵の乗る首のない黒馬が(いなな)く。窓を震わせて、割ってしまう勢いだ。

 自分の身長よりも高い黒馬をまずは攻撃しなければならないが、相手の挙動が分からない以上、下手には動けない。


 (まずは普通に攻めて、相手の出方や動きを少しずつ掴んでいこう。弱点も分からないし)

 

 のるんは、詠唱術を準備しながら、ヤタノとなしろに指示を出す。

 使用するのは、水蒸気を発生させるモノ。なしろの弱体化の効果を増大させる目的だ。

 他にも、電撃とも相性がいい。湿度の高い場所では、水分に電撃が吸われるため、色々応用が効く。


 「漆原さんは、二丁拳銃で黒馬を攻撃、隙があれば、電撃が有効かの確認を!姫宮さんはそのサポートを!弱体化をメインで、呪詛、疾風が有効かの確認をして!」

 「「了解!(よ)」」


 のるんは、詠唱術で、広い廊下の中を普通の水蒸気で満たす。

 人間が嫌になるほどの湿度にまで上げると、ヤタノは衛兵付近の水蒸気に電撃をお見舞いする。

 水蒸気は、電撃属性を帯び、機雷のような役割を持つように変化した。

 これで、衛兵が動く度に、電撃を浴びる状況になった。こちらは、幸い、動かずとも攻撃が可能だ。

 精神力も、道中温存していたお陰で、十二分にある。ひとまずはこの戦術で様子を見る。


 「水蒸気を機雷に……、考えたわね。じゃあ……、黒馬の足を奪おうかしら」


 のるんの戦術に感心していたなしろも、「戯装」を巧みに扱い、詠唱術を発動する。

 禍々しい黒い手を複数本地面から出現させ、黒馬の足に絡みつく。

 拒絶反応を示した黒馬は、けたたましい鳴き声を上げながら、激しく暴れている。

 振り落とされまいと、衛兵は巧みに馬を操作しようとすると、それに伴って水蒸気機雷を受ける。


 「ヒヒ〜ン!」

 「ちっ、機動力を奪っているのか。小賢しいな、だが、その程度だ」

 

 衛兵は剣で周囲の電撃水蒸気を切り払い、黒馬に纏わりつく手を斬ろうと剣を足元へと向けている。

 動きが鈍っている間が好機だと判断したのるんは、二人に目配せし、攻勢に出る。

 

 「先に黒馬を無力化するよ!逃げられても困るし、先に倒す!」

 「小癪な……、賊如きが図に乗るなよ……!」


 のるんは、氷柱を生み出す詠唱術を展開し、黒馬の正面目掛けて射出し、ヤタノは「超!ビリビリショック!」を衛兵の頭上から浴びせている。

 威力を最大にまで引き上げているのか、ヤタノの電撃は、先程までとは、一線を画している。

 周囲の水蒸気が水となって、鎧や黒馬に付着しているせいで、威力に補正が掛かっている。

 

 「どーだ!ぼくのじーにあすな詠唱術は効くだろ〜!」

 「でも、まだ倒れてない。黒馬も結構ダメージは入ってそうだけど、嘶いてる」


 ぐるる……と弱々しくなってはいるが、黒馬は、未だに息があるようだ。

 首から先の黒い炎や煙も、大分弱々しいものになっている。


 (衛兵よりも先に削り切る!)


 のるんはありったけの精神力を込めて、衛兵周辺に降り注ぐ氷柱の雨を生み出す。

 何処に居ても避けれないように、威力も範囲も、今自分が出来る最大で生成し、射出する。

 頭上に降り注ぐ氷柱の雨の中で、ヤタノは鉛玉を黒馬に、なしろも呪詛属性で支援している。

 どうやら、疾風や、呪詛よりも氷結が特に効くらしい。氷柱を受ける度に、辛そうに嘶いている。

 やがて、氷柱を受け続けた黒馬は、膝から崩れ落ち、その場で倒れてしまう。


 「くっ……、デュラハン……。おのれ、賊の分際で、よくも俺の愛馬を殺してくれたな」


 慈しむように、愛馬を撫でている衛兵にも間髪入れずに、氷柱を飛ばす。

 衛兵には悪いと思うが、「エゴ」に容赦や情を掛ける余裕も時間もない。


 「邪魔だ。俺の鎧に氷轢なぞ、毛ほども痛くないわ」

 「そう。じゃあ、こんなのはどうかしら?」


 なしろは、詠唱術で自身の「戯装」に、轟々と音を立てている疾風を纏わせる。

 のるんは懐かしさを覚える自分に嫌悪感を覚ながら、なしろとヤタノの攻撃を見守る。


 (ボクが氷結以外に、何が使えるか……後で確認しなきゃ)


 なしろは詠唱術で一気に飛び上がり、衛兵の頭目掛けて「戯装」を振り下ろす。

 躱そうと身動ぎするも、足は既に黒い手が拘束し、逃げるに逃げられなかった衛兵は直撃を受ける。

 強烈な一撃を受けた衛兵は、その場で崩れ去り、体ごと朽ち果てて消えてしまった。


 「ふぅ……。ナイスアシストだったわ。結代さんも、漆原さんも随分と慣れてきたみたいね」

 「じーにあすですから!」

 

 のるんは、黙って頷いたが、じーにあすって何なんだろうか、と思いながら階段を登る。






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