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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
29/34

#28 「セ、センス無さすぎでは?」


 

 なしろが固まっていた先には、大きなお城が聳え立っていた。

 それも、西洋の煉瓦作りで出来た本格的なものだ。もう少し小さければ、ラブホテルだろう。

 零明高校から本当に徒歩数分圏内にあるそれは、何処からどう見ても、現実にはないものだ。

 恐る恐る、のるんはヤタノの肩を叩き、あそこには元々何があったのかを尋ねる。


 「ふぇ、……住宅街だったってのは憶えてるんだけどぉ、わんこの家じゃないんだよねぇ」

 「わたしもあんまり印象に残ってないわね。帰路なのだけれど、普通に一軒家があったはずよ」


 勿論、のるんの記憶には、あのお城がある場所に印象など残っていない。

 通学する際にも通らない場所であれば、尚更のことだ。

 のるんは、改めてまじまじとお城を眺める。周囲の建物との協調性を破壊してまで建てられている。


 (なんとなくだけど、らしくない……?気がする)


 のるんは、城の前でなしろ達と立っていると、中から誰かが出てくる。

 フルアーマープレートのこれまた中世に実在していそうな、騎士のような何かだ。

 右手には自身の身長よりも大きい槍斧を持っており、左手にはラウンドシールドを持っている。

 騎士らしい「何か」は、重々しい声で、城門の前に居たのるん達に告げる。

 

 「貴様ら、キャッスル・凪織に何の用だ?」

 「ただの通りすがりよ。前からこんな場所にお城なんてあったかしら?」


 飄々と嘘をつくなしろに、ヤタノとのるんは感心しながら背に隠れて、首を振って同意した。

 というか、キャッスル・凪織ってネーミングセンスどうなってるんだ、とのるんは内心思っている。

 騎士らしい「何か」は、首を傾げながらも、槍斧の柄を地面に叩き付けて威嚇する。


 「そんな事はどうでもいいだろう。用がなければ早々に去れ。門番の俺も、城内も多忙だからな」

 「多忙〜?なにかイベントごとでもするんですかぁ〜?」


 なしろの背中に隠れながらも、ニヤつき顔でヤタノが門番にそう尋ねると、門番は武器を構える。

 槍斧から放たれる金属の輝きが、人間の一人や二人を、簡単に突き殺せるのだと言わんばかりだ。


 「部外者には関係のない話だろう。これ以上、邪魔をするならお前達を排除するが?」

 「わわっ、すみません!すぐ立ち去りますから!!」


 命の危険を感じたのるんは、一先ず二人の首根っこを掴みながら、一旦路地裏へと退散する。

 あまりにも剣呑な態度を取っていた二人を前に、眉をへの字にしながら、腰に手を当てる。


 「も〜!何初っ端から門番とやり合おうとしてるの!危ないでしょ!」

 「有象無象の「エゴ」程度、さっさと処理しちゃえばいいのよ。わたし達には力だってあるのだから」


 自分よりも経験があるなしろの言葉を本来であれば、聞き入れるべきなのだろうが、のるんは退かない。


 「それでも!増援を呼ばれて、下手に消耗したら那雲さんに接触できないでしょ?」

 「……そうね、月ももう直紅くなる可能性を加味したら、迂闊だったかも知れないわね」


 浅はかだったわ、と謝罪を受ける。

 怒ってないから気にしないで、とだけ言うと、のるんは色々と目の前の情報を処理しながら、思案する。


 「さっきの門番も「エゴ」なの?」

 「えぇ。さっき言っていた那雲さんに影響されて再構築された「エゴ」ね。役割演技(ロールプレイ)しているのよ」

 「はえ〜。じゃあ人格の宿った「エゴ」……って奴では無いの〜?」


 なしろは顎を擦りながら、首を縦に振った。

 一番危険なのは、凪織の人格が宿っている「エゴ」であることは、事前に聞いている。

 

 「簡単に言えば、「エゴ」が空気を読んだのよ。お城に生徒や動物が居たら、おかしいでしょう?」

 「はえ〜……、じみにじーにあすなんだねぇ。ま、ぼくほどじゃないけどね!!」


 何処で張り合っているんだ、とのるんは頭を抱えながら、二人の会話を聞いている。

 そうなると、学校内に居た「エゴ」が人の形を取っていたのも、生徒を演じていたということになる。


 (地味に重要な情報かもしれない。憶えておかなきゃ)


 「あいつらは、堕ちた人間に影響されて、姿形を変える。キャ……ふふ、あのお城を進めばきっと分かるわ」

 「見た目でもそれなりに広いのに、中に入ったら、余計に迷いそう……。毎回構造が変わるんだもんね?」


 あまりのネーミングセンスのなさに、なしろは吹き出しながらも、話を続ける。

 もしそうなら、一回の侵入で凪織を救出しなければならないかも知れない。

 そうなると、尚の事、門番ごときに「戯装」や詠唱術を使っている場合じゃない。


 「いえ、ソレはないわ。生身の人間が創り上げたモノは、基本的には構造は変わらないわ。一度憶えてしまえば、腐ることはない。零明高校は多数の人間の思想が反映されてるせいで、ぐちゃぐちゃだけれど」

 「ふむふむ……。べ、別に知ってるけどさ?一応聞くけどさ?わんこを助けるにはどうすればいいの?」


 ヤタノが目を泳がせまくりながら、なしろにそう尋ねると、なしろは息を吐く。

 貴方が知ってる訳無いじゃない、と言わんばかりの表情をしているも、ヤタノはどこ吹く風と言った様子だ。


 「方法は二つよ。那雲さん本体をこの城から連れ去るか、那雲さんの「エゴ」を殺すか。……ただ」

 「ただ?」


 なしろは、どう伝えるべきかを考えているのか、と少しの間、口籠る。


 「経験上、本人の「エゴ」は、本人のすぐそばに居るわ。……だから、戦闘は避けられない」

 「んじゃ、わんこの「エゴ」をぶっ飛ばせば良いってことだ!ぼく、あったまいい〜!」


 どちらにせよ、戦闘は避けられない。であれば、力を付ける必要がある。

 ある程度は城内の「エゴ」を処理しながら、凪織を探す方針で行くべきだろう。

 その後は、簡単に作戦会議を開始する。問題はどうやって中に入るかだが、結論は既に出ていた。

 

 「周囲をある程度、探知で探ってみたけど、侵入経路はなさそうね。やっぱり正面突破するしかないわ」

 「じゃ、あのムカつく騎士様をぶっ飛ばしますかぁ。折角だし、詠唱術(アーツ)も使ってみたい!」

 「で、でも。あの門番を倒したら増援がぞろぞろと出てくるんじゃ……?」


 なしろはのるんの言葉に、目を細める。


 「ソレはないわ。さっきの門番、言っていたでしょう?俺達は多忙なんだ、と。きっと那雲さん関連のイベントを起こすつもりなのよ。だから、侵入者排除に全力は出せないわ。過度に目立たなければ、問題はないわ」

 「じゃ、早速乗り込みますかぁ……。「戯装」展開──」


 ヤタノは「戯装」を展開し、黒い二丁拳銃をホルスターに収める。

 シンプルな黒のボディに、あちこちに銀の装飾が施されているそれは、実用性とおしゃれさが介在している。


 「随分と装飾に拘っているのね、漆原さんのは。……「戯装」()()──」

 

 今まで聞いたことのない単語──解放という言葉に、のるんは気になり、視線をなしろに向ける。

 なしろの周囲に、紅黒い光の澱みが顕れ、なしろの両手を侵食し、やがてそれは収束する。

 姫宮なしろの願いは、少しずつ澱みから再構築され、叶わない想いは、彼女を喰らう武装へと変貌する。

 紅黒い、胎動している一振りの「戯装」は軽鈍器(ウォンド)のようにも、大剣(ソード)の様にも見える。

 片手で軽々と扱っているそれは、どう考えても質量と見た目があっていない。


 (姫宮さんの「戯装」……解放って言ってたよね。しかも軽鈍器にも見える……)


 軽鈍器は、夢の中の彼女が使っていた武器だ。手軽さと殺傷性能のバランスの良い武器だった。

 色も形も、雰囲気も「Noise」──なしろに憑依していた外神が使っていた武器と良く似ている。


 (本当に関係、無いのかな。あの物語はボクの夢で、この世界とは……何も無いんだよね?)


 今はそんな事を考えている暇は無い。のるんもなしろに続き、「戯装」を展開し、二人に続く。

 城門の方へと戻り、退屈そうに外を眺めていた門番の前に再び三人は立つ。


 「あぁ?さっきの奴らか。仰々しいモノ持ちやがって、やろうってのか?」

 「そ〜なんだよねぇ!このだだっ広いお城に一匹のわんこが紛れちゃってね!そこ退いてよ!」


 槍斧を振り回し、フルアーマープレートの門番は、こちらを侵入者とみなし、排除を開始した。



 

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