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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
27/34

#26 「Self-sacrifice」


 

 

 

 「ヘルヘイム」内の何処か。凪織は己の「エゴ」と同じ部屋でちょこんと座っていた。

 正直言って拍子抜けだ。此処に来たからには確実に殺されると思っていたのだ。

 今が何時だか分からないが、月は白く輝いており、太陽は昇っていない。

 ちらりと、隣を横目で見るも、凪織の「エゴ」は、つまらなさそうに虚空を眺めている。

 

 (でも、ボクの「エゴ」はボクを殺そうとしない。どうしてだろう?)


 気になった凪織は、「エゴ」に話しかけるべく、身体を彼女の方へと向ける。

 よくよく考えてみれば、対話ができるのであれば、彼女達の目的を聞いたって良い筈だ。

 

 「ねぇ、「エゴ」。キミは、ボクを殺したらどうなるの?」

 「……どう?」


 何を言っているんだ、という表情でこちらを見ている。何か間違ったことを言っただろうか。

 それでも、毅然とした態度を崩さずに、凪織は言葉を続ける。


 「どうして、ボクを殺すのかなって。キミにもなにかメリットがあって、するんじゃない?」

 「あぁ……、そういう意味デスか。簡単な話です。契約不履行による債権回収デスヨ」


 契約不履行による、債権回収。「エゴ」の言葉に、今一つ理解が及ばなかった凪織は首を傾げる。

 「エゴ」の表情はやさぐれたものから、だんだんと呆れ顔に変わっていく。

 蟀谷に手を当て、やれやれこの駄犬は、と言わんばかりの態度に、凪織は複雑な気持ちになる。

 

 「その様子だと、自覚もなく此処に来たみたいデスね……。我ながら情けない」

 「ぐぬぬ、デモ、知らないものは知らない!どうせなら教えてくださいよぅ」


 本当に知らないんだ……、という顔で「エゴ」は深いため息を吐く。

 なんでだろう。同じ顔のはずなのに、無性に腹が立つ。殴ってやりたいかもしれない。


 「此処、キミ達がどう呼んでいるかは知らないデスけど、大体は「死にたい」とか「誰かに代わって欲しい」って言う願いを持った人が、堕ちてくるんデス。そして、キミと同一人物のボクが、キミと身体を交換する。そうしたら、契約は完了。堕ちた人間の願いは叶い、ボクは念願の生を得られる」

 「……でもボク、死にたいなんて思ってな……」


 言い切る直前に、本当にそうだろうか?と考え込む。

 どういうメカニズムで堕ちてくるのかは分からないが、自分が絶望したのは、紛うこと無き事実。

 心当たりがある以上、どう言葉を紡げば良いのか分からない。

 もごもごと、口籠る凪織の前で、「エゴ」は窓の外を眺めながら、忌々しそうに月を眺める。


 「月が紅くなる前に、身体を譲ってくれると嬉しいんですケドね」

 「譲らない、そう言えばどうなるんですか……?」


 凪織の言葉に、「エゴ」の瞳が紅く輝いた気がする。

 狂気を孕ませた瞳は、自分と同じ顔の筈なのに、彼女を別人だと認識させた。


 「契約不履行に伴い、キミを殺し、ボクは消滅する。ちなみに、さっきの人間は監視役デスヨ」

 「な、なるほど……。というか、あの人は人間さんなんですね……なぁん」


 カレンデュラを名乗る女性、年齢は自分と同じか少し上くらいだろうか。

 目元に傷があり、銀髪で浅黒い肌が特徴的な美人の女性だった。髪が黒ければ大和撫子だろう。

 何処かで見覚えのあるような風体だったが、此処に来てから、思考が少しぼやけてしまっている。


 「そう、キミと同じ人間。でも、ボクはキミだよ。ボクは、キミと同じ木偶人形」

 「べ、別にボクはキミなんかじゃ」


 その言葉を発そうとした時、「エゴ」の表情が、一気に冷ややかになる。

 周囲の空気まで凍らせる彼女の視線は、凪織の身体を竦ませる。


 「ボクはキミだよ。だから、ボクはキミを殺すんだヨ」

 「………」


 殺意の孕んでいるその表情は、凪織の言葉を封殺した。

 彼女の言葉を否定するのは、あまり良くないかも知れない。次からは気をつけなければ。


 「でもまぁ……、月が紅くなるまで猶予はそこまで無いデス。辞世の句でも聞きますヨ」

 「きっと……、助けが来る……ハズ。ボクは信じて待つだけです……わふぅ」


 「エゴ」は凪織の言葉を聞き、心底おかしそうに笑い始める。

 部屋中にこだまする、自分と同じ声での笑い声は、気がおかしくなりそうになる。


 「助ける価値が、キミにあるんです?無能で、役立たずのクズで、ゴミのキミが」

 「ぅ……、確かに、ボクは生徒会内では役立たずだけど……」


 指をこねながら、俯き気味に呟く凪織は自信なさげにするも、言葉を続ける。

 

 「それでも、仲間である以上。助けに来てくれる!……と信じてマス」

 「あははっ!よくもまぁそんな見え透いた嘘を言うね、ボク」

 

 「エゴ」の言葉がグサグサと刺さる。助けがきっと来ないことなんて分かってる。

 生徒会の面々は、きっと自分を見捨てるだろう。助ける価値のない人間に、命を賭ける必要はない。

 凪織が一番分かっている。そう言わんばかりに「エゴ」は囁く。助けなど来ないのだと。

 自分と同じ顔で、下卑た表情を顔に貼り付けて、自分じゃ絶対にしない微笑みを見せる。

 

 「キミ、ボクを殺せる力。出せなかったんでしょ?ヤタノさんや、のるんさんすら出せたのにね」

 「あの二人が凄いだけ。みんな一回じゃ出せないって会長も言ってましたから」

 

 精一杯の正論で、理論武装するも、そこに穴があることなど分かりきっている。

 「エゴ」も、うんうんと首を縦に振りながら、凪織の言葉に肯定の意を示す。


 「そうだね。あの二人が特別。じゃ、もうヤタノさんの隣にいる必要も資格もないよね?」

 「…………」


 漆原ヤタノ。

 昔からの幼馴染、大切な友人で、何時だって凪織の事を助けてくれた。

 いつだって、自分のことを虐めてはくるものの、本当に困った時は手を差し伸べてくれる。

 そんな才能に溢れた彼女は、この世界でも力──「エゴ」に抗う力、「戯装」を一度で展開出来た。

 凪織は、そんな彼女が眩しくて、自分という石を、月として輝かせてくれる彼女が好きだ。

 

 「自分みたいな惨めな存在を、ペットとしてでも置いてくれる人は貴重だもんね?」

 「……違う」


 確かに彼女は、いつも自分のことを「わんこ」だって言っている。

 時折、作ったお弁当を食べられて、惣菜パンを渡されるけど、それだってお弁当の交換だ。

 才能なんてなくても、一緒に居たって良い。きっと、彼女ならそう言ってくれる。

 心の奥底では、友人として、大切な仲間として、一緒に居てくれているはずだ。


 (でも、この世界においては……)


 「ヘルヘイム」内において、自分は本当に無力だ。「戯装」だって、出せる気配すらない。

 今だって、心の中では、眼の前の「自分」を殺して、この場から抜け出したいと思う。

 帰って、ヤタノに虐められながらも、頭を撫でて欲しい。一緒にこの世界を探索したい。

 でも、ソレは叶わない。凪織には、力も才能も、それを掴み取るだけの気概もない。

 己と同じ水色の瞳が、紅く妖しく輝く。眼の前の人物が人でないことを証明している。

 

 「何が違うのさ?自己犠牲の塊で、みんなが良ければソレでいいって考えのくせに」

 「そんな事無い。みんなを幸せにした上で、ボクも幸せになる方法を常に模索してるから」


 凪織の言葉に、「エゴ」はせせら笑う。強がっちゃってまぁと、こちらを否定する。


 「その結果が、オマエの自己犠牲至上主義じゃないか。四獣天朱雀を見てみなよ。彼は、いつだって自己犠牲をせずに周りの人を助けている。漆原ヤタノを見てみなよ、才能溢れる言動で、周りの人々の力になっている。オマエは何も持っていないから、自分を犠牲にしなきゃ、誰かに何かを与えることが出来ないんだろう?」


 「エゴ」の言葉は、凪織の身体を深々と突き刺してくる。

 否定しようが無い。否定の出来ない正論は、本人にとっては毒でしか無い。

 それでも、凪織は目を背けない。此処で死ぬのだとしても、自分からだけは逃げたくない。

 

 「それでも……、ボクは自分を曲げない。自己犠牲?そんなもの上等だよ。何も持っていないことなんて、自分が一番良く分かってる」 

 「そう。じゃあ、キミは……此処で、どんな自己犠牲を見せてくれるのかな?」


 勝ち誇った様子の「エゴ」は、口元を隠して目元を細めている。

 手の奥で、口角を歪めているのを、自分に見せない為に、そうやってせせら笑っているのだ。

 いかにも、敵対している相手を揺さぶるために、自分が考えそうな事だと、凪織は苦笑する。


 (昔のボクなら、きっと意趣返しで自殺でもしてたんだろうけど)


 生徒会は助けに来ないことなど、とっくに分かっている。

 でも、それでもきっと、ヤタノは駆けつけてくれるのだと、信じている。

 振るえる身体を、気合で奮い立たせ、凪織は瞳をかっ開いて、「エゴ」を見据える。


 「言うまでもないでしょ。だって、キミはボクなんだもんね?」

 「へぇ、言ってくれるじゃん。ボクが牙を向けば、死ぬだけの存在のくせに」


 月が紅くなる前に、殺されることはない。

 情報は得られた。後は帰るだけ。どうせ死ぬ可能性が高いなら、最善の選択肢にベットしよう。


 

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