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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
23/34

#22 日曜農業@1


 

 ふかふかのベッドで眠ることが出来たのるんは、久々に熟睡できた気がする。

 マットレスや良い布団を揃えれば、更にぐっすり眠れるが、今はそこまで求めていない。

 身体を起こし、重い瞼を擦りながら、ぼんやりとした表情で部屋を見回す。


 「綺麗になってる……そっか。昨日手伝ってもらったお陰なんだっけ」


 昨日は、雨が降っており、ヤタノと凪織に一宿一飯の恩義ということで片付けを手伝って貰った。

 その御蔭で隣の部屋や、一階部分も大分片付いている。埃っぽい部屋とはおさらばである。

 窓から外を眺めると、昨日とは打って変わっての晴天だ。

 地面も乾き切っており、暖かい日差しが部屋の中にまで差し込んでいる。

 絶好の外出日和ではあるが、昨日の疲れが未だ残っているのるんは、気が乗らずにベッドに身体を預ける。


 「一人だしなぁ。何もやる気しないけど、なんか進めたい気持ちもあるなぁ」


 今自分が出来ることを頭の中で羅列してみる。

 読書と畑の開墾作業と言った所だろうか。他のことをするには道具が足りない。


 「うーん……、本は雨の日で何も出来ない時に読みたいし、出掛けるのも有りかなぁ……?」


 この時間帯であれば、茶々丸や三月がゲームセンターに居るだろうか。

 フルールや星骸市に行けば誰かに会えるかも知れない。声をかけるのも選択肢の一つだ。

 色々考えたが、昨日の片付けで手に入った農作業具があることだし、土地の開墾にチャレンジしてみることにした。

 やると決めたからには、それなりの準備をしなければならない。

 未だ寝たいと駄々を捏ねる身体に鞭打ち、ベッドから這い出て、服を着替える。

 何故か、自分の身体のサイズに合った農業用の服まで用意されていたのだ。


 (如月先生の身体のサイズが、ボクと同じだったとか?)


 見た感じ、使われた形跡はある。だが、綺麗に洗濯されており、新品同様のものだ。

 膨れ上がる小さな違和感に、疑問を抱きながらも、今は自分のできることをやっていく。

 朝食を摂り、服も着替えたのるんは、隣の土地に足を運ぶ。

 それなりに広く、家庭菜園をする程度なら充分に広い土地だ。


 「草は結構生えてるけど、畑の畝はあるし、多分昔は誰かが何かを植えてた、のかな?」


 如月先生が趣味でやっていたのだろうか。だとしたら相当のフィジカルだろう。

 平日は教師をし、休みの日に趣味で土いじりをしていたのならば、凄まじい体力だ。


 (でも、ある日を機に、此処に来なくなった……?)


 此処に来て10日だが、未だに如月先生なる人物には会えていない。

 男性なのか女性なのか、年齢すら判然としていない謎の人物。

 生徒会所属のヤタノすら知らないとなると、疑念は深まる。

 本当に()()()()()()()()()()()()()()()()。根拠のない話をしても意味はない。

 今は眼の前に広がるそれなりに広い土地と格闘しなければならない。まずは草むしりだ。


 「凄い雑草の量……これは骨が折れそうだなぁ。……やるかぁ」

 「オレを呼んだか?」


 畝の前で腕を組んで独り言を言っていたのるんの背後から声がした。

 身体がビクンと跳ねた後に、勢い良く振り返ると、そこには朱雀が笑顔でこちらを見ている。


 (な、なんで四獣天くんが……?すんごいびっくりした……)


 腰に手を当てている普段着の彼は、制服姿とは違い、どことなく新鮮だった。

 いつもの制服とは違い、黒めのヴィジュアル系と言った格好だ。完全にオフといった印象である。

 ピアスもしっかり付けており、普段の印象とはガラッと変わって見える。

 あまりに驚いたのるんは、声が上ずりながらも、朱雀を見ながら指を捏ねる。

 

 「えと、なんで此処に……?」

 「助けを呼ぶ声がしたからな!救助活動の一環だ!」


 平日も時折、助けを呼ぶ声がする!と言うと、何処かへ走り去る朱雀はよく見るが、本当にこうやって人助けをしているらしい。

 SNSでは#朱雀救助中で調べると、ずらりと星失市内で色んな事をしているのが伺える。

 でも、確かに一人でやるのは骨が折れる所だったので、彼の手助けは本当に助かるから有り難い。


 「えと、今から此処の畑を再生させようかなって思うんだけど……、手伝ってくれるなら、着替えた方が良いんじゃないかな?」


 流石に朱雀が着ているような、おしゃれな格好で手伝われると申し訳なく感じる。

 隣りにいる自分が本格的な農業用の格好をしているので、尚更だ。


 「大丈夫だ。そういう事もあろうかと、汚れてもいい格好も持ってきている」


 朱雀は何処からか、着替えを取り出すと、のるんの家の一階で着替えるとだけ言い、着替えに行った。

 五分ぐらい待っていると、のるんと同じ様な作業着に着替えて戻ってくる。

 ツッコむと色々ややこしそうなので、あえて触れないが、なんでそんなものまで持っているんだ。


 「よし、これで問題ないな!んで?此処は……、荒れてはいるが、元は畑だったのか?」

 「畑だったみたいだね、畝もあるし、たぶん昔はなにか植えてたんじゃないかな?」


 朱雀もはえ〜と、感心しているのか興味がないのか分からない相槌を打ちながら、畑を見る。

 土を少し取り分けると、光に当てながら、何かを確かめているようだが、何か分かるのだろうか。

 気になったのるんは、真剣な表情の朱雀の服の裾をちょんちょんと引っ張る。


 「……何してるの?」

 「あぁ。土の匂いと、柔らかさを確認してたんだ。多分、肥料がいるなこれ、確かあったよな?」


 確かに朱雀の言う通り、畑用の肥料は、倉庫にある程度備蓄があったはず。

 これも、昨日倉庫を片付けてくれたお陰で発見出来たのだが、何故知っているのだろうか。


 (倉庫で着替えた時に見掛けたのかな?)


 「うん、倉庫にあるから、今ある分は使っていいよ。今度また色々買っとかなきゃだけど」

 「その時は「フルール」にある、土弄ラー御用達の店があるんだが、近いうちに紹介するぜ」


 朱雀は、笑顔でサムズアップしている。眩しい。陽キャオーラがのるんを浄化しようと襲い掛かる。

 目が眩む中、のるんは、土弄ラーという言葉には引っ掛かったが、ツッコんだら負けだと思い口を噤む。

 この手のタイプは、一度ツッコんでしまうと、無際限にボケ倒してくる。

 なんでやねん、と関西人ばりのツッコミをしたい気持ちをぐっと堪えてのるんは、話を続ける。


 「四獣天くんは、土弄りの経験はあるの?」

 「ん〜。畑を一ha(ヘクタール)程度開墾したことはある。ただ、流石に汲み上げ式の井戸は掘ったことはないな」


 1haは100m×100m規模の土地を指す。とても人間が一人でやるもんじゃない。

 ましてや、彼の場合は人助け専門だ。自分の趣味で行ったわけではないだろう。


 (星失で汲み上げ式の井戸を掘ってどうするんだよぉ、田んぼを量産する気なの……?)


 スケールが違いすぎて、困惑している。そもそも土弄り程度で井戸を量産されてはたまらない。

 あちこちに井戸がある市など誰が住みたいのだろうか、誰も住みたくない。ボクも引っ越したい。


 「えと、じゃあ何からすればいいかな?」

 「そうだな、まずは草むしりだな。その後に肥料を撒いて、植えたいものを用意すればOKだ」


 のるんの土地は精々1a(アール)程度だ。10m×10mの正方形の土地。

 家庭菜園をするには些か大きいが、一個を育てるのなら、大きいに越したことはない。

 最初は小さい場所で行っていき、問題なく育てられそうであれば、最大限土地を活用すれば良い。


 (ただ、植えるものがないなぁ。その辺も、今度四獣天くんに案内して貰おうかな)


 作業を開始し、昼過ぎ頃まで朱雀と草むしりをした後、畑の畝を整えたり、整地をしていた。 

 一人では此処まで手際良く出来なかったのだが、朱雀のお陰で凄まじい速度で開墾されていった。

 おやつの時間頃には、全部が終わっており、後は種を植えるだけという所まで来た。

 感謝の気持も込めて、朱雀にお昼をご馳走し、満足げな表情の朱雀は帰っていった。

 帰り際に一枚、朱雀とスマホで撮った写真を眺める。

 朱雀からは、SNSにハッシュタグを付けて投稿してくれよな、と言われている。


 「あんまり使ったこと無いけど、まぁ手伝って貰ったしね」


 のるんは、SNSのアカウントを作成し、#朱雀救助中のハッシュタグを付けて呟く。


 『四獣天くんに、畑を耕すの手伝って貰った!何植えるかは決めてないけど!』


 呟いた途端に、朱雀からフォローとRTが付いた。常時見ているのだろうか。

 少しだけ朱雀と仲が良くなった気がする。今度は、おすすめのお店に連れて行ってもらおう。

 

 



 _____________



 ・のるんの家の隣にある畑が開墾された。

 今後、栽培可能な種が手に入ったら植えてみよう……。


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