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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
22/22

#21 滴り落ちる雨露は


 4月10日、土曜日の早朝。

 雨が降ってて帰れないと駄々を捏ねたヤタノをしょうがなく一泊させたのるんは、朝食を作るべくキッチンで考え事をしていた。

 突然の来客に対応できるような、それ相応の食事のストックを用意してなかったのだ。

 今日の今日まで、友人に食事を振る舞う機会もなかったから、明日晴れれば行こうかな、程度だった。

 

 (冷蔵庫にあるのは……)


 冷蔵庫には、卵や一般的な調味料、ベーコンや鶏肉、野菜もある程度は用意がある。

 土曜日は家に引き篭もるつもりだったので、自分1人用のご飯だけは、ある程度用意していた。

 アホ面かいて鼾をかいている凪織にはドッグフードでも与えればいいが、ヤタノにはそうもいかない。


 「さすがにちゅーるじゃなぁ」

 「え〜、ぼくのことぉ、ねこちゃんだとおもってくれてるのぉ?」


 寝ていたはずのヤタノにいつの間にか、後ろから抱きつかれている。寝起きなのか、口調もゆっくりだ。

 身長差がそれなりにあるせいで、ヤタノの頭がのるんの首元辺りに位置している。

 両手がしっかりとお腹に回されており、逃がしてくれそうにもない。

 彼女が言葉を発する度に、首元にヤタノの吐息が感じられて、妙にこそばゆい。

 普段はツリ目気味なのだが、今日は目がトロンとしている。


 「起きてたの?」

 「いまおきたぁ〜。でも、のるちゃが居なかったから、わんこ蹴飛ばしてきたのぉ」


 特に何もしていないのに蹴飛ばされた凪織に、追悼を捧げながらヤタノを正面に向けさせる。

 流石に、ずっと後ろから抱きつかれているのも、なんとなく疲れてしまう。


 「あんまり、虐めすぎちゃダメだよ?確かにまぁ……確かに胸は大きいけどさ?」


 ヤタノが胸にコンプレックスがあるのか、凪織がシンプルにでかすぎるのかは分からない。

 ただ、執拗に胸イジリをしているのは確かだ。互いに満更でもなさそうな顔はしているけれども。

 頬を膨らませながら、ヤタノは不満そうな表情でこっちを見ている。一体この顔で何人落としたのか。


 「む〜。だって、あ〜んな邪魔過ぎるおっぱいなんて、虐めるに決まってるじゃん」

 「……まぁ、気持ちは分からないことはないけども」


 確かに、凪織のそれは、年頃の娘が見たら、目をひん剥くサイズではある。

 あれで、「ヘルヘイム」内を走り回ったり、運動神経もそれなりにあるっていうのは凄い話だ。

 

 (確かに同い年で、それなりに関係値があったら……仕方ない話ではあるか)


 ヤタノの頭を撫でながら、朝食をどうしようか悩んでいると、満面の笑みで彼女は笑う。


 「でも〜。わんこも悪い子じゃないからさぁ。腐っても幼馴染だし〜」

 「そうなんだ?小学校からとか?」


 ヤタノは嬉しそうに首を縦に振る。


 「うむっ!なんだかんだ十年くらいの付き合いだねぇ」

 「そっかぁ、長いね。大切にしてあげなよ?」


 そんな会話をしながら、仕方なくベーコンや卵を使って、少し優雅なモーニングを拵える。

 コーンスープに、フレンチトースト、ベーコンエッグ。外国っぽい朝食になったが、いいだろう。

 お皿に盛り付け、ヤタノにも協力して貰って、テーブル席に三つ用意する。


 「さて、ご飯の用意は出来たけど……、那雲さんは?」

 「あ〜まだ(いびき)かいて爆睡してるよ〜。あの子、朝弱いんだぁ」


 ヤタノに手を引かれ、凪織が寝ている場所へと向かうと、少し離れた場所から既に鼾が聞こえてくる。

 眠りが浅い子だと、隣どころか近くの部屋で寝るのも厳しそうだ。


 「結構な音だね……。ボク、下で寝てたから気づかなかったや……」

 「それで思ったけど、部屋の片付けしない〜?のるちゃ、ずっとソファで寝てるでしょ?」


 ギクリと、心の中で呟いてしまった。

 二階に二人を案内した際に、そういえば放置したベッドを片付けてもなかった。


 (だって、一人で片付けるの面倒くさいじゃんね……先週は土日両方出掛けてたし)


 確かに、折角三人もこの場に居るなら、片付けを手伝ってもらうのも有りだ。

 そうすれば、何でもかんでも手伝いたがる凪織の気も済むだろう。


 (落とし物拾っただけで、一週間ご飯奢りますとか言われた時は流石に困ったなぁ)


 彼女元来の性格なのだろうが、過剰に恩義を感じて数十倍で返そうとする魔物なのだ。

 忠義の高さから、「番犬」と呼ばれたり、「わんこ」と呼ばれている。

 だからこそ、あまり借りは作りたくないのだが、今回の件が貸しになる可能性がある。


 「う、うん……まぁ。そだね」

 「だめだよ〜。身体に悪いし、安眠するためには良いベッド……、まぁこれは微妙だけど」


 ヤタノ達は、その微妙に寝るには使いにくいベッドで爆睡している凪織を見る。

 お腹を出して轟音を響かせている凪織の鼻を、ヤタノは徐ろに塞いだ。


 「ふがっ……はっ!?」

 「おはよぉ、わんこ〜。あ・さ・だ・よ☆」


 目をひん剥きながら飛び起きた凪織は、勢い良くのるんの方へと走り、土下座をし始める。

 そこまでしなくてもいいじゃん、と思いながらも、これを止めると余計面倒になる。


 「この度は、寝すぎてしまい……大変、なぁん……」

 「謝るよりも先に、朝ごはん食べなさい〜。のるちゃが作ったご飯、食べようね?」


 のるんからは見えないように、ヤタノは凪織の前に立って、耳を引っ張っている。

 顔こそ見えないものの、声色はやや強めだ。恐らく、見られたくないから隠してるのだろう。

 ぷるぷると震えている凪織に、大丈夫だから、と声を掛けて、一階で食事を摂る。


 まだ温かったおかげで、ヤタノの機嫌もそこまで悪くなく、朝食を摂ることが出来た。

 あまり二人とも朝食を摂らないタイプだからか、嬉しそうに食べてくれている。


 (あんまり誰かに食べてもらうことって無いけど、ちょっとだけ嬉しいかも)


 都会の実家にいた時は、両親はほぼ家に居なかった。ずっと仕事で独りぼっちだった。

 家に遊びに来るような友達も居なかったから、こういった事は本当に初めての出来事だ。

 美味しそうに朝食を食べた二人は、食べ終えるとそそくさと自分達の皿を片付ける。

 

 「ごちそうさまでしたぁ。よし、朝食のお礼にこの家、片付けちゃおっかぁ」

 「む!力仕事とか単純作業ならいくらでもできますよー!いっしょくいっぱんの恩義!」

 「一宿一飯ね、ご飯とご飯になっちゃってるから」


 のるんのツッコミに、ヤタノ達は声を漏らしながら笑う。

 和気藹々とした空気の中、雨は一向に止む気配はない。今日は夕方までずっと降るらしい。

 それならば、放置していたベッドメイキングや、一階の倉庫部分も片付けてしまいたい。

 凪織とヤタノにある程度の指示を出して、のるんも部屋の掃除を開始する。




 ___________________


 

 一階部分の倉庫や、手が付けられなかった部屋の片付けを、ヤタノと共に掃除し始める。

 一人で暮らすには必要のない場所だが、こういう誰かが来た時に使える場所になるはずだ。

 一階部分に一部屋、二階にも一部屋、人一人二人が滞在出来るだけの部屋がある。


 (那雲さんには二階部分を任せてるけど、大丈夫かなぁ)


 のるんが一階部分を手伝っている間は、凪織には単純作業だけ頼んでいる。

 重いものを動かしたりとか、埃が被った棚を片付けているはずだ。


(なんで棚に農業具とか、麻縄とか、ポリタンクとか色々あるのやら)


 恐らくは、隣の土地も使っていいと聞いているので、そこで畑でも作るためのものだろう。

 未だに会っていない如月先生なる人物にもそろそろ会わねばならない。


 「そーいやさ?ここの家って元々は、如月センセーが喫茶店にしてたんだよねぇ?」

 「らしいね、実際に経営してたのを見てたわけじゃないからアレだけど」


 さなや朱雀からも、似たようなことを言われていた。

 ここはかつては賑わっていたものの、突然閉店したのだと。

 ただ、教師が喫茶店を経営するというのは、体力的にも他の要素でも難しい筈だ。


 (気になる部分ではあるけど、学校で如月先生と会ったことがないってのも変な話だよね)


 「ね、それで気になったんだけど。如月先生ってどんな人なの?」

 「ん〜?まだ会ってないんだ?と、いうぼくも高校では会ってないんだよねぇ」


 自分だけではなく、生徒会のメンバーでもあるヤタノすら会っていない。

 そんなことは有り得るのだろうか……。可能性として、非常勤で滅多に来ない、という事なら納得はする。

 

 「うーん。何処に行けば会えるんだろうなぁ」

 「そうだねぇ、ちょっとこっちでも調べてみるから、何か分かったら連絡するねぇ〜」


 のるんはヤタノに感謝しながら、部屋の片付けを一日掛けて行った。

 雨が止んだ夕方頃に二人は帰っていったが、今日は物凄く疲れてしまった……。

 買った本は一旦綺麗になった本棚に仕舞い、のるんはふかふかのベッドに飛び込む。



 「のるんの居候先」の一階部分が片付いた。

 ・友人や顔見知りを家に招待し、一晩泊めることが可能になった。

 

 「のるんの居候先」の二階部分が片付いた。

 ・まともなベッドでの睡眠が可能になり、体力の回復速度が上昇した。

 これからは、1回「ヘルヘイム」に侵入してからの再侵入期間が短縮されるようになった。


 ・勉強机が解放された。

 暇な時に勉強をしてみようか。他にも本を読んだり、ゲームなども出来るようになった。


 ・倉庫部分が片付いたため、大きな荷物や、原付などが収納できるようになった。

 もし、何処かで手に入った際は、倉庫部分で管理ができるように。



 

 



 

 

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