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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
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#19 天才美少女鍛冶師兼カリスマモデル 


 なしろに連れてこられたのは、星失市にある商店街の中央付近にある不思議なお店だった。

 看板も立て掛けられておらず、外装はオンボロの一軒家のように見える。

 黒とオレンジで統一されたデザインは、凝っているように見えて、手入れが全然されていない。

 確かに此処は何度も通っていたが、何かを販売している気配がなかったので、スルーしていた。

 

 (確かに、来た時から何の店?家?なのかなとは思ってたけど……此処が?)


 なしろは、のるんを気にすること無く、扉に付けられたドアノブを無遠慮にガチャリと捻る。

 鍵は掛けられていなかったのか、ドアノブはスムーズに回転し、中へと入ることが出来た。

 いきなり入って良いのか分からなかったのるんは、なしろの後ろをついていき、こっそり耳打ちする。


 「え……、勝手に入って良いの……?というか、此処、お店?」

 「えぇ。わたしの知り合いのね。ただ、一般的に販売とかをしている訳じゃないから」


 中は、極普通の一軒家といった様子だった。

 シンプルなテーブルに、簡素な椅子。白い壁紙に茶色いフローリング。

 古い置き時計が、チクタクと時を刻んでいる以外に、音は聞こえてこない。

 他にも、色々なものが置かれているが、どれにも個性が全く感じられない。


 (なんだか、少しやな感じだなぁ……)

 

 何処にでもあるようなセットアップは、何処か安心感を憶えさせるような家具の配置のハズ。

 のるんは、誰か居ないかと、キョロキョロと辺りを見回すも、人の気配を感じられない。

 元来、こういう場所は人が居るから手入れをされており、人が居ないから廃れるのだ。


 (見た所、手入れは行き届いている。でも、人が住んでいる感じはしない……)


 考えられるのは、お店として一時的に使用しているパターンだが、それも考えにくい。

 言語化するのが非常に難しいのだが、あまりに部屋主の考えが見えてこないのだ。

 此処が鍛冶屋なのであれば、金属片が落ちていたり、匂いがしたりするだろう。

 それらが一切無い。この部屋からは何の情報も得られない。それが不気味に感じる理由だ。


 「どう、見ても家だね。ここに鍛冶師が居るようにはとても……」


 恐る恐るのるんがそう尋ねると、なしろはこちらを見ずに、首を縦に振る。

 まるで、さもそれが当然だと言わんばかりの態度に、少しだけ頬が膨らみそうになる。

 

 「でしょうね。此処はただのカモフラージュだから」

 「え」


 なしろは古時計の長針を、12時の方角へと調整すると、隣にあった壁がいきなり動き始める。

 何もなかったはずの白い壁が開き、奥へと続く路が開けた。遠くの方から物音も聞こえてくる。

 非現実的(フィクション)ではよく見掛けるモノだが、現実世界(ノンフィクション)でもあるものなのかと感心した。

 

 「行くわよ、この先にわたしの懇意にしてる鍛冶師──本人はメカニックとか言ってるけどね」

 「あれって機械扱いなんだ?正直、アレが何なのか詳しくは知らないけどさ……」


 なしろの後を追い掛ける形で、隠し通路を通り、音のする方向へと向かう。

 熱気が徐々に強くなっているのを感じ、暫く進むと、開けた場所に出た。


 _________


 金属同士がぶつかる音が響き、随分とやかましい場所には、一人の女が鉄製の仮面を被っていた。

 大きな金槌で真っ赤な金属を叩いており、見るからに鍛冶師と言わんばかりの風体だ。

 近くには溶鉱炉のようなものもあり、想像していた鍛冶師の職場──アトリエに見えた。

 のるん達に気づいたのか、金属を打つのを止めて、仮面を外してなしろの方を見る。


 (え、まさか……芥川さん……だっけ?)


 芥川茶々丸──先週の休日に、ゲームセンターでダンシングしてた自称カリスマモデルだ。

 日本人離れしたプロポーションに、綺麗な顔。低めのハスキーボイスは女性ウケ抜群である。

 実際に、のるんも彼女のことを全く知らなければ、取り巻きの連中と一緒に黄色い声を上げていたかも知れない。


 (夢の中の彼女と全く同じ。……じゃあ此処は)


 名前こそ無かったが、「BlackSmith.Rpas.」なのだろうか。

 夢の中の話を持ち出すつもりはない。あくまで驚いたような演技をしておこう。


 「おや?誰かと思えば「御令嬢(マイ・ディア)」に「狂兎(クレイジー・ラビット)」じゃないか。どうしたんだい?急に」

 「「狂兎」?貴方、彼女と知り合いなの?」


 なしろが茶々丸の言葉に、眉を顰めながら、こちらを見る。


 「まぁ……少し前にゲームセンターで会ってね」

 「貴方、人の依頼品の納期無視してサボってたのかしら。度し難いわね」


 ジロリと茶々丸を睨みつける目には、侮蔑や呆れが入り混じっている。

 腕を組み、身長差があるにも関わらず、茶々丸のほうが小さく見えた。


 「たまの息抜きくらい良いじゃないか、これでも多忙の身なんだ」

 「カリスマモデルねぇ。雑誌にTV、ラジオにグラビアだったっけ?良くやるわね」


 アトリエに隣接している茶々丸のプライベートエリアには、何冊か雑誌が置いてあった。

 そのどれもが、表紙に茶々丸の写真がデカデカと載っているものばかりだった。

 ポージングから、着ているものまで、とても洗練されている、プロの仕事をしている。


 (夢の中でもそうだったけど、なんでこの人、モデルしながらこんな事してんだろう?)


 のるんが雑誌をペラペラと捲りながら、凄いなぁと呟いていると、茶々丸は身体をクネクネさせる。

 気持ち悪いなぁとは思うが、口に出さずに居ると、茶々丸は懐から小さな紙袋を取り出す。

 

 「それで、依頼品というのはこれだろう?査収したまえ。昨日急に言われたから急いだよ」


 茶々丸は蟀谷を指で掻きながら、なしろに小さな紙袋を手渡す。

 なんだ、出来てるのね、と小さく呟いたなしろは、荷物の中を改め、そのままのるんに渡す。

 茶々丸は目を丸くして、驚いた表情でのるんを指差した。


 「なるほど。キミが人のために動くなんて珍しいと思いきや……そうかそうか」

 「なによ。何がいいたいのかしら」


 無愛想な顔に、不快感が追加され、余計に機嫌が悪そうに見える。

 

 「いや何。余程有望なのか、余程のお気に入りなのだろう、とね。「狂兎」、中を見たまえ」

 

 茶々丸の言葉に、頷いたのるんは、一度明けられた紙袋を再度開く。

 中には白い機械部品のようなものが入っていた。見覚えのないそれを舐めるように眺める。

 ツッコむつもりはないが、こんな精密機械のようなものは、鉄を叩いても出来ないと思う。


 「えと、これは……?」

 「それは「戯装」用の追加パーツよ。「エゴ」の残骸を彼女に渡せば、色々作ってくれるから、定期的に残骸を渡してみるといいわ」

 「次に「ヘルヘイム」に行った際に装着してみるといいさ。多少は使用時の負担が減るはずだよ」


 彼女の口振りを聞いている感じだと、やはり茶々丸も「ヘルヘイム」の事を知っているらしい。

 であれば、なしろ達と共に戦う仲間なのだろうか。それとも、鈴達とも協力しているのか。

 そんな考えが顔に浮かんでいたのか、なしろがふぅっと小さく息を吐く。

 

 「彼女はわたしの協力者よ。生徒会とは絡んでないわ」

 「狂兎」は生徒会に所属しているのかい?珍しいね、「御令嬢」が関係者とつるむなんて」


 茶々丸の言葉に、なしろは白い目を向ける。

 まるで余計なことは言うな、と言わんばかりの顔だったが、茶々丸は何処吹く風と言った様子だ。


 「別に。彼女は生徒会に所属している訳じゃないわ。そうでしょう?」


 なしろに回答を求められる。否定も肯定もしにくいそれは、どう答えるのが正解なのだろうか。

 確かに、現段階では所属はしていない。庶務にならないかとは常に言われているが、頷いていない。

 あくまで協力要員と言った体で、タイミングが合えば、協力するといった形だ。


 「そう……だね。身の振り方はよく考えるつもり」

 「そうね。よく考えた上で貴方がその道を行くなら止めないわ。推奨はしないけれど」


 彼女と鈴や生徒会の間に、何か因縁があるのは、察しがついている。

 でも、聞くのは今じゃない。もっと双方を良く知ってからだ。知識も経験も未だ足りない。

 ただ、彼女の表情は非常に寂しそうに見える。バイアス効果が掛かっているだけだろうか。

 

 「兎も角。彼女に「調整」を頼めば、ある程度の不安は解消されるんじゃないかしら。貴方の危惧していた「精神的副作用」も完全ではないけれど、軽減は出来るわ」

 「……気になってたんですけど、「精神的副作用」というのには、どういうモノがあるんですか?」


 ヤタノの暴走や、リアの豹変を見るに、副作用はそれなりに重いんじゃないかと思っている。

 普段は性格のいい子も豹変するのであれば、使うべきでは無いのではないんじゃないかと思う。


 「わたしの知る限りは、精神崩壊、錯乱、豹変、幻覚、幻聴……おおよそ、薬物を使用した時と類似した症状が出るみたいね。残念ながら、わたしはそこまでのモノは経験していないけれど。「現」生徒会の面々も出ている子は居るのかもね」


 まぁ、わたしは関わり無いし興味もないわ、と一蹴する。

 「精神的副作用」が出ることを承知した上で、生徒会の面々は今も「侵入」を繰り返している。


 (正義感なのかな、それとも……義務感?)


 正義感で己を壊してまで、他者を救う必要があるのか?

 ヤタノの暴走を見て、その気持ちがより強くなった。過度な自己犠牲が愚かしく見えたのだ。

 

 (ボクはあぁなりたくない。平穏な日常を過ごすために、ボクが強くならなきゃ)


 のるんの求めるものはずっと変わらない。平穏な日常を友人と過ごすこと。

 茶々丸となしろの良く分からない話を話四分の一程度に聞きながら、のるんはその場を後にした。

 

 

 

 

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