#16 残された者
4月8日、木曜日の朝。今日もいつものように食パンを焼き、テレビをぼーっと眺めている。
『土曜日は生憎の雨ですが、日曜日はぶり返しの晴天でしょう』
「雨か……、休みの雨の日って、何しよう……?」
どうやら、土曜日は雨が一日中振るらしい。そんな日に外に出るほど、外が好きな訳では無い。
雨の日は、あまり外に出たくはないが、外に出ることで得られるものもあるかもしれない。
出るのは選択肢の一つにしておいて、雨の日でも出来ることを探しておいた方が良いだろう。
「そういえば、商店街にゲームショップとか、本屋とかあったっけ……」
つい先日、ふらっと高校の近くにある商店街を寄った際に、気になる店が幾つかあった気がする。
今日も特に予定はないことだし、帰り際に寄ってみようか。
雨の日に、誰も居ない家で集中して作業をすると、なんとなく、一段と捗る気がする。
「おはよ〜〜〜!!や〜、今日はあっついねぇ」
「おはよ。……そんなに暑いの?まだ四月頭だよ?」
いつものようにドアを勢い良く開けたさなは、全身汗びっしょりで、暑そうに手で扇いでいる。
そんだけ肌面積高いのに暑いんだ……と、半ば半目でさなを見ていると、さなは何故か手で胸を隠す。
頬を赤らめ、やや不満げに頬を膨らませている。見る人が見れば、もえ〜とか言うのだろうか。
「のるんちゃんのえっち」
「え?」
言葉の意味を理解するよりも早く、どうしていきなりそんな事を言われたかが理解できなかった。
どちらかと言われたら、そんな汗だくで、男の視線を釘付けにするようなさなの方が、えっちだと思う。
「そんな嫌らしい目で見ないでよ〜、すけべさんめっ」
「えぇ……」
意識して見ていたつもりはないが、どうやら彼女のえっちセンサーに引っ掛かったらしい。
朝から元気だなぁとはいつも思っていたが、今日は何時にも増して元気だ。
(まぁ、目を引くのは事実ではあるけども……。気をつけなきゃか)
汗でワイシャツが透けて見えるのは、正直、えっちだと思う。
中身も若干透けて見えるし、胸を隠すのは正解だが、のるんは見ていない。
「えと……、ごめんね?見てたつもりはなかったんだけど」
「うん、知ってる。視線ずっと顔に向いてたけど、意地悪しちゃった。てへ」
舌を少しだけだし、ウインクしながら、両手を合わせて可愛げにさなは謝ってきた。
怒っているわけではないのだが、少しだけイラッとしてしまった。
一発どついてもいいだろうか。何故だか分からないが無性に腹が立つ。
表情筋を全てoffにし、瞳のハイライトもoffにして、のるんは鞄を持って立ち上がる。
「先行ってるね、また学校で」
あまりに感情のない表情を見せられたからか、さなは少しの間、フリーズしてしまった。
そしてすぐに気づいた。この家の鍵は、彼女しか持っていないことを。
「え、あ、ちょっと!!のるんちゃん!鍵は掛けていって〜!!」
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学校に着いてからは、さなに謝り倒されたので、流石に許さざるを得なかった。
さな達と一緒に過ごす学校生活はあっという間に時間が流れていき、気がつけば放課後だった。
「んじゃ、わたしは部活行くから、また明日ね、のるんちゃん」
「俺も、ちょっくら救助活動してくるわ。じゃあな」
いつもの二人は、今日は部活動に勤しむらしい。羨ましいが、まだ中途入部は出来ない。
部活動の中途募集はGW明けの五月からだと、さなから聞いている。
それまでは帰宅部ライフを謳歌することにしよう。
「さってと……、じゃあ商店街でゲームショップと本屋を覗いてみますか……ん?」
下駄箱付近で、女子生徒二人がそこそこ大きめの声で噂話をしている。
興味はなかったが、嫌でも耳に入ってきた言葉は、少しだけ興味のあるものだった。
「来栖さん、今日も学校来てないんだって。病んじゃったのかな?」
「まぁ……、お父さんがあんな死に方したらねぇ……。最近は、フルールのゲーセンによく居るらしいよ」
来栖と言うと、来栖零士の事だろうか。
最近死んだ来栖という苗字の人間は、それくらいしか知らない。
後でゲームセンターにも顔を出してみようか……。少しだけ気になってしまった。
女子生徒達の噂話もそこそこに、下駄箱で靴を履き替えて、その場を後にする。
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ショッピングモール「フルール」ゲームセンター内。
なんとなく気になってしまって、本屋やゲームショップよりも、先に来てしまった。
そう言えば、来栖零士の子供が居るという話は聞いていたが、どの子がそうなのだろうか。
「来栖さん、か。どんな子なんだろう」
「あてぃしに何か用?」
心で思っていたことがつい、言葉になっていたらしい。
のるんがぎょっとして後ろを振り返ると、見覚えのある姿が出迎える。
白髮を長く伸ばしており、薄い赤色の瞳の彼女は、夢の中でも見た覚えがある。
(もしかして……三月?)
髪色や瞳の色は違うが、雰囲気や喋り方は同じだった。
若干苛立ちを覚えているのか、こちらを見る目には、怒りが滲んでいる。
驚きを隠せなかったのるんが言葉に詰まっていると、少女は不思議そうな目でこちらを見ている。
「ここらじゃ見ない顔じゃん、星失の人じゃない感じ?もしかして、マスコミ?」
「う、ううん!実は転校してきたばっかりでね……。放課後にふらふらしてたんだ」
決して嘘じゃない。本当は本屋に行こうと思っていたのだが、野次馬精神に負けただけだ。
目が泳いでいたのか、白髮の少女は怪訝そうな表情でこちらをじろりと睨んでいる。
「ふぅん?転校して数日で、ソロでゲーセン行ってる訳?ウケる。じゃああてぃしと一緒だ」
「キミと……一緒?」
どういう意味で言ったのか分からなかったのるんは鸚鵡返しすると、少女は首を縦に振る。
「あてぃしも友達居ないし。高校入学して早々あんな事があったから、行きにくくてさ」
「あんな事……、あぁ。じゃあキミが……?」
白髮の少女は、肯定の意を示す。
その瞳には、寂しさや哀しみ、怒りや憎悪が色々と混ざりあい、複雑そうな表情をしている。
「そ、あてぃしが来栖三月。最近死んだ来栖零士の娘って訳」
「そっか……、名前、憶えとくね。三月は、いつも此処にいるの?」
のるんがそう聞くと、首を横に振る。
髪が長いせいか、首を振る度に、綺麗なロングヘアーが縦に横に揺れている。
「んや。正味気分かな。学校以外のあちこちで時間潰してる感じ。家にも、学校にも居場所無いし」
「じゃあ、放課後で良かったら、ボクと遊んでよ。この辺のこと、良く知らないしさ」
三月は目を丸くさせ、驚いたような表情を見せた後、すぐに怪訝な表情に戻る。
「あてぃしと遊びたがるとか珍し……、何企んでるわけ?」
「言ったでしょ、友達少ないから。前の場所では、友達居なかったんだ」
自分で言ってて悲しくはなるが、嘘ではない。
実際に、転校して二週間目だが、以前の友達からは連絡一つ来ていない。
こちらの顔色を伺っていた三月だったが、徐々にこちらを憐れむような表情になっていく。
「そかそか〜。なら暇な時、連絡してきて。RAINくらいならやってるっしょw?」
「うん、やってるから交換しよ。遊べる時は連絡するね」
三月と連絡先を交換し、暫くの間、世間話をしてから、のるんはゲームセンターを後にする。
日が落ちた頃合いで、本屋に行き忘れていたのを思い出し、急いで向かう。
古い本屋ではあったが、新しい本が少しではあるが陳列されており、古本から新本まで色々あった。
「ん〜……あんまり本読まないから、初心者用の本を買おうかな……」
店をぐるっと一周し、悩みに悩んだ挙句、最終的には店員に勧められたものを手に取った。
のるんは、「ねむねむにゃんこ物語」と「天に召されよ戦乙女」を購入してから帰宅した。
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夕食とお風呂を済ませ、のるんは硬いソファに身体を預ける。
眠気はそれなりに来ているが、一先ずはスマホの通知を確認すると、三月からメッセージが来ている。
───来栖三月とのトークルーム───
みつき:やっほ〜、ちゃんと届いてる?(20:30)
みつき:スタンプを送信しました(20:31)
のるん:ちゃんと届いてるよ!RAINありがと〜!(21:38)(既読)
のるん:今は何してるの?(21:39)(既読)
みつき:今?ん〜特に何も?暇だからゲームしてたw(21:58)
のるん:へ〜!どんなゲーム?(22:10)(既読)
みつき:今流行りのゲームが有ってね……(22:15)
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夜の時間は、三月とお喋りをしながら、過ごした。
どうやら、三月はゲームに詳しいようだ。困ったことがあれば、聞いてみようか。
三月と「友人」になった。
今度、時間がある時に、何処かに誘ってみようか……。




