#15 ねおちもちもち月見大福
生徒会室に戻ると、各自解散と言われた。
先程までのことがあったので、皆、顔を合わせづらいだろう。
のるんは生徒会長と少しだけ話をし、学校を少しだけ見て回ってから、帰路に着く。
「あ〜……、筋肉痛とか気にならないくらい疲れた……」
すっかり日が暮れてしまい、もう間もなく完全に日が沈む頃合いだ。
カラスの鳴き声が、周囲から聞こえており、畦道にはカエルが数匹ほど跳ねている。
「色々あったなぁ……、「戯装」か……、見た目は双小剣だったよね」
双小剣──夢の中で、闘迅者という職業を修めていたものが使っていた武器種。
他にも、ヤタノの二丁拳銃は射手の双機銃。鈴のは勇者の抜剣。
リアの持っていたものだけは、判別が付かなかったが、二人のモノも、とても酷似している。
夢がどんどんと現実へと侵食される感覚は、どうにも言葉には出来ない不快感が強い。
「漆原さん、心配だなぁ……次、顔合わせた時も殺し合いとかにならなきゃいいけど……」
余裕たっぷりで、いつも自信満々といった表情で人を小馬鹿にしているヤタノも、見る影もなかった。
鈴は、「戯装」の過剰使用によるもの、と言っていたが、それ程までに「エゴ」を倒していたのか。
実際に見ていないのるんには判断が出来ない。それに、過剰使用での副作用が重いのでは、遠方への探索も不可能だ。
(過剰使用を避けるべきなのか、他に何か対策があるのか……)
まだまだ、あの世界については知らないことも多い。
回数を重ね、何度も「ヘルヘイム」には足を運ぶ必要がありそうだ。
(というか、そもそも「ヘルヘイム」ってなんなんだろ)
鈴やリア、なしろも知らないという不思議な世界──「ヘルヘイム」
中は現実世界と酷似しているが、「エゴ」と呼ばれる化け物が跋扈する世界。
そこの月が紅く輝く時、「ヘルヘイム」へと人が堕ち、「エゴ」によって殺される。
今まで色んな人から聞いた情報を纏めると、そういう事になる。
防ぐ方法は、紅い月の日に、堕ちた人を救うしか無い。自分がそうされたように。
「狂っていたつもりも、記憶もないボクが堕ちたとなると、狂うってのも、案外違うのかもなぁ」
あの時の記憶は鮮明に覚えている。
なしろと会話して怖くなったのるんは、オカルト研究部室から飛び出した。
その後、フラフラと宛もなく彷徨っていたら、知らない間に「ヘルヘイム」に居た。
(……あれ?)
自分で考えていてなんだが、記憶が鮮明と言う割には随分と朧気だ。
そもそも、なしろが居たあの部屋も、本当にオカルト研究部室だったのだろうか。
今日もさなに用があって「文化部棟」を歩いていたのだが、そんな場所は見つからなかった。
「うーん……疲れてるのかな。今日は帰って早めに休もうかな」
身体は酷く疲れている。心も随分と消耗してしまった気がする。
硬いソファでは大して疲れは取れないが、それでも休むことに意味がある。
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お風呂を済まし、簡単に夕食を済ませると、スマホがブルブルと震えている。着信があるようだ。
「この時間に電話?……誰からだろ。……あ」
宛先は、玉兎鈴。連絡先を交換はしていたので、連絡は何時でも取れる様にはなっていた。
正直、寝てしまいたいところではあるが、出なかった時のことが怖いので、出よう。
「もしもし、結代です」
『こんばんは、夜分遅くに。玉兎です』
声色はいつもどおりの彼女だ。こんな時間にどうしたのだろうか。
「どうかしましたか?」
『いえ。今日は色々ありましたから、聞きたいことも多いかと』
わざわざこちらを気遣って電話をかけてきてくれていたらしい。
時間で言えば、後一時間少しで日付が変わる頃合いだ。ならば、お言葉に甘えよう。
「じゃあ……最初に、漆原さんは大丈夫そうでした?」
『あぁ、案の定。攻撃は仕掛けてきましたが、余程取り乱していたのでしょう。攻撃を避けるのは、そこまで難しいものではありませんでしたよ』
その割には随分とボロボロだった気がするが、深くは追求しないでおこう。
範囲攻撃と殲滅行動が、得意な双機銃を使っていた彼女を相手に、被弾しないのは不可能だ。
「「戯装」の過剰使用による副作用って言ってましたけど、そんなにすぐ、副作用が来るんですか?」
『難しい質問ですね……。結局はどれだけ使ったかと、経験値が物を言うので。それに、初めての展開で相当数戦ったこともあるんじゃないでしょうか。あの数を、ほぼ一人で倒していましたから』
あの場に居た「エゴ」の数は、およそ十匹程度だった。人型に獣型、鳥型も居た。
初戦闘でそこまで戦える方が凄いんですよ、と鈴は言っていたが、当然だろう。
「戯装」を出すことですら、容易では無いと言われていたのに、戦闘まで一人でこなしていたのだ。
「なるほど、文字通りの天才というやつですね。いつも漆原さんが言っていた」
『自分に言い聞かせて、そう思い込んでいるだけのような気もしますけどね』
彼女のことも深くは知らないが、それでも、ひたむきに努力したが故の才能だと、自分は思う。
そういう点では、天才と言っても差し支えないとは思うが、きっと、彼女はそうではないのだろう。
(きっと、あの反応も、ボクが「戯装」を一回で出しちゃったからなんだろうし)
自分が「戯装」を展開した後も、凪織はリアの庇護下でひたすら、展開しようとしていたと聞く。
結果、展開出来ず、リアに散々煽られ、怒りの末に拳を地面に打ち付けて、怒りを抑えていた。
リア自体が、この組織の癌なんじゃないかなぁと、思ってはいるが、口には出さずに居る。
のるんが返す言葉に悩んでいると思ったのか、今度は鈴から質問が飛んできた。
『実際問題、貴方は「ヘルヘイム」のことをどう思います?』
「どう……とは?」
のるんは、言葉に困る質問をされ、困惑する。未だ入って数日程度なのだ。
的確に彼女を満足させられるような考えなど持っていない。
だが、強いて言うのであれば……。
「でも、どうしてあんな世界があるのかは疑問に思いますね。自然に出来たとは思えませんし」
『そうですね。何時からあるのかすら、我々には分かりません。それを知る為に探索できる戦力も、今まではありませんでした。ですが、こうして漆原さんも、結代さんも「戯装」を獲得することが出来ました』
鈴の言葉に熱が籠る。冷めやらぬ興奮や、昂りが感じられる物言いだ。
自分が「生徒会」の面々に加わるなんて、一言も言っていないのに。
今の生徒会は、危険な要素が随分と多い。言ってしまえば、人間関係が不安定過ぎる。
鈴は兎も角として、特に危険なのはリアとヤタノの二人だ。
下手に近づきすぎると、火傷では済まない気がしてならない。
「これからは、本格的に探索もしていって、何か成果を得られるといいですね」
『えぇ。その為には、貴方の力も必要なのです。勿論、無理強いはしません。常時所属ではなく、探索の時のみの臨時要員で構いません。お力を貸しては頂けませんか?』
鈴は、のるんの想像通り、生徒会への勧誘をする。やはりそういう方向に持ってきた。
確かに、のるんはこれから、力を付けていく上で、何処かの組織に属することは必要不可欠だ。
と、言うのも、現状、のるん単独では「ヘルヘイム」へ侵入する手段が無い。
侵入手段だけ確保できれば、その後は単独や他に信頼の出来る面々と探索、という選択肢もある。
(でも、今ここで、生徒会の所属になってしまえば、脱退する時に禍根が残る可能性が高い)
それは避けたい。生徒会の面々とは、それなりの関係値で居たい。
仲の良い友人として、あちらの世界のことを、相談できる戦友として。
「有り難いご提案ですが、ボクも星失や、零明高校、そして「ヘルヘイム」の事をよく知りません。それに、まだ学校生活にも慣れていませんから、常時活動は難しいと思います。ですので、タイミングが合った時の臨時要員程度に思って頂ければな、と」
のるんの解答に、幾ばくかの空白を開けた後に、鈴は少し不服そうな声色で返事をする。
『……分かりました。今はそれで構いません。ですが、いつかは共に戦う仲間になってくれると、非常に心強いです』
「えぇ。ボクもそう思っています。今後も、よろしくお願いいたします」
その後も、寝る直前まで、鈴と世間話をしてから、電話を切って、のるんは眠りについた。
鈴との仲が少し深まった。




