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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
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#12 「侵入」



 4月6日月曜日、朝七時頃。アラームを鳴らすこともなく、のるんは硬いソファで目を覚ます。

 気がつけばもう朝だ。案の定、身体はあちこちが痛い。こんな体たらくで大丈夫だろうか。

 眠い目を擦り、部屋着から制服に着替えて、のるんはテレビの電源をつける。


 『4月6日月曜日、朝のニュースをお伝えします。今週は雨が降る影響で、花粉が……』


 テレビで流れてくることに、特に目新しい情報はなさそうだ。平和である。

 強いて言うのであれば、この時期には珍しく雨がそれなりに降るらしい、と言うことくらいだ。

 眠気覚ましのインスタントコーヒーを飲んでいると、ガチャリと玄関の扉が開かれる。

 

 「やほやほ〜おはよう!のるんちゃん!」

 「おはよう〜、土日ってあっという間に終わっちゃうんだねぇ」


 そんな世間話をしながら、のるんとさなは、のほほんと登校する。

 土日はいろいろな友人と過ごし、一人の時間を確保できないくらいには充実していた。

 前の学校では得られなかった経験を胸に、のるんは辺りをキョロキョロと観察している。


 (やっぱりまだ慣れないなぁ。何にもないや。あるのは畑とか田んぼとか)


 同級生達も、瞼が重い者だったり、欠伸をしながら自転車を漕いでる者が大半だ。

 ふらふらと自転車を漕いでいた男子生徒は、畦道を通っていたが、ハンドル操作を誤り、田んぼにツッコんでいた。

 助けるべきか悩んでいたのるんは、さなの肩をトントンと叩き、男子生徒の方を指差す。

 

 「ね、ねぇ。なんか田んぼに吸い込まれてった人いるんだけど、助けなくて大丈夫かなぁ?」

 「ん?……あー」


 さながのるんの指を指した方向を見ると、明らかにバツが悪そうな表情になる。


 「別にいいよ。ほっとこほっとこ。どうせそれに……」

 「だいじょうぶかあああああ」


 何処からか、大声を上げながら聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 後ろを振り返ると、朱雀が麻縄を片手に男子生徒の方へと駆け抜けていく。

 朱雀を視認したさなは、やっぱり……と半ば呆れ顔で頭を抱えている。

 

 「あんな感じで四獣天くんが救助活動をするから大丈夫だよ、#朱雀救助中って奴」

 「あ、あはは……。じゃあ、そっとしとこっか」


 懸命な救助活動を横目に、のるん達は予鈴が鳴るまでに、辿り着けるように足早に向かっていった。

 

 ________



 今日の授業も終わり、クラスメイト達は部活をするべく、教室を出て行っていった。

 さなもどうやら、今日は槍術部の活動があるらしく、軽く話してから部活動をするべく、去った。


 (ボクも何か、部活に入った方がいいのかな)


 確か、何処かで中途入部は五月から可能だという話を聞いた。

 まだ四月の頭なので、もう少ししてから部活動を探してみようか。


 (っと、今日は約束があるんだった)


 のるんは荷物を片付けて、生徒会室に向かう。

 足早に階段を登り、少し息を切らしながら生徒会室の扉を開くと、そこにはもう全員揃っていた。

 露骨に嫌そうな顔を向けているリアをなるべく視界から外し、のるんは鈴にペコリと頭を下げる。


 「すみません、お待たせしました」

 「いえいえ。全然問題ありませんよ。椛野さん、那雲さん、漆原さんも、準備は出来ましたか?」


 鈴の言葉に、三人の表情は、緊張で強張ったようなものに変わる。

 入ったことのない凪織やヤタノはまだ分かるが、どうしてリアまでそんな表情になるのだろうか。

 彼女達の関係性や間柄は未だ分からない事が多い。いつか所属するのなら、知る時が来るかもしれない。


 「結代さんも、準備は出来ていますか?」

 「はいっ。ボクは大丈夫です」


 のるんの言葉に、鈴は微笑を称えて頷く。

 後ろから舌打ちが聞こえてくるが、聞こえなかったことにしておこう。


 「では、行きましょうか。「ヘルヘイム」と此処を接続しますから、着いてきて下さいね」


 鈴は、そう言うと何も無い壁へとゆっくりと歩みを進め、手を伸ばす。

 すると、先程までは何もなかった場所に、赤黒いヒビ割れのようなものが生まれる。 


 「こちらです。先導しますから、距離を離さないように」

 「「了解」」


 鈴の先導の元、凪織とヤタノは罅割れた世界への入口に入り込んでいった。

 残されたのは、のるんと殿を任せられていたリアの二人きりだ。

 険悪な空気から逃げようと、そそくさと入ろうとすると、リアに声を掛けられる。 


 「……どうして」

 「はい?」


 小さな声を聞き漏らしたのかと、のるんは振り返ってリアを見る。

 泣きそうな表情と、怒りが混ざったような感情を剥き出しにしている彼女が拳を握り締めていた。


 「……何でも無いわ。早く行きなさい」

 「わ、分かりました」


 何だったのだろうか。この世界においての彼女は、一体何者なのだろう。

 誰に聞いてもきっと分からないその答えを知ることが出来たのは、随分と先の話のような気がする。



 __________



 見覚えのある光景。見た目が星失高校そのままなのに、雰囲気が異常で異質になっている。

 入ってきた場所が生徒会室だったからか、「ヘルヘイム」で辿り着いた場所も生徒会室のように見える。

 赤と黒で世界が塗り潰され、あちこちが血痕で彩られ、周囲には死臭が漂っており、不快だ。

 前に来た時は、赤黒い空に浮かんでいた紅い月も、今では、嘘みたいに黄色く輝いている。

 此処へ来るのは二度目だが、それでも慣れる気がしない。

 のるんはケロッとした表情で見ていたが、凪織とヤタノは目を丸くさせ、口元を抑えていた。


 「わっ……なんですか、此処……見た目は生徒会室なのに、本当に異世界みたいデス……ね」

 「わぁ〜くっさぁ♡死後、数週間経った油ギッシュなオッサンみたいな匂いする〜♡」


 なんでそんな匂いを知っているのかを、のるんは尋ねることが出来なかった。

 本当は物凄い気になる。平穏なスローライフを送ってて、そんな匂い何処で嗅ぐのかと。

 血を見ても物怖じする様子もなく、ヤタノは付近に付着していた血を、指でなぞって天に掲げる。

 

 「ふ〜ん?これ、血はマジモンぽいけど、人の物じゃないね。「エゴ」って化物のものかな〜?」

 「ど、どうしてわかるんでぃ……噛ンジャッタ、……なぁんなぁん」


 いい歳した女子高生が舌を噛み、奇妙な鳴き声を上げる中、ヤタノは言葉を続ける。

 人差指と親指に付着した血液は、指を離しても尚、液体は途切れず、弧を描いて繋がっていた。


 「ワンコちゃんが何処まで生物学齧ってるのか知らないけど、そもそも、異常に粘度高いし、人間の血液は遅くとも参拾分あれば、凝固しちゃうの。でも此処の血はずっとドロドロとしてるし、流動性もない。常識的に考えたら、人のものとは考えにくいかな〜」

 「物知りだ……、いや、えと。別におバカキャラだなんて、思ってませ!?やへへ、いふぁいふぇふぅ……わふぅ」


 蟀谷(こめかみ)に青筋を浮かべたヤタノは、引き()った笑顔で、凪織の頬を引っ張っている。

 涙目で痛いですぅと言っている凪織の泣き声が生徒会室内に響いている。

 

 (二人とも仲良いなぁ。……ふと思ったけど、此処にいても化け物は来ない、のかな) 

 

 のるんも、許可を得てから生徒会室を散策していたが、この部屋にも血は床や壁にぶち撒けられてはいるものの、「エゴ」の呻き声や気配は外からしか感じない。


 (あの時は、何処も彼処(かしこ)も気持ち悪い感じがしたけど……、此処だけは危なくない?)

 

 「そういや、カイチョーは此処のこと、「ヘルヘイム」って呼んでたけど。カイチョー達がそう呼んでるだけ?」


 いつの間にか、ボディアーマーのような物を着込んでいた鈴が、ヤタノの問いに考え込む仕草を見せる。

 良く見てみれば、リアも近しい物を装備していた。やはり、あれらと事を構えるつもりなのだろうか。


 「此処を「ヘルヘイム」と呼称し始めたのは、とある噂の影響なんです。「月が紅く染まると、人は狂い。死後の世界に誘われるだろう」そんな話は、聞いたことはありませんか?」

 「あ〜。そう言えば、前に、星高ではそういう奇妙な話があるって、聞いたことある気がするぅ〜」

 「ボクもあります……。でも、誰から聞いたんだろ?入学直前に何処かで?……わふぅ」


 のるんは、物凄く聞き覚えがある。なんなら、昨日もその話を彼女から聞いたばかりだ。

 自分が標的だったのかも知れない。狂っている可能性は今だって拭えないのだと。


 (ボクは……、きっと狂ってるんだろうなぁ)

  

 鈴は時計を見ながら、ヤタノ達の問いに、言葉を続ける。


 「実際の所、噂の出処は特定されていません。それに、「現実」では月が紅くならずとも、人は死んでいますから。戯言程度にしか思っていないのでしょう」

 「確かに……来栖零士、だっけ?確かに、前の日に月が紅かった、なんて情報は何処にもないもんねぇ〜。あ、此処じゃスマホ使えないの〜!?だる〜」


 雑談をしていると、時計をずっと見ていた鈴は、よし、と小声で呟くと、のるん達三人を見る。


 「此処に来てから十分経過しましたが、心身に異常は見られますか?」

 「ぼくはなんともないかな〜わんこは?」

 「ボ、ボクもなんともありませんっ、びしっ」


 鈴は続いて、凪織を見たが、彼女は首を横にブンブンと振り、何故かドヤ顔でサムズアップをする。

 こちらを見ている鈴の隙を付いて、ヤタノは凪織のお尻を蹴飛ばしている。


 「結代さんは……元気そうですね。少し血の気が引いているようにも見えますが……」

 「少し考え事をしていただけです、大丈夫です」


 考えれば考える程分からなくなる。であれば、もう考えない方がマシだ。

 のるんの言葉に、深く踏み入れなかった鈴は、改めて、三人を見据える。


 「今から、「エゴ」と戦うための武器、「戯装」を展開する練習をしてみましょう」


 恐らく、鈴やリア、なしろが持っていたアレのことだろう。自分にも出せるだろうか。

 



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