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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
12/34

#11 物凄く聞き覚えあるんだけど


 

 今日も学校は休みだ。幸いなことに、今日は朝から凪織と約束をしている。

 朝食を食べてから、のるんは約束の場所に向かうことにした。

 朝から沢山来ているRAINから視界を逸らし、インスタントコーヒーをぐいっと飲み干した。


 _________


 星骸(せいがい)市──バッティングセンター。


 星失市の隣市である星骸市へは、バスや電車で向かうことが出来る。

 市内では身体を動かす場所がないということで、凪織の希望も有り、スポーツ施設に行くことに。


 「わ〜、久々に来たけど、やはり、此処は穴場……、ふふ、凪さんの目に狂いはなかった……」


 随分とスポーティーな格好をしているとは思ったが、どうやら今日一日は、体を動かすつもりらしい。

 此処にはバッティングセンターから、ボウリング、ビリヤード、ボルダリングと様々なものがある。


 (ボク、あんまり体力もないし、運動神経悪い方だけど……着いていけるかな)


 普段、のるんはこういう所に来ないし、来たがるような友人も居なかった。

 たまには身体を動かすのもいいだろうと、動きやすい格好で来ている。

 靴も、いつもならハイカットスニーカーだが、今日は普通のスニーカーにしている。


 「のるんさんのるんさん、のるんさんも200km/hの世界に踏み込んでみませんか?……ふふ」

 「あのねぇ……、まぁ……やってみるけどさぁ……」


 正直を言うと、凪織が200kmクラスをばかすか打っている間に、のるんは70kmで苦戦していた。

 先程、最後の一発でようやくヒットを打てた程度レベルなのだ。打てるわけがない。

 凪織が出た打席に、のるんは深いため息を吐きながら、入る。


 「ピッチャーの絵柄……超怪獣ファフニルの口なんだ……」

 「ふふ、そこを凝るのが、人気店のヒケツ!他は有名投手とかなのに、これだけ、ビームなのです」

 

 当たれば一発お陀仏、という点では確かに間違いないのかも知れない。

 運動神経悪いのるんからしてみれば、なんてものを作ってくれたんだという気持ちしか沸かない。

 しかし、バッターボックスに入ってしまえば、打つしか無い。三発勝負の1セットゲームだ。

 一球目、ファフニルの口から、本当に光線のように射出された弾は、本当に弾丸のようだった。


 「え……、音を置き去りにしなかった……?」

 「ふふふ、してます、してますともっ!超高速の咆哮は、何者にも打てないのです!……わふぅ」

 

 ※全然音を置き去りにしていません。外でドヤ顔している凪織は普通に打っていました。

 

 此処だけ、球が当たっている場所が随分とすり減っている理由がよく分かる。

 あんな球が当たり続ければ、あそこまでボロボロになるのも頷ける。

 二球目は、バットを振ることは出来たが、凪織曰く、数秒遅いとのことだ。なんとなくムカつく。


 「のるんさん、奴の咆哮は所詮、ストレート。後はタイミングですよ、タイミング」

 「見えない球をタイミングとか言われても……、あとやっぱり、あれ咆哮なんだ」


 ツッコミを入れてしまったが、のるんは最後の一球に集中する。

 見えない以上、もはや運ゲーにも等しい所業だが、先程の五秒遅いを参考に、早めに振ろう。


 (あと、何かの拍子で那雲さんの顔面に飛ばないかな。後方親方面されてるし)


 ファフニルがチカチカと光り、射出しますという合図が来た時には、もうバットを振り始める。

 恐らく、このスピードで振っても、間に合わない可能性だってある程に、奴の球は早い。

 渾身の力を込めて、のるんはバットを振るうと、凄まじい力がバットを通じて腕に伝った。


 (わっ、返しきれない……!)


 のるんの手放したバットは、ファフニルの咆哮と一緒に、後ろのドヤ顔凪織の方へと飛んでいく。

 防護用のネットが間にあったが、バットが貫通し、凪織の顔面へと吸い込まれていった。


 「ぶべらっ!」

 「あ、そこのネットって貫通するんだ……。だいじょうぶ?」


 バットが顔面を強打したにも関わらず、凪織は鼻血一つ出さずに、いたた、と顔を擦っている。

 この子のフィジカルどうなってるんだ。普通なら救急車で搬送ものなのに。


 「この程度、漆原さんのシゴキに比べたら……、なぁんなぁん」

 「あ、それ鳴き声じゃなくて、泣き声なんだ……」


 その後も、凪織のバカみたいな体力に振り回されながら、身体を動かした。

 たまにはこういう事をするのも良いだろう。少しだけ体力が増えた気がする。


 「今日は楽しかったですっ!わふっ、また身体を動かしましょっ」

 「う、うん。でもボルダリングはもういいかな……」


 既に体の節々が悲鳴を上げている。明日は全身筋肉痛になってる気がする。

 「ヘルヘイム」に行く約束をしていたが、大丈夫だろうか……。

 凪織と、星失駅で解散し、のるんは一時、帰宅し、夜の約束に備えてシャワーを浴びる。

 夜はなしろに呼び出されている。ただ、指定された場所は、非常に記憶に新しい場所だ。

 

 「また20分掛けて山に登るのかぁ……はぁ……、あ゛あ゛身体が痛い……」



 ____________


 なしろに指定された場所は、のるんの家から歩いて二十分くらいの高台だった。

 昨日も行った場所なせいで、既視感しか無い。二日連続、空を眺める事があっていいのだろうか。

 折角シャワーを浴びたのに、なしろとの話が終わったらもう一回お風呂に入らなければならない。

 のるんがはぁはぁ言いながら、目的地へと辿り着くと、そこではなしろが空を眺めていた。


 (あー……、もうすんごい見覚えがある光景。昨日も同じシチュエーションだったんだよね)


 「お待たせ、待たせちゃったかな?」

 「そんな事無いわ。わたしも今来た所だから」


 なしろはベンチに座り、のるんに座れ、と手招きをしている。

 凄い、此処まで同じ流れになると、もう笑うしか無い。心の中では既視感で頭が一杯だ。


 「自宅で見るより、物凄く綺麗に見えるね」

 「ふふっ、そうでしょう?わたし、此処で見る星が好きなの」


 やっぱりそうかぁ、と昨日の鈴の会話を思い出しながら、心の中で葛藤する。

 普通、連続で別の人と星を見に来て、その二人の会話がシンクロすることなど早々ない。

 昨日の今日でそういった話を聞いたせいで、のるんはなんともいたたまれない気持ちになっている。


 「昔は一緒に見る友人が居たのだけれど、今は貴方と見れて嬉しいわ」

 「そ、そっか。一人で見るより、誰かと見た方が、二倍綺麗だもんね」


 なしろは、えぇ、とだけ言うと少しの間、沈黙の時間が流れる。

 のるん自身はこういう時間に抵抗を感じないが、なしろは大丈夫だろうか。

 ふと、彼女の方を見ると、視線があってしまった。なんだか、気恥ずかしい。


 「でも、貴方を救えて良かったわ。あの日、「ヘルヘイム」の月が紅かったでしょう?きっと、標的は貴方だったんじゃないかしら」

 「そう言えば……、そんな事言ってたね。でも、ボク。狂ってたのかなぁ?」


 意識もはっきりしているし、記憶も混濁していない。

 狂っていたかという問いに、首を横に振ることにはなりそうなものだが、実際はどうだったのだろう。 

 

 「どうかしら、わたしには分からないけれど。でも、なにかしら堕ちる理由があったのかもね?」

 「あはは……、心当たりはないんだけどなぁ」


 無いことはない。夢の中の話だってそうだ。どうして、あんな夢を見たのか。

 どうして、夢の中のキミと、現実のキミは、いつだってそんな顔をするのか。

 なしろの顔を見る度に、胸がざわざわするのは、どちらののるんなのかすら、分からない。


 「まぁ、いつかわたしを信用できるようになった時に、話してくれればいいわ」

 「そう……だね。いつか、キミに話せる時が来れば……その時は」


 そんな日が来るのだろうか。ざわざわする心が、より揺さぶられる。

 優しい表情でこちらを見ないで欲しい。その視線はきっと、ボクに向けていいものではない。


 「えぇ、待っているわ。ふふ、こういう待たされるのも、たまには悪くないかもね」


 二人は、もう暫くの間、世間話をし、夜が更けてきたので、その場で解散した。

 

____



 帰宅後、RAINを確認すると、凪織となしろからお礼のRAINが来ている。

 他にも来ていたものと一緒に返し、のるんは硬いソファに身体を預けた。

 どっと疲れた身体は、すぐにでも意識をまどろみへと誘ってくれる気がする。


 「明日、明日か……。もう土日が終わっちゃうんだ」

 

 明日は、鈴達と一緒に「ヘルヘイム」へと足を運ぶことになっている。

 わくわくよりも、不安が勝る。平穏な日常や、学校生活とは無縁になることだろう。

 明日も、さなが迎えに来る手筈になっているので、目を瞑り、のるんは眠りへと落ちた。

 




 凪織との仲が少し深まった。

 なしろとの仲が少し深まった。

 

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