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Madness Crescent  作者: のるんゆないる
第二章「「ヘルヘイム」に攫われて」
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#10 気の休まらない休日に



 今日はこの街に来て、初めての休日だ。

 特に予定はない。だが、昨日一昨日と幾つか誘いを受けている。

 誰かと過ごすも良し、一人で周辺を彷徨くも良し。今日明日は自由に過ごせる。


 (でも、折角誘って貰ってるし、誰かと一緒に行ってみようかな)


 RAINをぼーっと眺めてから、熟考した結果、さなを誘って、近くのショッピングモールに行くことにした。

 電話でさなを誘ってみると、嬉しそうな声が電話越しに聞こえてきた。

 まだ行ったことのない場所だ。さなに連れられながら、どんな物があるのか知る機会には丁度良い。

 約束の時間まで、少しだけ時間がある。クローゼットに仕舞っていた春服を取り出し、身を包む。



 ________________


 午前中──星失市、ショッピングモール「フルール」


 活気の少ない星失市ではあるが、此処だけはどうやらそれなりに賑わっているらしい。

 服屋に、食品コーナー、屋上にはミニ遊園地もあるせいで、家族連れが特に多い。

 ゲームセンターには昔ながらの遊戯機が揃っており、マニアにとっては眉唾物だろう。


 (あんまり詳しくないボクでも、昔の機械だなぁって分かる物が多い……)


 対して、新しい物があまり無いため、最近の高校生には余りウケが良くないのか、大人が多い。

 さなは、少し中を覗いた後にすぐに何処かに行ったが、のるんは少しだけ興味がある。

 ゲームセンターが好きそうな友人がいれば誘ってみようか。

 さなに断りを入れて、のるんは一人でゲームセンターに入ることにした。


 「ん、あの人、凄いプレイしてる……。プロゲームセンタープレイヤー?なのかな」


 のるんが気になったのは、リズムに合わせて矢印を踏むゲームでリズムを無視して踊っている人物。

 灰色の髪を短く纏め、昔流行っていたリバイバルコーデに身を包んでいる綺麗な女性だ。


 (す、凄い。全部間違ってるのに、全然気にしてない……。でも、綺麗だなぁ)

 

 画面上でミスを連発しているのに、何ら気にすること無く、自分のしたいように身体を動かしている。

 踊り終えた彼女は、額の汗をタオルで拭うと、近くにおいていた鞄から飲み物を取り出す。

 灰色のまつ毛から察するに、ハーフか外国人なのだろうか。つい見惚れてしまっていた。


 「うん?なんだい、僕の踊りに魅了されたのかい?……此処らじゃ見ない顔だね」


 件の女性から、声を掛けられてしまった。低めのハスキーボイスなのも、またメロい。

 いきなり心臓がドクンドクンと喧しく騒いでいるが、応えない訳には行かない。

 のるんは、咳込み、少しだけ呼吸を整えてから、女性へと近づく。


 「最近此処に引っ越してきたんです、随分と楽しげに踊っていたので、つい見ちゃいました」

 「あはは、僕の魅力はこんなもんじゃないさ。好きなだけ見ていくと良い。「狂兎(クレイジー・ラビット)」」


 く、くれいじーらびっと?とのるんは目を丸くさせながら、はっとする。

 この顔に、この物言い。夢の中で見た記憶がある。もしかして、彼女もそうなのかも知れない。

 当時は「子猫ちゃん(リトル・キャット)」と彼女のことを呼んでいたが、恐らく同一人物の可能性が高い。


 (知らない振りしとこ、実際知らない人だし)


 のるんがポカーンとしていると、周囲に人が集まってくる。

 見るからに、高校生や中学生の女子ばかりだ。どうしていきなり囲まれるのだろうか。

 あわあわしていると、急に女子達が黄色い声援を、女性に向けて投げつけ始める。


 「きゃー!!茶々丸様よ〜!ファンサしてぇ!!」

 「貴方のお陰で、私、百合に目覚めましたの!!」


 聞き取れるだけでも、十数人が色々な言葉を茶々丸と呼ばれる女性に投げかけている。

 やはり、彼女は茶々丸だったらしい。甘いマスクと確かな腕、鋭い洞察力を持っていた仲間だった。

 夢の中ではカリスマモデルをしながら、鍛冶師をしていた異彩中の異彩。


 (というか、なんでそんな人が田舎のゲーセンでダンスしてるのよ……、レッスン普通にしなよ)


 心の中ではツッコミを入れながら、のるんは周囲の観客に揉みくちゃにされながら、様子を見ていた。

 だが、あまりに茶々丸が我関せずと言った様子を取っていたからか、次第に矛先がこちらに向く。


 「というか、アンタ、誰?アタシ達の茶々丸様と、直々に会話してたけど」

 「あ〜、こいつ。転校生よ、星失高校に4月から来た……確か結代のるんって奴」


 さすが田舎町、情報が出回るのも早い。自分の素性など即座にバレてしまったらしい。

 星失高校、という単語が聞こえた辺りで、茶々丸はのるんの手を取って、自分の唇にそっと付けた。

 その仕草だけで、ゲームセンター内に嬌声が聞こえるのだが、のるんは別の叫び声を出しそうになる。


 (や、やめて!ボクの平穏なスローライフが!瓦解していく音がする!!)


 「ヘルヘイム」や「エゴ」といった、超常現象に巻き込まれている時点で、既に叶わない話だ。

 心の中で、叫び声を上げているが、ゲームセンター内の熱狂に、掻き消されている。

 喧騒の中、茶々丸はのるんに何かを握らせ、ウインクをする。一々、様になっていて腹立たしい。


 「基本的に休みの日は、此処で踊っていることが多いから、気が向いたらまたおいで」

 「毎秒通いますぅ〜!」


 のるんに向けた言葉だったような気がしたが、自分が反応する前に取り巻きが黄色い声を上げる。

 一先ず、この場を後にしよう……。さなを待たせているので、長居はどちらにせよ出来ない。

 熱狂のゲームセンターを出てから、のるんはふぅっと息を吐いていると、前の方から凄い圧を感じた。


 「人を放っておいて、随分と楽しそうだったね〜?のるんちゃん〜?」


 蟀谷に青筋を浮かべ、笑っているはずなのに笑っていないさなの顔は、とても怖かった。


 「ご、ごめん。まさか、あの人が有名人だなんて知らなくて……」

 「あれでも、カリスマモデルとかだから……、テレビとか見たこと無い?」


 全く見た記憶がない。雑誌も読まないので、世俗に非常に疎いのだ。

 話を聞けば、彼女に逢いに来るためだけに、此処に来る者も居るくらいには人気らしい。


 (そう言えば、さっき何か渡されていたような……)


 貰った紙を開いてみると、そこにはRAINのIDが記されていた。

 後で連絡してこいという意味だろうか……。空いた時間に連絡してみよう。

 

 「うーん、無いかなぁ……。時間も大分食っちゃったし、黒崎さんのおすすめのお店、行かない?」

 「まかせんしゃい!!」


 その後は、フルール内を色々行ったり来たりしていた。

 少しだけ詳しくなれた気がする。ただ、もう少しゆっくり見て回りたい気もする。

 また時間のある時に、顔を出してみるとしよう。


 「んじゃ、待ったね〜!」


 さなと別れ、のるんは帰路に着く。家に着き、RAINを見て、はっと思い出した。

 夜の時間に、鈴が会いませんか、と連絡を貰っていたのだ。

 特に予定もなかったので、二つ返事で承諾してしまっていた。

 軽く軽食を食べてから、約束の場所へと向かおう。


 _________

 

 

 鈴に指定された場所は、のるんの家から歩いて二十分くらいの高台だった。

 近くにある低めの山の山頂にある場所だ。お風呂入ってから来るんじゃなかったと後悔している。

 のるんがひぃひぃ言いながら、目的地へと辿り着くと、そこには鈴が一人で空を見上げていた。


 「おや、こんばんは。すみません。こんな時間にお呼び立てして」

 「ん〜ん、全然大丈夫ですよ。此処、星が凄い綺麗に見えますね」


 近くのベンチに二人で座り、鈴と一緒に空を見上げる。

 自宅から眺めていた星空も綺麗だったが、今居る場所が少し高いお陰か、より輝いて見える。


 「ここ……昔、仲の良かった友人が好きだった場所なんです。星が綺麗に見えるからって」

 「今は仲良くないんですか?その人と」


 聞いてはいけないかな、とは思ったが、つい聞いてしまった。

 過去を想うような表情で、鈴が黄昏れていたが、なんだか物寂しそうに見えたからだ。


 「どう、なんでしょうね。私は良き関係でありたいと思いますが、相手はそうは思わないでしょう」

 「また、仲良くなれると良いですね。その方と」


 どうやら、故人ではなさそうだ。

 才色兼備文武両道八方美人と呼ばれた生徒会長でも、そういった悩みがあるのかと、意外に思う。

 立場上、(しがらみ)は多そうだとは思っている。関わる人も選ばされているのだろう。


 (誰のことかは分からないけど、陰ながら応援していよう。ボクに出来ることなら手伝うし)


 そのまま、二人はポツポツと雑談をし、夜が更けてきたので、その場で解散した。


 _________



 帰宅後、RAINを確認すると、さなと鈴からお礼のRAINが来ている。

 他にも来ていたものと一緒に返し、のるんは硬いソファに身体を預けた。

 明日は、昨日誘いが来ていた凪織と、なしろとのお出かけの約束を取り付けている。

 前の学校では土日の両方に、誰かと遊びなんてことはしなかったせいで、すぐに眠りに落ちた。




 さなとの仲が少し深まった。

 鈴との仲が少し深まった。

 芥川茶々丸と「顔見知り」になった。

 


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