別れの炎
遅くなってしまって申し訳ないです。
『いや、魔力を持たない一般人と同じ、とはなるまいな……』
「それ、どういう、事?」
一度目の衝撃にとどまらず、ルナの放った言葉はさらにボクの心へと突き刺さる。
『魔力を持って産まれた人間は魔力を体内に持っておらぬと昏睡する『魔力切れ』という症状が起こるであろう? そんな人間が魔力の器をなくせば、常に魔力切れ状態になり、昏睡状態から植物状態になるという事じゃ』
昏睡からの植物状態。もう二度と目を覚まさなくなるという事?
「そんなの……絶対にやだ……っ!」
どうにかしてそんな状態になるのを防ぐ事が出来るのかと考える。
壷が壊れたならば直せば良いというが、ガラスを同じように直すような事なんて、時でも戻せない限り到底無理では無かろうか。
「時……あ、そうだ。母さんに言えば!」
『無理であろう。白夜は破壊の神じゃ。時を戻した程度ではまた自然と破壊されるだけじゃ』
「…………じ、じゃあ。あたらに壷を……。魔力の器を作るのは?」
『それならば出来そうじゃが、そんな精密な作業、リクに出来るのか?』
「う、それは……」
魔力の操作に不器用なボクだ。おそらく、そんなのは一夜ですら考えても出来そうにないような気がする。
それでも、イメージする事は多分、出来る。
特異魔法。ここで使わなくていつ使えば良いというのだ。ボクのわがままかもしれないが、それでもユウも助けたい。
この戦いに、死者はなるべく出したくはない。いや、出てほしくない。
早くなる心臓を殺しながら、魔力を集中して行くと、体を抱き起こしている手に、そっと手がかぶせられる。
そして、ユウの小さな唇が少しだけ開かれた。
「お兄ちゃん……なんで、来ちゃったの……?」
「え?」
「お兄ちゃんが、来ちゃうと……だめ、なのに……」
「な、何? それって、どういう事?」
ユウはそれ以上は言う事が出来ず、静かに目を閉じた。
「ユウ!? ユウ! しっかりして!」
『りく。おそらく、『魔力切れ』すんぜんのじょうたいで、ねむりにつきはじめたのかと』
「な!? 魔力の器、それをユウの中に作らないと!」
植物状態というのは、ほとんど死んでいる同然ではないだろうか。未だ目が覚めて居ないかもしれないシーヘルの事もあって、助けられる事ならば助けたい。
ボクはどうにかして、その保有するための器を作るべく、イメージをし、魔力を流す。
でも、どこに作れば良いかなんてわからないし、どこにあったかもわからない。
とにかく、人の中心。その近くに作る事に一生懸命になる。
『リク……』
『人の魔力の器を作るなど、前代未聞の出来事じゃ。妾にだって出来ぬ。それが出来るとは妾は』
「うるさい! これはボクの勝手かもしれない。だけど、やらなきゃユウが!」
決意の叫び、とでも言うだろうか。せっかくユウとの間に秘密がなくなったのだ。その生活が、一年未満で終わるなんて、納得ができる訳が無い。
『だけど、リクが早く塔の最上階に行かないと、世界が滅ぶかもしれないんだよ? それで良いって言うの?』
「!!」
込める魔力が一瞬緩む。イメージも崩れ、また練り直さなければいけなくなる。
『魔力の器を作るのは後でも出来る。別に死ぬわけじゃないんだから、今すべき事を見つめるべきだとあたしは思うよ。リク』
頭の中で響いたその言葉は、ツキの言葉。
流していた魔力が、凍った。そんなふうに感じるほど、ツキの言葉によって、現実に引き戻された。
『ここに一人、誰か残しておけばユウは安全でしょ? 後で助けにくれば良い』
「…………」
『今は、現実を見て先に進まなきゃ』
いつもお腹すいたお腹すいたと言っているツキだけど、一番現実を見ているような気がするその言葉に、ボクは、歯を食いしばって小さく頷く。
「それじゃあ、誰か残して……」
それと同時に、ユウの体から炎が吹き荒れた。
それは1つの形となると、それはボクを見下ろしてきた。
「我が残ろう。使い手が目を覚ましていなくても、我ならばある程度は自由に動けるのでな」
炎が形どったのは鬼を連想させる巨漢。肘や膝などにそれぞれ角が突き出て、背中には炎の天輪がある。顔は誰もが恐れるような怖い顔をしている。元々だろうが。
そして、ユウから出てきた炎、という事で、ボクは思い当たる名前を口にだす。
「エン、グス?」
「うむ。剣では会っていたが、この姿で会うのは初めてか? ユウも常に隣に居たわけではなかったからな。当然と言えば当然か。だが悠長に話しているわけにはいかないだろう。早く行くと良い」
頷いたボクに少し口で笑ったエングス。
きびすを返して、ボクは走り出す。後ろ髪は引かれる物の、今はツキに言われた通りに塔の最上階に向かわなくては行けない。
それに、ユウのそばに居るのはユウとずっと一緒に居た神様だ。安心だろう。
「だから、大丈夫」
自分にそう言い聞かせ、扉を開けた。その先の階段へを駆け上がる。
「…………。ユウよ。ここで退場、か。お前、『これからもずっと、家族全員で一緒に居たい』という願い。叶えてやれずに、すまなかった……。後で、いくらでも罵倒を受けよう。ただそれを、他人にぶつけるのではないぞ。我がいくらでも聞こう。……まったく、神の身でありながら、個人の願いを聞こうとするのは、お前くらいだ、ユウ……」
一筋の光る物がエングスの瞳から流れる。それはまるで、別れのような涙であり、悲しみに満ちた声でもあった。
「また、我が剣を振り回してくれる日を、望んで待とう。それまではどうか、無事で居てくれ。我が愛しき炎よ」
エングスの呟きと共に、ユウの閉じた瞼から涙が溢れ出た。




